002 金策
「くれぐれもご自愛ください」
「ああ……。ありがとうございました……」
オレとリーズは、中年の神官に見送られて教会を後にした。病院みたいだなと思った白い部屋は、教会の医務室だったらしい。
この世界には、回復魔法がある。回復魔法はギフトによってもたらされる神の力として、教会は回復魔法を使える人材を積極的に集めているのだ。まぁ、教会が病院を兼ねているようなものだね。
当然だが、無料ではなく治療費も取られる。おかげでオレの財布はすっからかんだ。
オレとリーズは孤児だから、代わりに治療費を払ってくれる親なんていない。
お金がないのはかなりきついな。オレはゲームの知識でお金の増やし方はいくつも知っているが、元手がなければどうしようもない。
かといって、リーズに借りるというのも……。
チラッと隣のリーズを見れば、肩を落としてトボトボと歩いていた。
おそらく、寝不足だろう。昨日は寝ずにオレの看病してくれていたみたいだし。やっぱりリーズは優しい子だな。
そんな状態のリーズにお金貸してなんて言えるか? 必ず増やして返すからって。どこのクズだよ……。
「はぁ……」
だが、やるしかないか……。せっかくお金が増えるイベントがあるのに、逃す手はない。それに、オレの持つゲーム知識がこの世界でも通用するのかの確認にもなる。
一石二鳥だ。やるしかない。
「リーズ、頼みがあるんだが……」
「え……?」
リーズがゆっくりと顔を上げてオレを見上げた。その顔は精細欠いているのが見て取れる。すっごい眠そうだ。ギーが目を覚ましたから、緊張の糸が解けてしまったのだろう。
今からこの少女を絶望させるのかと思うと悪い気がするが、今しかできない金策なんだ。許してほしい。
「お金貸してくれない?」
「え? ああ、当面の生活費? でも、あたしもあまりお金を持っているわけではないのよね。少しだけよ……」
そう言って、自分のポシェットを漁るリーズ。意外にもすんなりお金を借りることができて、ちょっと拍子抜けしてしまったほどだ。
「返すのはいつでもいいから、大切に使いなさいよ」
「ありがとう、リーズ。助かるよ」
「いえいえ」
これで金策ができるな!
だが、人の信用を失うのは一瞬なんて言葉もある。オレもリーズの信用を失わないようにしないとな。
まずはこのお金を元手に、ガッポガッポ儲けてやるぜ!
今のオレとリーズには、圧倒的に資金が足りない。資金がないと、錬金術の腕を磨くことも、錬金術の研究もできない。オレは知識と資金面でリーズを力強く支えるんだ。
オレもリーズの隣に立つのに相応しい男になるためにがんばらないと!
「じゃあな、しっかり寝てくれよ」
「ええ……」
決意を新たにしたオレは、リーズを宿に送り届けると、ギーの記憶を頼りに街の中を進んでいく。
まだ朝と呼べる時間帯の街は、それでも大いに賑わっていた。荷馬車が大通りを駆け回り、多くの人々が道を行き交っている。市場や屋台も軒を連ね、活気があるね。
道の先には、街を囲うように高い石の城壁があり、ここが日本ではないことを嫌でも理解させられた。
道の両脇には、鋭く尖った屋根の家々が立ち並び、この地域が豪雪地帯であることを物語っていた。
ゲームでも厳しい冬の生活が描かれていたし、これはますますゲーム知識の信憑性が上がってきたな。
ないとは思うが、前世の記憶はすべてオレの妄想なんてこともありえるからな。ただ鵜吞みにするだけではなく、ちゃんと確かめないと。
それにしても、まさかゲームの世界に来られるとは人生何が起こるかわからんな。ゲームで見た通りの街並みが広がっていて感無量だね。めっちゃわくわくする。トキめいていると言っても過言じゃない。これは恋だね。
そんなオレがやってきたのは、街の外周にあるあまり治安のよくないエリアだ。これ以上先はスラムという所で、なんだかワーワーと賑やかな声が聞こえてきた。目的地が近そうだ。
オレは野次のような声に導かれるようにその場所に向かう。
「がんばれよ!」
「負けたら承知しねえぞ!」
「ぶっ殺せ!」
「ヤったれあんちゃん!」
そこは、崩れた家々やテントのような簡単な作りの家が立ち並ぶ中に唐突に現れた広場だった。広場の中央は簡素な柵で丸く区切られ、多くの人々が柵を囲うように人垣を作っており、柵の中に向けて野次を飛ばしている。
柵の中では、筋骨隆々とした男が二人向かい合っていた。きっとこれから殴り合うのだろう。どちらも太々しい顔つきの男たちだ。
「ここが賭博場か……」
ゲームでは襲われることもなかったので気軽に出入りしていたが、実際に男たちの熱気を目の当たりにするとちょっと怖い。治安もよろしくないらしいし、気を付けないとな。
「だが、これも金のため……。リーズのため……。いくぞ……!」
オレはリーズに借りたお金を握りしめると、賭博場へと足を踏み入れた。
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