034 作戦始動
「おかわりください!」
「俺も!」
ギュスターヴがおかわりを叫び、それに喰らいつくようにジルも手を上げる。今日も『虎穴』の食堂は賑やかだ。
「おう! 待ってろよ」
ガエルさんもたくさん食べてもらえて嬉しいのか、ニコニコしている。
「はぁ、少しは遠慮というものを……」
そんな様子を見て、イザベルは一人で頭が痛いとばかりにおでこに手を当てていた。
「おいしいね、リーズ」
「ええ……」
ちょっとぼんやりとした様子のリーズ。目の下にクマもあるし、寝不足なのかもしれない。
最近のリーズは、迷いを振り切ったように精力的に錬金術の修行を積んでいるようだ。たぶん、オレのことを諦めてギーを救う決心をしたのだろう。ちょっと寂しいものを感じるが、仕方がないことだね。
「リーズ、今話すことじゃないかもしれないけど、さっきダンジョンで反魂香を手に入れたんだ。これで五つ集まった」
オレが小さな布袋を取り出してテーブルの上に置くと、リーズは目も見開いてまじまじと反魂香の入っている布袋を見ていた。
「揃ったのね。これでギーを……!」
「そうだ。でも、オレたちだけでソウルイーターに立ち向かうのは厳しい。ジルたちの協力がいる。わかるね?」
「……うん!」
リーズは立ち上がると、ジルたちの方を向いた。
「ちょっといい? 話を聞いてほしいんだけど……」
「何かしら? ジルとギュスターヴも聞きなさいな」
「お? おう」
「うん」
イザベルに促されて、ジルとギュスターヴもリーズの話を聞く体制になった。ここからだな。
「みんな、反魂香を集めてくれてありがとう。急だけど、あたしの話を聞いてほしいの。あたしとギスケは、近いうちに森のバケモノを倒しに行くわ。いきなりこんなことを言うのも変だけど、みんなには森のバケモノを倒すのを手伝ってほしい。あたしの大切な人の命が懸かっているの。お願いします。みんなの力を貸してください」
「オレからも頼む。みんな、力を貸してくれ」
リーズとオレはジルたちに向かって深く頭を下げた。見ず知らずの人間のために命を懸けろと言っているのだ。これぐらい当たり前である。
ジルたちには事前に話を通したが、まだジルたちの答えを聞いていない。もし嫌だと言われれば……オレ一人でもソウルイーターに挑むつもりだ。
「頭を上げてくれよ。そんなことされなくたって、俺たちは力を貸すぜ! だよな?」
「うん! 任せてよ」
「ほんと!? ほんとにいいの!?」
あまりに話がスムーズに進んで驚いたのか、隣のリーズが目を白黒させていた。そんな姿もウルトラチャーミングである。罪な女だぜ。
「イザベルは!? ほんとにいいの!?」
リーズがイザベルに問う。リーズも『狼の爪牙』の真のリーダーはイザベルだとわかっているのだろう。たぶん、イザベルがノーと言えば、ノーになってしまう。
リーズとオレが真剣に見つめる先、イザベルはチラリとオレを見ると、リーズに向かって口を開いた。
「いいわ、手伝ってあげる」
「ほんと!?」
「私たちにも利のあるお話ですもの」
「ありがとう、イザベル!」
「おふッ!?」
リーズがイザベルにタックルするように抱き付く姿を見て、オレはイザベルが羨ましくなると同時にホッとした。ジルもギュスターヴも頷いてくれたし、イザベルも賛成してくれた。これで『狼の爪牙』のメンバーを戦力として数えられる。
「ありがとうジル、ギュスターヴ。二人が協力してくれて嬉しいよ」
そう言うと、ジルがおもむろに肩を組んできた。
「水くせーこといってんじゃねーよ! お前らはもう『狼の爪牙』のメンバーだぜ? メンバーが困ってるんなら、全力で助けるのがパーティってもんだろ? な?」
「うん、うん」
この二人は掛け値なしに、本気で言ってるんだろうなぁ。ゲームのシナリオを通して知っていたけど、本当に良い奴らだ。
その後、オレたちは今後の予定を立てていった。
オレ、ジル、ギュスターヴ、イザベルの四人は、ダンジョンの第十階層をできる限り周回することになった。これは四人のレベルを少しでも上げて戦力を上げるためだ。
そして、リーズには今回のソウルイーター討伐の要である護魂符を作ってもらう。こちらは今日中に五つ完成するらしい。
いよいよ明日はソウルイーター討伐……といきたいところだが、明日は一日お休みである。
連日のダンジョン攻略で疲れが溜まっているからね。リーズやイザベルの消耗したMPも回復させないといけない。だから一日オフを設けた。これはゲームの知識だけだったら出なかった選択肢だ。次の日になればHPやMPは全回復していたからね。ゲームだったら、わざわざ一日休むなんてことはしなかった。
でも、この世界はゲームに似ているがゲームじゃない。オレが気が付かなかっただけで、他にもゲームとの違いなんて山ほどあるだろう。
今回のギーの魂救出作戦は、絶対に失敗できない。そのためにも前日を休みにして万全の状態で挑むというのは理に適っている気がした。
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