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005 トウガラシ爆弾

「げふっ。じゃあ、やってみようか」

「ええ」


 クリームシチューでパンパンに膨れたお腹を撫でつつ、オレはリーズの部屋に来ていた。初めて入ったけど、リーズの部屋は殺風景な部屋だった。まぁ、安宿だから仕方がないところもあるんだけど、それでも年頃の女の子らしいアイテムが一つもない。あるのは乳鉢やすりこ木などの錬金術に必要な道具ばっかりだ。


 ゲームの初期画面を思い出すなぁ。リーズが自分のアトリエを手に入れるまで、この小さな部屋の中でやりくりするんだけど、部屋の模様替えができるのもゲームの醍醐味だった。


 例えば、ウサギのぬいぐるみを置くと、錬金術の成功率1%アップとかね。かわいいお部屋を目指すもよし、効率を求めてカオスな部屋を作るもよしだった。まぁ、オレはカオスなお部屋派閥の人間だったが。


「まずはさっきも言ったけど、トウガラシ爆弾を作ってみようか」


 オレは市場で買ってきた真っ赤なトウガラシと卵を取り出すと、リーズに渡した。


「ギー? なんでトウガラシ爆弾を作るのか訊いてもいい?」

「ああ、もちろんだよ。といっても、理由は簡単だよ? 初級ポーションより、トウガラシ爆弾の方が作るのが簡単なんだよ」

「そうなの?」


 リーズは目をパチクリさせてオレを見ていた。くぅー! かわいい! 反則級のかわいさだ!


「でも、トウガラシ爆弾なんて聞いたことがないわよ? ちゃんと売れるんでしょうね?」

「え? 売らないよ?」

「え?」

「え?」


 どうしたんだろう? 


「売らないの!? せっかく作ったのに!?」

「せっかく作ったから、取っておくんだよ。トウガラシ爆弾とか序盤はかなり使えるアイテムなのに店売りしてないからね」

「そんなにいいアイテムだったら、売れるんじゃないの?」

「どうしてそんなに売ることにこだわるの?」

「だって、売らないとお金にならないじゃない。お金が減るばっかりでは、あんなにたくさんお金があっても、いつかなくなっちゃうのよ……」


 なるほど。今まで貧乏だったからか、リーズはお金がなくなることを恐れているようだ。


「だけどトウガラシ爆弾は売っても安いんだよねー。自分たちで使った方がマシだよ。それに、金策用のアイテムはちゃんと作るから安心して」

「金策用……?」

「近いのだと初級ポーションかな。これもそんなに売値は高くないけど、需要はあるから飛ぶように売れるよ。薄利多売ってやつだね」

「はく……? えっと? ギー、どうしちゃったのよ? なんだか別人みたいに物知りになっちゃって……」


 別人だからね。


「まぁ、ここはオレのことを信じて、まずはトウガラシ爆弾を作ってみよう」

「ええ……」


 リーズは首をかしげながらも頷いてくれた。


「それで、トウガラシ爆弾はどうやって作るの?」

「そうだね……」


 どうやら今回はレシピの閃きが起きなかったみたいだ。


 オレはトウガラシ爆弾についてのゲーム知識を思い出していく。トウガラシ爆弾の材料は卵とトウガラシの二つだけ。トウガラシ爆弾のビジュアルや、フレーバーテキストを思い出す限り、どうやら卵の殻の中にすり潰したトウガラシを入れた物みたいだ。


「まずは卵の底に小さく穴を開けて、卵の中身を取り出して乾かしておく」

「こう、かしら?」


 リーズが卵の底をコンコンとテーブルに打ち付ける。卵の底に開いた穴から卵の中身を取り出していった。


「そんな感じ、そんな感じ」


 慣れてきたのか、リーズがリズミカルに卵に穴を開けて中身を取り出していく。取り出した卵の中身は、ガエルさんに渡してオムレツでも作ってもらおうかな。


「じゃあ、次はトウガラシを磨り潰していこうか」


 豪華な夕ご飯を夢想しつつ、オレはリーズと一緒にトウガラシ爆弾を作っていく。


「なんだか疲れてきたわ……」


 すりこ木でガリガリと大量のトウガラシを磨り潰していると、さっきまで元気だったのにリーズが急に疲れを訴え始めた。たぶん、MPを一気に消費したからだろう。


 錬金術で作られたアイテムは、魔力を帯びている。これは製作者が魔力を籠めてアイテムを作るからだ。だから、錬金術で作られたアイテムは、魔法のような効果を生むのである。


「疲れたなら無理しないで。一度休憩しようか」

「ええ……」


 リーズがまるで寒そうに自分の肩を抱いていた。


 抱きしめたい!


 でも、そんなことをしたらリーズに嫌われてしまうかも……。それだけは避けたいところだ。


「リーズ、よかったら、これ」


 オレは上着を脱ぐと、リーズに差し出した。我ながら一番無難な選択肢だと思う。


「ありがとう、ギー」

「うん」


 よほど寒かったのか、リーズはオレの上着を受け取ると、すぐに袖を通した。


 それだけでちょっとドキッとするのは、我ながらどうかと思う。


 でも、仕方がないじゃないか! 大好きな推しが目の前にいるんだぞ! しかも、オレの上着を着てるんだ! こんなの意識するなって方が無理ってもんだぜ!?

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