031 真実
「そんな……。そんなのって……」
あたし、リーズはクレマンスさんから貰った古い錬金術の本を見て愕然としていた。
本はあたしにいろんなことを教えてくれた。でも、中には知りたくなかったことまで書いてあったのだ。
それは、一つの体に入ることができる魂は一つだけだということ。
最初、それが意味することをすぐに理解できなかった。
つまり、ギーの体に入ることができる魂は一つだけだということに気が付いた時、あたしは愕然としてしまった。
これまであまり深く考えてこなかったけど……いえ、きっとあたしは無意識に考えるのをやめていたのね。真実に気が付くのが怖くて。
でも、一つの体に一つの魂というのは、考えれば当たり前のことかもしれない。
だとすると、ギスケの魂はどうなるの?
あたしたちは今、ギーの魂を助けるためにソウルイーターに挑もうとしている。ギスケの言っていた護魂符のレシピもちゃんと書いてあった。これですべてが上手くいくと思ったのに……。
ギーの体に入ることができる魂は一つだけだ。体はより相性のいい方の魂を受け入れるから、ギーの体にはギーの魂が入るのは間違いない。
でもそうすると、ギスケの魂はギーの体から弾かれることになる。
本によると、体を持たない魂は、時間経過とともに消滅してしまうらしい。
このままだと、ギスケの魂が消えちゃう!
「ギスケ……」
彼の言葉が本当なら、ギスケと過ごした時間はあまりにも少ない。でも、ギスケの存在はあたしの心を鷲掴みしたように離さない。
「ギスケ……!」
なんとかしないと!
たしかにギーのことも助けたい。時間が残り少ないのもわかっている。でも、そのためにギスケを犠牲にしなくちゃいけないなんて絶対に嫌だ!
「なんとか、なんとかしないと……!」
あたしはのめり込むように錬金術の本を読み漁るのだった。
◇
「驚いたわね……」
「すげー量だな……」
「すごいね……」
イザベルたちが驚いてオレがゴーレム屋敷から持ち帰ったアイテムたちを見ていた。
今はゴーレムたちに貰ったアイテムを持ってバローの街に帰ってきたところである。バローの街の東の門前広場の一角には、こんもりとオレの持ち帰ったアイテムが山になっていた。
「どうだ? これでオレの言うことを信じてくれる気になったか?」
「そうね……。少しは考えてみてもいいかしら」
「俺は信じるぜ! あのゴーレムの前に立ったギーの胆力を称えてな!」
「僕も。ゴーレム屋敷からこんなにアイテムを持ち帰るなんてすごいよ!」
うんうん。少しはインパクトを与えることに成功したな。問題はイザベルだが……。
イザベルは没落した貴族の娘。家の再興が目標だ。そのために名誉を求めて冒険者をしている。ソウルイーターの問題を解決すれば、イザベルの評価も上がる。そこから攻めていけば、まぁ、なんとかなるだろう。たぶん。
「それで? そのアイテムの山はどうするつもりなの?」
「これ? 持ち帰りたいんだけど、協力してくれない? オレ一人じゃ持てなくてさ……」
「はぁ……。わかったわ」
持ち帰ったアイテムの内容は、錬金術の成功率の上がる装備が一式とその他は希少な錬金術用のアイテムだ。これらはオレがいなくなった後もきっとリーズの役に立ってくれるだろう。
その後、オレはジルたち三人に手伝ってもらって装備やアイテムの山を『虎穴』へと運んだ。リーズが見たらきっとビックリするだろうな。
さっそくリーズを驚かそうと彼女の部屋を訪ねる。
「リーズ、ちょっと話があるんだけど」
しかし、いくら呼んでもリーズが出てくる気配がない。寝てるのかな?
「リーズ! 寝てるの? ちょっと話があるんだけど!」
少し心配になって、オレはドアを叩いてリーズを呼んだ。
しばらくすると、ドアのカギがガチャリと開きリーズがのっそりと顔を出す。まるで生気のない顔だった。泣いていたのか、目元が赤い。
「リーズ!? 大丈夫!?」
「ギスケ、あたし……」
「おっと……」
リーズが倒れるようにオレの胸に飛び込んできた。突然のことにオレの頭はもうクラッシュ寸前だ。あ、いい匂い……。
「どうしたの?」
平然なフリをしてリーズに問いかけると、彼女は顔を俯かせてしまう。
「ギスケ……。あたし、知らなかったの……。このままだとギスケが……ギスケが……」
「オレが……?」
リーズは取り乱しているのかもしれない。
オレはリーズの肩に手を置くと、なるべくゆっくりとした優しい口調でリーズに問いかける。
「大丈夫だよ、リーズ。オレはここにいる。いったいどうしたの?」
「ギスケ……。なにも大丈夫じゃないのよ……。そのままだとギスケの魂は、しょ、消滅してしまうの……」
「あぁー……」
なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱりそうなるか。
ギーの体は一つなのに、魂は二つあるなんておかしな状態だもんな。オレの魂は、ギーを救ったらやっぱりこの体から弾き出されるのだろう。
魂の状態って幽霊みたいなものだろうか?
でも、リーズは消滅しちゃうって言ってたな。たぶん幽霊のようになれても長くはもたないのだろう。
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