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023 真実の開示

 その日の夜。オレは常宿にしている『虎穴』のリーズの部屋へと来ていた。


 錬金術の道具が並ぶ狭い部屋の中。オレは椅子、リーズはベッドに腰かけてお互いを見ていた。


「それで、話って何?」


 リーズは胸の前で腕を組んで、ちょっと顔が赤い。どうしたんだろう? まだお酒でも残っているのかな?


「これからリーズの将来を決めるかもしれない大切な話をするね。よく聞いてくれ」

「ッ!?」


 リーズがぶるりと体を震わせて神妙な顔をして頷いた。


「まず、どちらから話そうか……。リーズは今日のイザベルたちの話を覚えてる? 骨のバケモノの話だけど……」

「え? ええ。たぶん、あたしたちが襲われたのと同じバケモノよね? それがどうかしたの?」

「ああ。すべてはそのバケモノ、ソウルイーターから始まっている。あれは人を襲ってその魂を食べる魔物なんだ。そして魂を奪われたら、人は昏睡状態になって次第に衰弱し、最終的には死ぬことになる」

「…………」


 もうリーズの顔に赤みはない。オレの言葉を咀嚼するように真剣な顔で話を聞いていた。


「どうしてギーがそんなことを知っているの? それに、ギーはそのバケモノに襲われても目を覚ましたわよね? どういうこと?」


 そう。結局はそこに行きつく。


 これから話すことは、リーズにとって信じたくないことだろう。でも、話さなくてはならない。ちょっとしたら、オレはリーズに嫌われてしまうかもしれない。それは怖いし恐ろしい。絶対に嫌だ。でも、すべてを決めるのはリーズであってほしい。


「リーズ、残念だけどギーは目を覚ましていないんだ」

「……どういうこと?」

「オレは……ギーじゃない。ギーの体を間借りしているだけなんだ。本物のギーの魂は、ソウルイーターに囚われている」

「…………」


 リーズは取り乱したりはしなかった。ただ、真剣な表情でオレを見ている。その顔がどんどんと青ざめていくのがわかった。


「ギーがそのソウルイーターに襲われてから入れ替わったの……?」

「そうだ。教会で目を覚ましてからのオレはギーじゃない。ギーの体だけど、ギー本人ではないんだ。今まで言い出せなくてすまなかった。騙すようなマネをしてすまなかった……」

「そういうこと……」


 怒り出すか泣き出すか、そう思っていたけど、リーズは意外にも納得したような顔をしていた。


「怒らないの……?」

「あたしもね、不思議なものを感じていたのよ。だって、ソウルイーターに襲われてからのギーは、まるで今までのギーとは違ったもの。ギーは自分のことボクって呼ぶのよ。それに、口では威勢のいいこというけど、本当は人一倍臆病で……。だからたぶん、あなたにはあたしを騙すつもりはなかったんじゃないかなって。そう思ったの。それより聞かせて。ギーを助けることはできないの?」

「できるはずだ。ギーの魂はソウルイーターに食べられたけど、まだ消化されたわけじゃない」


 ゲームでは、ソウルイーターを倒したら、ソウルイーターに襲われて今まで昏睡状態だった人々が目を覚ました。ギーの魂も消化される前にソウルイーターを倒せば助かるはずだ。


 その時、オレの魂はどうなるのかわからない。ギーの体に残れるのか、弾き出されるのか。弾き出された場合、どうなるのかも不明だ。


 でも、リーズにとってはオレなんかよりもギーの方が大事だろう。リーズ本人は気付いているかわからないけど、ギーのことを愛しているしね。


 オレはただ、リーズとギーが幸せになるための土台でいい。ゲーム本編では叶えられなかったリーズの本当の望みを叶えることができるんだ。ゲーマーとして、ファンとして、これ以上のことはない。


「だったら今すぐにでも!」


 リーズが居ても立っても居られないとばかりに立ち上がる。オレの話を聞いてる時は冷静なように見えたけど、本当は気が動転しているのかもしれないね。


「リーズ、待ってくれ。ギーを助けるにはいくつか手順を踏む必要があるんだ」

「手順? そんなの無視よ! もたもたしてたらギーが食べられちゃう!」


 今にもドアを開けて出て行きそうなリーズを羽交い締めにする。


「落ち着いてくれ。今のままソウルイーターと戦っても魂を奪われて負けるだけだよ」

「でも!」

「まずは、護魂符を作るんだ。それがあれば、ソウルイーターに魂を奪われない」

「ごこんふ……? あたし、作り方知らないわよ? どうするのよ!?」

「オレがレシピのありかを知ってる。ギーを助けに行くのはその後だ。だから、落ち着いてくれ」

「でも! でも!」

「オレにはわかる。ギーの魂が消化されるまでにはまだ時間がある!」


 肉体と魂には密接な関係がある。ギーの肉体が、まだギーの魂が無事であることを教えてくれる。


 ゲームではオープニングですぐに衰弱死してしまったギーだが、オレの魂が入っているからか、衰弱死の兆候もない。


 だが、時間が残り少ないのも事実だ。


「頼むよリーズ、失敗はできないんだ、冷静になってくれ。ギーの魂を救うために」

「ギーの魂を救うために……」


 オレの手を振り解こうとしていたリーズの動きが止まる。


「そう。これからオレの知る限りの情報をリーズに教える。それを聞いてからでも遅くはないだろ?」

「……いいわ、聞かせなさい!」

「わかったよ」


 オレはリーズを羽交い絞めにしたまま知る限りの情報をリーズに話した。

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