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短編

曖歌

作者: 氷憐 仁

ビターテイストというものに憧れまして...

私のために選んだ言葉、そんなものはないんだ

誰彼構わずラブソングを歌うあなた

私が何をしようとも

あなたが楽しいなら、全力なら

目を逸らしちゃってさ

あぁ、でも、本当、最低



「ねぇあのさ、、、、ごめん、なんでもない。」

何度も口を開いて、何度も言葉にしようとした。でも、どうしても伝えられない。

別れよう、

なんて。

キラキラ輝いているあなたにはわからないだろうな。

あんなに楽しそうに音楽と向き合うあなたには、わかってほしくない。

でも、わがままな私は、同仕様もなく虚しいよ。

告白をする前のあなたは一体どこへ行ってしまったの。

今じゃあなたは私に興味がないみたい。

私のために作ってくれた歌詞、いつの間にかどこでも流れる有名曲。

嬉しそうにライブに招待するあなた。

その曲はもう私の曲ではないみたい。

とっても大好きだったあなたの歌う姿。

今はどうしても好きになれないや。

周りの歓声も嬉しいはずなのに今はどうして不協和音。

あなたの歌う愛してるは私のものじゃないって解ってしまった。

あの日、あの時戻れたらなんて思うけど、そんなの一瞬なんだろうな。

あなたと一緒にはいられないや。

でも、幸せだったから嬉しかったから愛していたから。

どうせ私を見てくれないなら

その輝きを見るのも辛くなっちゃうから

今楽しくて幸せなうちに苦しくないうちに

「ねぇ、私と死んでよ。」


あなたは今日も輝いている。ステージの上、無数のライトに照らされて、満面の笑みで歌うその姿は、かつて私が心の底から愛した人そのものだった。でも、今の私はその笑顔を見るたびに胸が締め付けられる。

あなたの歌う愛してるは、もう私のものじゃない。かつて、私だけに向けられたはずの言葉が、今や無数の聴衆の心を満たしている。あなたは私だけの存在ではなくなった。

ステージの裏で待つ間、何度も口を開き、何度も言葉を飲み込んだ。「別れよう」なんて言葉、あなたに届くわけがない。だって、あなたはいつだって全力で、輝き続けるために生きている。それが正しい。きっとそれが正しいんだ。

でも、わがままな私はどうしようもなく虚しい。私のために作ってくれた歌が、有名になり、どこでも流れるようになってしまった。それは嬉しいことのはずなのに、心のどこかでその曲が私のものではなくなったと感じてしまう。

ある夜、あなたのライブが終わった後、私たちは久しぶりに二人きりになった。あなたは汗を拭きながら、満足そうに語った。

「どうだった?今日のステージ。みんな楽しんでくれたみたいで嬉しかったよ。」

私は笑顔を作りながら頷いた。

「うん、すごく良かったよ。」

でも、その言葉の裏側に隠れた本心に、あなたは気づいていない。私はあなたを愛している。でも、今のあなたを愛し続けることが、私にはもうできない。

「ねぇ、あの、さ」

あなたが私を見つめる。その瞳には無邪気な期待が宿っている。

「私と一緒に、死んでくれる?」

ふと漏れた言葉に、あなたの笑顔が凍りついた。その瞬間、私は自分がどれだけ醜いことを口にしたのか気づく。

「ごめん、なんでもない。」

慌てて取り繕ったけれど、あなたは何も言わずにただ私を見つめていた。その目に映る私がどんなふうに見えていたのか、怖くて考えることもできない。

夜が深まるにつれて、私の中の思いは膨らんでいく。あなたが輝けば輝くほど、私はその光から逃げたくなってしまう。愛しているのに、一緒にはいられない。その矛盾が私を蝕んでいく。

翌朝、あなたは何事もなかったかのように私に微笑んだ。でも、その笑顔の裏側に隠された感情を、私は感じ取ってしまう。私たちはもう終わりなんだ。

「ありがとう、ごめんね。」

最後にそう告げた私に、あなたはただ頷いた。そして、あなたの背中を見送りながら、私は涙を流した。

この物語に終わりがあるなら、きっとそれは悲しみの中に希望を見つけることなのだろう。でも、今はまだその光を見つけることができない。ただ、あなたが幸せでいてくれることを願っている。

それが、私にできる最後の愛だった。


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