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008 ウサギの肉

「ただいまー」


 冒険者ギルドでウサギの毛皮を売った後、オレは安宿『虎穴』へと帰って来た。


 オレのギフトの【幸運】が働いたのか、ホーンラビットのドロップアイテムであるウサギの毛皮や、レアドロップアイテムであるウサギの肉のドロップ率はゲームの時よりもいい気がする。


 まだまだギフトも成長してないので微々たる差だと思うが、ギフトが成長すれば、オレはドロップ率が低いアイテムを入手する時の必須のメンバーになれるだろう。


 それに、弓の命中率もそうだ。素人のオレが動く的相手に八割以上の命中率を出したことからもわかるように、ステータスの幸運の値は、攻撃の命中率にもボーナスが入るのである。


 遠距離から攻撃力の高い弓で攻撃し、近づかれたらダガーで応戦というのが、オレの戦い方の基本になりそうだな。


 そんなことを考えていたら、血の気を失ったリーズと目が合った。リーズは口をわなわなと震わせながら、なんとか言葉を紡ぐ。


「ぎ、ギー!? 大丈夫なの!?」


 そう言うや否や、リーズが椅子を蹴飛ばすように立ち上がると、オレの体を確かめるように慌てて走って来た。


 まぁ、知人が血塗れの格好で現れたらこうなるのも無理はないかもしれない。冒険者ギルドでも受付嬢さんに心配されたしね。


「大丈夫だよ、リーズ。リーズの持たせてくれた初級ポーションのおかげで助かった」

「でも、こんなに血だらけで……。服にも穴が開いてるし……。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと油断しちゃってね」


 そう言って、オレは着ていた血塗れのシャツを捲ってみせる。少し腹筋の浮いたオレの腹には、傷一つなかった。


「だったらいいけど……。もー! 心配したんだからね!」

「ごめんよ、リーズ」

「こんな大怪我するようなら、やっぱりギーを一人でダンジョンに行かせられないわ! 次からはあたしも行くからね!」

「それもいいかもね」

「もー! 真面目に聞きないよ!」

「わかったよ。それよりも着替えてきていいかな? 血はもう乾いてるけど、ツンツンして気持ち悪いんだ」

「わかったわ。脱いだ服はあたしに預けなさい。ちゃんと洗って繕っておくから」

「ありがとう。そうだ、実はドロップアイテムを売って、少しだけど稼いできたよ」


 リーズに小銭を渡すと、リーズはなぜか怒った顔をした。


 なんで? 喜んでくれると思ったのに。


「お金よりもギーの命の方が大事よ! こんな無茶をして……」

「そっか……」


 まぁ、そうだよなぁ。オレだって、もしリーズがこんなボロボロになってたら心配するし、お金よりもリーズの方が大切だと言うだろう。


「でも、できたらこっちは貰ってほしいな」


 オレはそう言って、背中のバックパックから赤色の塊を取り出した。


「何よ、それ?」

「ウサギの肉だよ。ホーンラビットのレアドロップアイテムさ。運よく三つ手に入ったから、オレとリーズ、あとはガエルさんに食べてもらおうと思って」

「うおっ!? お前、大丈夫かよ!?」


 話をしていたら、丁度ガエルさんが食堂に顔を出した。オレの姿を見て驚いているようだ。


「もう怪我はしてないよ。それよりガエルさん、これでおいしい夕飯作ってよ」

「ならいいけどよぉ。無茶するんじゃねえぞ? で、こいつは?」

「ウサギの肉だよ。ダンジョンのホーンラビットのレアドロップアイテム」

「ほお。あれはうまいが、なかなか手に入らないって聞くぜ? 三つも手に入るとは運がいいな。よし! 俺に任せとけ。最高の夕食にしてやるよ!」


 オレからウサギの肉を受け取ったガエルさんは、ご機嫌で厨房に戻っていった。


 着替えた後、オレとリーズも食堂でウサギの肉を食べたのだが、ほっぺたが落ちるかと思うくらいおいしかった。ガエルさんはシンプルにステーキにしてくれたのだが、肉も柔らかくて、味もなんだか甘みがあり、塩を振っただけなのにめちゃくちゃうまい。これは大商会のボンボンであるガエルさんでもなかなか手に入らないというのも頷ける。


「あたし、こんなにおいしいもの生まれて初めて食べたわ!」


 テーブルの向かいでは、リーズが両手でほっぺたを押さえて幸せそうな表情を浮かべていた。その顔を見れただけでオレも幸せである。


「めちゃくちゃうまいよね、これ」

「ええ!」


 前世で奮発して食べたA5ランクの和牛もそれはもうおいしかったが、このウサギの肉も勝るとも劣らない代物だ。


 【幸運】のギフトを持つオレが一日中ダンジョンに潜って三つしか手に入らなかったからな。圧倒的に供給が足りていないのも想像に難しくない。ゲームでも高値で売れたけど、実際に売ったらいくらくらいになるんだろうね。


 資金が心許ないから金策としてウサギの肉を売るのもありだけど、これは一度食べてしまうと手放したくなくなるな。それに……。


「はぁ……」


 目の前で、リーズが悲しそうに溜息を吐いた。見れば、リーズの前に置かれたお皿には、もうステーキがない。


「終わっちゃった……」


 その悲しそうな声は、オレの心を締め付ける。


 まぁ、第一階層で手に入るウサギの肉は、ゲームの中での正確な表記ではウサギの肉(小)。つまり、そこまで量がないのだ。もっと上の階層に行けば、ウサギの肉(中)やウサギの肉(大)もあるけど、まだそこまで潜れない。


 たぶん買えないだろうから、しばらくはウサギの肉(小)で我慢するしかない。


 でも、リーズも気に入ってくれたみたいだし、また狩りに行くのもいいね。

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