030 ゴーレム屋敷
「ゴーレムと交渉? そんなことが可能なの?」
イザベルはまったく信じていない顔でオレを見ていた。まぁ、あいては無機物だからね。疑うのもわかる。
「可能だよ。古代人の魂であるオレならね」
「そう……。あくまで自分を古代人だと言い張るのね。できるものならやってみなさいな」
「ああ。もし仮にできたとしたら、森のバケモノはソウルイーターというモンスターという話を信じてくれないか? そして、可能なら討伐に協力してほしい」
「考えるくらいはしてあげるわよ……」
イザベルのガードは固いなぁ。まぁ、自分の命が懸かっているからね。慎重になるのも頷ける。
だが、イザベルなら交渉の余地はある。
「イザベル、バローの街若手で一番の『暁の英雄』が失敗したクエストをオレたちが完遂する。するとどうなると思う?」
「……あなた、どこまで知っているの?」
イザベルの目がスッと細められた。その目の奥底には警戒と敵意が見える気がした。
「噂ぐらいしか知らないよ。キミも隠しているわけじゃないんだろ? そして、オレはキミに敵対したいわけじゃない」
「……いいわ。今は信じてあげる」
ふんっとオレから顔を逸らすイザベル。イザベルの好感度は確実に下がった気がするけど、イザベルという強力な戦力は、ぜひともソウルイーター戦に欲しい。
すべてはリーズのためだ。そのためならば、オレはなんでもやるぞ。
「んでよ? つまりはどうなったんだ?」
「僕たちにもわかるように説明してよ」
置いてけぼりだったジルとギュスターヴが声をあげたのはその直後だった。たぶん、オレとイザベルの話が終わるのを待っていたのだろう。意外と礼儀正しいところがあるね。もしかしたらイザベルの教育の成果なのかもしれない。
「これから街の外れにあるゴーレム屋敷に行こう。もしオレがゴーレムから武器を貰うことができたら、森のバケモノがソウルイーターだというオレの話を信じてほしい」
そう言うと、ジルとギュスターヴはお互いに顔を見合わせていた。
「ゴーレム屋敷ってあれだろ? でっけーゴーレムが守ってるボロボロの屋敷だろ? そんな所にアイテムなんてあるのか?」
「というか、あそこは立ち入り禁止だったような……」
不思議そうな顔をするジルと不安そうな顔をするギュスターヴ。
「まあ見ていてよ。さっそく行こう」
そんなわけで、オレたちは一度ダンジョンを出て、バローの街の東の外れにあるゴーレム屋敷へと足を運んだ。
ゴーレム屋敷は、街を守るために築かれた防壁の外にある。ゲームではモンスターは出現しなかったが、念のため警戒が必要だ。
「ここがゴーレム屋敷か……」
木々に囲まれた中、まず最初に見えてきたのは大きな土偶のようなゴーレムだ。四メートルはありそうなほど巨大なゴーレムで、かなりインパクトがある。
そのゴーレムの後ろには、ゴーレムよりも大きな屋敷というよりも砦のような朽ちかけた石造りの建物があった。
「デケェ……。あんなの勝てるのか……?」
「ジルくん、べつに戦うわけじゃないから」
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
そう言いながら、オレは背負っていた長弓と矢筒、腰の二本のダガーを外していく。ゴーレムと対話する時は、武器を装備してはいけないのだ。
「そんなことはないだろうけど、もしオレがゴーレムに襲われたら、みんなも戦わずに逃げてくれ。今はまだ勝てないからね」
それだけ言うと、オレは丸腰でゴーレムの方へと歩いて行く。襲われないとわかっていてもその大きさは本能的な恐怖を想起させた。
ゴーレムの目の前に立つ。
よく見ると、ゴーレムは小さな欠けや傷で傷だらけだった。それだけ長い間、この場所を守ってきたのだろう。
「まほろばのゆめ」
そう呟くと、ゴーレムの目にあたる部分がピカッと青色に光った。
一応腰を落として、すぐに逃げられるように構えていたが、それは杞憂に終わる。
しばらくすると、屋敷の方からなにか出てきた。小さなゴーレムだ。その手は頭上に掲げるように上げられ、その手には石のトレイが持っている。トレイには、一組の手袋が乗せられていた。
足元まで来た小さなゴーレムから手袋を受け取る。小さなゴーレムはそのまま屋敷の中に帰っていった。
よかった。どうなるかと思ったが、ゲーム通りに上手くいったようだね。
実はこのゴーレム屋敷、初心者救済のためのシステムなのだ。ゴーレム屋敷の前で正しい合言葉を入力すると、序盤では役立つアイテムが貰えるのだ。
オレは廃人の嗜みとして合言葉をすべて覚えている。
ゴーレム屋敷にはいつか行こうと思いつつも後回しにしていたが、ちょうどいい機会だ。このまますべてのアイテムを回収してしまおう。
「つきのいずみ、いばらのけん、くろきびゃくや……」
そのまま、オレは覚えているすべての合言葉を唱えていくのだった。
その度にゴーレムの目がピカッと青く光り、ミニゴーレムがアイテムを持ってきた。
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