029 説得
「それがギーの欲しがっていたものかしら?」
「そうだよ。これがあと四つは必要だ」
「それも錬金術の素材なの?」
「ああ」
オレはイザベルに頷いて返す。
そういえば、オレは彼らになぜ反魂香を集めているのか説明していなかったな。
「歩きながら話そうか。ちょっと長くなるんだが……。ジルたちは森に出るっていう正体不明の骨のバケモノを知っているか?」
「あれだろ? 『暁の英雄』が返り討ちに遭ったモンスターだろ? たぶん、この街の冒険者で知らない奴はいないぜ?」
「そうなんだ……」
どうやらオレの想像以上に噂になっているみたいだな。
「バケモノの正体だが、オレはソウルイーターだと思っている」
「そうるいーたー? それって何?」
ゲームの設定でもあったが、やはり伝承は途絶えているのだろう。みんな知らなそうだ。
「人の魂を食べる骨のバケモノだ。こいつに襲われると魂を食われる。魂を食われた人は、目を覚ますことなく徐々に衰弱して死に至る」
「おいおい、それって……」
「似てるわね。『暁の英雄』の状態と……。でも、森のバケモノは冒険者ギルドでも正体がつかめていないのよ? なぜあなたが知っているのよ?」
うぅーん、どうしよう? 説明がしにくいし、とぼけておくか。
「それはまだ秘密だ。それよりオレがこの反魂香を集めている理由についてだ」
「…………」
質問をはぐらかされたイザベルは、睨むような怖い顔でオレを見ていた。
「オレはソウルイーターに対抗するために反魂香を集めている。錬金術で護魂符という魂を守ってくれるアイテムがあるんだが、反魂香はその素材になるんだ」
「ちょっと待って。集めている数は五つって言ったわよね? それって――――」
頭のいいイザベルは、オレがなにをしようとしているのか気が付いたようだ。ジルとギュスターヴはまだピンときていないのか、不思議そうな顔で焦ったイザベルを見ている。
「そうだ。集める反魂香の数は五つ。できる護魂符の数も五つ。オレたちでソウルイーターを倒さないか?」
「やっぱり……」
イザベルは悪い予感が当たったとばかりにおでこを手で押さえていた。
「いいぜ! 『暁の英雄』の連中でも倒せなかったバケモノを俺たちで倒す! 最高じゃねえか!」
意外にも乗り気なのはジルだった。まぁ、強敵との死闘を求めているジルには願ってもない話なのかもしれない。
「ジル、あなたは少しは考えてからものを話しなさいな。相手は未知のモンスターよ? ギーの言ってることも本当かどうかわからないのに」
まぁ、そうだよなぁ。イザベルの言うことももっともだ。オレはジルたちのことをゲームを通して知っているけど、ジルたちにとってみれば、まだ会って間もない間柄でしかない。
なんとか信じてほしいところだが……。
ん? あれなんかいいんじゃないか?
オレは頭の中でそれっぽいストーリーを作り上げていく。
「聞いてくれ。言おうかどうか悩んでいたんだが、オレはギーの体を間借りしているだけで、本当はキミたちの言うところの古代人なんだ」
「はあ? あなた、何言ってるの?」
イザベルはもう完全にオレのことを信じていない目で見ている。ジルとギュスターヴもきょとん顔だ。
「すぐには信じられないのもわかるつもりだ。だが、ギーは一度ソウルイーターに襲われて、魂を奪われているんだ。そして、その空いた体にオレが入ったわけだな。伝承は途絶えてしまったようだが、オレたち古代人は魂奪の魔王という恐ろしいバケモノと戦っていたんだ。その結果、我々古代人の文明は滅びてしまったが、魂奪の魔王を封印することに成功した。だが、魂奪の魔王の封印は永遠ではない。もうすぐにでも破られそうなほど弱まっている。今回現れた森のバケモノは、魂奪の魔王の封印が弱まったせいで出てきた魔王の手先なんだ」
「そんな話聞いたことがないわね。古代人がいたのも本当、独自の文明を築き上げ、そして滅んだのも本当よ。でも、魂奪の魔王なんて聞いたことがない。適当言っているだけなんじゃないでしょうね?」
イザベルが嘘は許さないとばかりにオレを睨んでくる。
古代人がいたなんて知っているのは、一部の知識層だけだ。さすが、没落したとはいえ貴族の娘だね。
ジルとギュスターヴなんてもうポカンとした顔を浮かべているだけだ。
「じゃあ、証明しよう。オレが古代人の魂だということを」
「どうやってかしら? 言っておくけど、わたしはチャチな手品では信じないわよ?」
「わかってるよ。この街の中に、ゴーレム屋敷と呼ばれる遺跡があったはずだ。知っているかい?」
「知ってるわ。難攻不落のゴーレムが守る謎のお屋敷でしょう? ゴーレムは屋敷に入ろうとしない限り暴れないから見逃されているけど……。それがどうかしたのかしら?」
「あれは古代人に所縁のある者が作った墳墓なんだ。中には主の死体とさまざまなアイテムが眠っている。オレがゴーレムと交渉して、屋敷の中にあるアイテムを貰うよ」
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