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015 本屋さん②

 なぜこんなに本が高いのか。


 まず、紙が高い。


 この世界では、紙といえば植物紙ではなく羊皮紙なんだよね。当然だけど、量産に向かないから紙の価格は高くなる。


 そして、インクも高い。


 なぜだか知らないけど、インクや絵の具の類も高いんだよね。製法とかも厳重に秘匿されてて、下手に知ろうとすると殺されるとかなんとか……。


 そして最後に、知識そのものが高い。


 今回買うのは、初歩的なものとはいえ錬金術の情報の塊だ。インターネットで調べれば大抵の情報が載ってる日本とはぜんぜん情報の価値が違う。この世界で情報とは、基本的に秘するものなのだ。


 なので、金貨三十枚というのもそう不思議な価格じゃない。


「いいよ、払う」

「ギー!?」


 クレマンスに頷いて返すと、リーズが抱き付くようにオレの腕を取った。ふわっといい香りがしてくらくらしそうだ。


「ききき、金貨三十枚よ!? 正気!?」

「正気だよ。あのねリーズ、本ってのは基本的に高いんだ。その中でも技術書は特にね」

「ほう? 物わかりのいい坊主だね」


 クレマンスがその目を細めて楽しそうにオレを見ていた。


「あんた、名前は何だったね?」

「ギーだ。さっき言っただろ? ボケてるんじゃないか?」

「ギー!? 失礼よ!」

「そっちのお嬢ちゃんの言う通りだ。年上は敬うものだよ、ギー?」


 イーヒヒッと笑ってクレマンスがシワシワの人差し指を立ててみせた。


「だが、それじゃあ片手落ちだよ、ギー?」

「何のことだ?」

「イーヒヒッ。お代は金貨二十五枚でいいよ」

「え?」


 クレマンスが値引きしてくれた? あの業突く張りのクレマンスが? やっぱりゲームの知識と現実は違うということか?


「イーヒヒヒッ。金貨三十枚は、値引き交渉されると思って盛った値段だよ」

「そういうことか……」


 オレにはあまり馴染みがないから忘れていたが、この街では普通にあちこちで値引き交渉がおこなわれている。だから商人はあらかじめ値段を盛ってることがあるのか。


 この分だと、これまでに買った武器や防具も盛られた価格だったのだろう。損したなぁ。


「ボンボンの道楽かと思えば、それも違うようだ。だがギー、あんたは道理をわきまえているね? 若い者には珍しい。今回は適正価格で売ってやるよ。これに懲りたら、今度からちゃんと交渉することだね」


 業突く張りで人間嫌いのクレマンスには珍しいな。もしかして、気に入ってもらえたのだろうか?


「勉強になりました。ありがとうございます」

「ありがとうございます、クレマンスさん」

「ヒヒッ。あんたらがあまりにも無知だから教えてやっただけだよ。ほら、金貨二十五枚を早く出しな」

「ああ」


 こうして、オレたちは初級錬金術のレシピ本を手に入れたのだった。


 賭博で稼いだ金もだいぶ少なくなってきたな。


 まぁ金は使ったが、序盤としてはまずまずの滑り出しと言えるだろう。


 特にアルケミストリングが手に入ったのがデカい。入手を諦めていたくらいだからな。これなら、ソウルイーターの犠牲者をかなり少なくできるだろう。もしかしたら、ギーの魂も……。


 いや、まだ未確定の情報をリーズに知らせて無駄に混乱させる必要もないよな。



 ◇



 それから一か月ちょっと。オレたちはダンジョンに潜ったり、戦闘訓練をしたりしながら過ごしていた。


 リーズはアルケミストリングの効果もあって、初級錬金術のレシピ本を手に入れたことでメキメキと錬金術の腕を上げている。


 オレも負けずと一人でダンジョンに潜ったりして鍛えているが、リーズの成長には敵わないね。モブの自分が恨めしい。


 そんなオレたちは今、ダンジョンの第五階層のボス部屋の前にいた。


 通路の突き当りには大きな両開きの扉があり、前に何組かの冒険者パーティが並んでいた。


「やっと第五階層のボスまで来れたか」


 オレとしてはようやくという思いが強いが、隣のリーズはついにこの日が来てしまったというような緊張に固くなっていた。よく見れば小刻みに震えている。かわいそうに。そう思うと同時に、まるで小動物のようなリーズの姿に愛おしさが溢れてくる。


「緊張してる?」

「そ、そんなんじゃないし……! 初めてのボス戦だから……その、ちょっとだけね! ギーは緊張していないの?」

「あんまりしてないかな」

「そうなんだ……」

「そんなに緊張しなくてもいいよ。ボスと言っても、敵はゴブリンが五体だけだから」

「でも……。五体のモンスターを同時に相手をするのは初めてじゃない……」


 リーズの言う通り、オレたちは今まで多くても二体のモンスターを同時に相手にしたことしかない。それが一気に増えて同時に五体のゴブリンの相手だ。心配になるのもわからんでもない。


「大丈夫だって。オレたちならできるさ」

「ええ……」


 うぅーん……。声に元気がないなぁ。こんなことでは気持ちで負けてしまうかもしれない。


 オレは微かに震えるリーズの手を取った。


「ギー?」

「大丈夫だよ、リーズ。何があっても、オレがキミを守るから」

「ッ!」

「あ、順番みたいだ」


 ふと前を見れば、オレたちより前に並んでいた冒険者パーティの姿がなかった。


「リーズ、行こう!」

「はぁ……。わかったわよ……」


 なぜか不貞腐れたような様子のリーズの手を引いて、オレたちはボス部屋へと侵入した。

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