010 二人でダンジョンへ
そんなわけで、オレとリーズは朝食を終えると、さっそくダンジョンへとやって来ていた。
「ここが、ダンジョンの中……!」
ダンジョンの白い通路の壁に手を置いて、しみじみと呟くように言うリーズ。その声は、まるで鈴を転がしたように可憐だ。
リーズの格好はいつもの継ぎ接ぎワンピースに大きめのバックパック。そして、手には木の枝のような杖を持っている。うん。初期装備だね。防御力なんてあって無いようなものだし、ちょっと心配だ。
「リーズ、やっぱり少しは頑丈な服を買った方がよかったんじゃない?」
「ギー、お金は大事にしないと。慎重に使わないとすぐなくなっちゃうわよ?」
「そうだけどさ。オレはお金よりもリーズの方が大事だし」
「それを言うなら、あたしだってお金よりもギーの方が大事よ。ギーこそ丈夫な防具を買ったらいいんじゃない? 昨日も大怪我してたし……」
リーズの言葉に下を向くと、冒険者というよりも貧民と表現した方がしっくりくる継ぎ接ぎだらけの服が目に入る。まぁ、格好に関してはオレも人のこと言えないか……。
だが、まだ第一階層だからいいけど、ダンジョンは先に進めば進むほど難易度が上がる。いつかは装備を買わなくちゃいけないのだから、買うなら早い方がいい。
でも、リーズの装備を買おうとすると、「あたしよりギーの装備を」とか言うんだよなぁ。
「じゃあ、こうしよう。今日は早めに切り上げて、二人で装備を買いに行こう」
「やっと防具を買ってくれる気になったのね、ギー。ギーにはもっと安全な格好をしてほしいと思っていたのよ」
「買うのはオレの分だけじゃないよ?」
「え?」
「もちろん、リーズの装備も買い換えるに決まってるだろ?」
「そ、そんなお金ないわよ!?」
「あるよ。賭博場で稼いだお金がまるまる残ってるじゃないか」
「でも、あれはいざという時のために……」
「今がいざという時だよ。装備をしっかりして、怪我をなくせばその分ポーション代が浮くからね。装備を整えるなら早い方がいい」
「それは、そうかもしれないけど……」
「これはもう決定だよ。怪我してからじゃ遅いからね」
「もー! ギーは強引よ!」
リーズが怪我なんてしたら、オレが耐えられないからね。多少強引でも決めちゃおう。
「じゃあ、行こうか」
「あ、待って」
こうして、オレとリーズのダンジョン攻略が始まった。
「ギー、あれ……」
すると、すぐにリーズがオレに囁くように小声で通路の先を指差した。ホーンラビットだ。
「わかってる」
オレは素早く背中の矢筒から矢を一本取り出して弓につがえる。その時にはホーンラビットがこちらに迫っていた。おそらく、リーズの声に反応したのだろう。
だが、ホーンラビットとの距離はまだ十メートル以上ある。余裕で対処でき――――ッ⁉
リーズが杖を構えた姿勢でホーンラビットへの射線を遮るように飛び出してきた!? 何してるんだよ!?
このままでは矢を射れないし、ホーンラビットの接近を許してしまう。しかも、その時ホーンラビットが襲うのはリーズだ。
「そんなことさせるかよ!」
「きゃッ⁉」
オレはリーズの肩を掴むと、後ろに思いっきり引き戻した。その勢いを利用して、オレはリーズと立ち位置を変えるように前に出る。
そして、弓も矢も投げ捨てると、腰のダガーを抜いた。
もうホーンラビットとの距離は三メートルもない。だが、間に合った。
「ふっ!」
オレは腹を目掛けて跳んできたホーンラビットをかち上げるように右のダガーを叩きつける。
ホーンラビットは打ち上げられたように放物線を描いて飛びながらボフンッと白い煙となって消える。
そして、ドロップアイテムである手のひら大のウサギの毛皮が降ってきた。
「ふぅー……」
オレは安堵の溜息を吐くと、両手のダガーを腰に戻す。そして、後ろを振り返った。
「リーズ、突き飛ばして悪かった。でも、危ないから弓の射線に入っちゃダメだよ?」
オレは尻もちを着いているリーズに手を伸ばす。
リーズは俯いたまま呟く。
「邪魔してごめんなさい……。その、ギーを守らなきゃって思って、それで頭がいっぱいになって……」
「え?」
リーズがオレを守る? 逆じゃなくて?
「その、ギーはあたしを助けてくれたから。だから、今度はあたしが助けなきゃって……」
「ふむ?」
たぶん、ギーがソウルイーターからリーズを庇ったことを言っているのかな?
あれはギーくんが最期に命を懸けてやったことだし、勝手にオレの活躍にするのはさすがに心が痛む。
オレは、ギーの体を乗っ取って勝手に使っているだけだ。でも、リーズにとってはオレはギーなんだよな。
リーズに言った方がいいのか? オレがギーじゃないことを。
でも、こんなことはゲームの展開でもなかった奇跡みたいなものだしなぁ。
ゲームでの第一章のストーリーは、リーズがソウルイーターを倒すことで終わる。そして、リーズはギーに仄かな恋心を抱いていたことを自覚し、もう生きて返ることがないギーの存在に涙を流す。
そのことからもわかる通り、リーズにとってギーは大切な存在だ。
いつかは知らせるべきなのだろう。
だが……。好きな人を悲しませるのは気が重たいなぁ。
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