025 禁書
「あんたたち、世話になったねぇ」
目の前の本屋の番台には、クレマンスの元気な姿があった。クレマンスの病気は、リーズの作った薬で完治したのだ。
あの後、教会で目を覚ましたクレマンスだったが、二日ほど養生するとすぐに元気になった。今日なんていつものように店を開けて番台に座っているくらいである。
「クレマンスさん、元気になってよかったわ」
「イーヒヒヒヒッ。まだまだお迎えは来ないようだねぇ」
教会で養生したからか、初めて会った時よりも肌の艶がいいし、ちょっと若返ったようにも見えるんだよなぁ。すげえ。
「あんたたちにはお礼をしないとねぇ。それで? いくら欲しいんだい?」
「お金なんて貰えないわよ! 困った時は助け合いなんだから」
「助け合いねぇ……」
リーズの言葉に感じるものがあったのか、クレマンスが黙りこくってしまった。
「あの? クレマンスさん?」
そのまま二分ほど時間が経つと、クレマンスがくわっと目を見開く。
「ちょっと待ってな」
そう言うと、いつものように店の奥へと引っ込んでいくクレマンス。
「どうしたのかしら?」
リーズは不思議そうに首をかしげているが、オレは知っている。この後、クレマンスは禁書をリーズに託すのだ。そして、その禁書の中には、ソウルイーターに魂を奪われないために必要な護魂符のレシピもある。
護魂符があれば、ソウルイーターは恐れるような脅威じゃない。これでも物語が一気に進むぞ。
「ヒヒッ。まったく、重たいねぇ……」
奥から戻ってきたクレマンスは、一冊の古びた本を持っていた。豪華な装丁がされた高そうな本だ。
あれが禁書か。ゲームで見たグラフィックとよく似ている。
「よいせっと。あんた、リーズとか言ったねぇ?」
「そうよ」
「これをあんたにやる!」
「これって?」
「恐ろしく古い錬金術の本さね。うちじゃ一番のお宝だねぇ。リーズも錬金術師なんだろう? これはきっとあんたの役に立ってくれるよぉ。そんな気がするんだぁ」
「錬金術の本……!」
リーズが弾かれたようにオレを見た。オレは頷くことで返す。
「ありがとう、クレマンスさん! 大事にするね!」
「ヒヒッ。立派な錬金術師になるんだねぇ」
「うん!」
◇
「これがギスケの言ってた必要な物?」
本屋からの帰り道、大事そうに古い本を抱いたリーズが問いかけてきた。その赤い瞳は、期待に揺れている。
「そうだよ。その本は、魂の扱いについて書かれているんだ。護魂符の作り方もその本に書いてあるはずだよ。それがあれば、ギーを助けに行ける」
「ギスケって本当になんでも知っているのね。普通は知らないはずよね? なんで? なんで知ってるの?」
「それは……」
うーん……。前世でゲームをしたからだけど、ちょっと説明が難しいな。
どう説明しようか迷っていると、リーズが神妙な顔で口を開く。
「ひょっとして、神様なの?」
「え? 違うよ?」
どうして神様なんて言葉が出てきたんだろう?
「そうよね。言えないわよね。そういうことにしておいてあげるわ」
「え? あ、ちょっと!?」
リーズはひとりでに納得して何度も頷いた後、速足で歩き始めた。
「早く読みたいの。急ぐわよ!」
「待ってよ、リーズ」
◇
その後、常宿にしている『虎穴』に帰ったオレたち。リーズはガエルの作ってくれた昼食を食べると、すぐに部屋に戻ってしまった。きっと禁書を読むつもりなのだろう。
リーズには護魂符を作ってもらわなくてはいけない。オレはそのサポートをしないとな。
まだギーの魂は無事だ。それはなんとなく勘のようなものでわかる。だが、いつまでも無事なわけではない。できる限りソウルイーターの討伐を急いだ方がいいのは事実だ。
そうなってくると、護魂符の材料の問題が出てくる。いくら作り方を知っていても、材料がなくてはどうしようもない。
「となると、ダンジョンだな……」
護魂符の材料はその大半が店で買えるが、一つだけダンジョンで手に入れないといけないものがある。それが反魂香と呼ばれる香木の一つだ。これがドロップするのは、ダンジョンの第十階層の階層ボスを倒す必要がある。
第十階層のボスのレアドロップが反魂香なのだ。これが少なくともオレとリーズの分、二つは必要だ。
問題は、『狼の爪牙』のメンバーがソウルイーター狩りに協力してくれるかどうかだが……。このあたりも根回ししておかないとな。
とりあえず、ジルたち『狼の爪牙』のみんなに会いに行こう。ソウルイーター討伐に力を貸してもらえなくても、第十階層の攻略には力を貸してくれるはずだし。
それに、ここ最近クレマンスのことがあって『狼の爪牙』の誘いを断り続けていた。その埋め合わせもしないとな。
「そういえば、ジルたちってどこにいるんだろう?」
ゲームではパーティに編成すれば勝手に冒険に付いて来たが、現実はそんなに便利じゃない。まずは会って話さないと。
「冒険者ギルドに行ってみるか」
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