019 『狼の爪牙』②
「ギュスターヴとイザベルはどう思う?」
「僕はいいんじゃないかなと思うよ」
「問題は、私たちが錬金術師について無知だということよ。判断材料がないわ。でも、お試しで何度か一緒にダンジョンに潜るのはありじゃないかしら? その上で改めて判断すればいいわ」
ジルの問いかけにギュスターヴとイザベルが答え、ジルは大きく頷いた。
「そういう方法もあるか。じゃあ、そうしよう。とりあえず、よろしくな」
「ああ」
「よろしくね」
なんだか、トライアル雇用みたいな感じだな。
まぁ、こちらは二人で、あちらは三人。しかももうパーティを組んでリーダーもいる。あちらが主導権を握るのは当たり前か。ゲームではなかった展開だな。
でも考えてみれば、成人したばかりで冒険者としても初心者であるリーズにパーティのリーダーを普通は任せないよな。
「じゃあ、明日さっそく潜ろうぜ! ギーとリーズはいけるか?」
「ああ」
「ええ」
「決まりだな。じゃあ、これで解散して――――」
「待ちなさい、ジル。これで解散なんてできるわけがないでしょ。今日はこのまま各自のできることと連携について考えるわよ」
「マジかよ、イザベル。連携ってのはその場のノリみたいなもんだぜ? 事前に決めておくようなもんじゃねえって」
「それができるのは一部の人間だけよ。それに、まだ自己紹介もまともにしてないじゃない。これは決定よ」
「リーダーって俺だよな……?」
「ジルくんドンマイ……」
なんとなく力関係が見えるやり取りだなぁ。ジルがパーティのリーダーだけど、実質的なリーダーはイザベルって感じか。
「そっちの二人もそれでいいかしら?」
「ああ」
「ええ」
「ありがとう。ジル、ギルドで部屋を借りてきてちょうだい」
「は? なんで俺が……」
「あなたがこのパーティのリーダーでしょう?」
「……わかったよ」
イザベルにリーダーと呼ばれて渋々従うジル。なんだかリーダーというより雑用係みたいな扱いだな。
「すごいわね……」
「そうだね……」
リーズが小声で言ってきたので、オレは頷いておいた。イザベルか。なんだか女傑という言葉が似合う少女だ。
◇
それなりの広さがある会議室。その中央には大きめの丸テーブルが据えられていた。ジルがギルドから借りてきてくれた部屋だ。オレたちはとりあえず椅子に座ると、イザベルが立ち上がった。
「最初は軽く自己紹介から始めましょうか。まず初めに、言い出しっぺの私からいくわね。私はイザベル。恰好を見ればわかると思うけど、魔法使いよ。好きなものは頭のいい人、嫌いなものは話の通じない人。これぐらいかしら? 次はジルお願い」
「おう!」
ジルが勢いよく立ち上がると、腕を組んで口を開く。
「俺がジルだ!」
え? 終わり?
「ジル、それだけだとわからないから、好きなものでも言っておきなさい」
「そうか? 好きなものは肉とチーズたっぷりのオムレツだ! 言っておくが、俺は野菜は嫌いだぜ?」
「心底どうでもいいわね。次はギュスターヴ」
「うん」
「どうしてイザベルが仕切ってんだよ……」
「えっと、僕はギュスターヴ。パーティのタンクをやってるよ。好きなものは……」
その時、ギュスターヴの視線が一瞬だけイザベルを見た気がした。
「その、僕もオムレツが好きかな。というか、卵が好きなんだ。茹で卵も好きだし、ポーチドエッグも大好きだよ。特に好きなのは、やっぱりキッシュかな」
ゲーム知識で知ってはいたけど、ギュスターヴは本当に食べることが大好きみたいだな。愛嬌のある顔だちをしているからか、なんだかかわいらしい。
それにしても、個性的な奴らだな。ゲームでも登場した彼らの新しい一面を見つけたみたいで楽しい気分だ。
「次はギー、お願いできる?」
「ああ」
場を仕切っているイザベルに言われて、オレは立ち上がった。
「オレはギー。主に弓とダガーを使う。好きなものは……リーズ。以上だ」
「あなたたち、そういう関係なの?」
「ちちち、違いわよ! もう! ギー? からかわないでよ! 本気にされちゃうじゃない!」
「オレはいつでも本気だが?」
「もー! もー!」
顔を赤らめて、必死に腕を振ってリーズが否定している。そんなリーズが愛おしくて堪らない。
くそっ! なんでオレの脳にはムービー機能が無いんだ! オレはこれほど自分がただの人間であることを恨んだことはないよ!
「仲がいいのね。次はリーズ、お願いするわ」
すごいな、イザベルは。仲がいいの一言で片付けられてしまった。
「ええ……。私はリーズよ。錬金術師をしているわ。えっと、足を引っ張らないようにがんばるわ。好きなものはウサギかしら?」
「へぇ、飼っているの?」
リーズはイザベルの問いかけにポカンとした表情を浮かべて首をかしげた。そんなリーズももちろん抜群にかわいい。
「えっと? 飼ってはないわよ?」
「いいわよね、ウサギ」
「ええ! おいしいわよね!」
「え?」
「え?」
実はかわいいもの好きのイザベルと、ウサギは食べ物という認識のリーズはわかり合えなかったようだね。
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