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05 不要な生贄

 さて、世界を滅ぼすなんて宣言をしたものの、どうしたものか。


 あれから二週間が経って今日が満月だから、次の新月までは後半分といったところだろうか。

 やらなくてはいけないことを確認しよう。優先してやるべきことは、三つだ。


 まずは今の世界情勢の把握。これは絶対にやっておくべきだな。潜伏などをするとして知識が無さすぎることでバレるなどということがあってはならない。

 次にコネを作る。これはなくてもいいかもしれないが、疑われた時に身許保証とかをしてくれる人がいれば安心できる。

 最後に同行してくれる仲間を作るというところか。俺のことは多分一人で暮らしていたとして伝わっているだろうから、二人以上であれば疑われにくいはずだ。

 どれから始めるべきか。まずは世界の情勢の把握から始めるべきか。何も知らないままでは、始められないからな。


 となると、なんにせよ人と喋ることが必要になる。

 であれば、村まで降りるべきか。というかあのおっさん以外と喋りたくない。前回行ったときに感じたが、どうやら俺は少し人見知りらしい。


 でも前と同じ姿ではいけないな。もし俺の姿が村の麓まで伝わっていたら、すぐに追い出されてしまう。

 幻惑魔術で姿を変えるとして、どんな姿がいいか。とりあえず、体とか顔とかは前に来た騎士の一人と似たようなものにしよう。


 平凡な顔つきだけど、顔は、ちょっと強そうな雰囲気の顔を。

 服は、そうだな。山賊が着ているような服に護身用の小さな短剣を持っていればいいか。鞄を背負っていれば、旅人と言えば疑われ無さそうだ。

 あと肝心なのは魔力だ。流石に1000年前の頃よりかは、大分量が多くなった気がする。あと、黒ずんだせいで、魔族と勘違いされたから、そこもなんとかしなくてはならない。

 まず魔力量は、そうだな。先陣をきってきた兵士と同じくらいにしよう。色も同じように白っぽく。

 魔力を全部身体の中に押し込めて、そしてここから抽出した感じの白い魔力を少しだけ出す。

 なんとなくでやってみたが、こんなものでいいか。これなら少し魔術に覚えがある旅人に見える気がする。


 もし違ったらやり直せばいいし、一旦これで村まで行こう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 麓の村の近くまで戻ってきた。


 今回は風魔術で飛んできたから、時間はそこまでかからなかった。とはいっても1時間くらいかかったわけだが。

 遠目に見える村の雰囲気は、前回とあまり変わっていない。変わったところと言えば、軍の人たちが見えないことくらいか。

 とはいえ、まだ残っている可能性はあるし、それでバレたらはじめからやり直しだ。ちゃんと警戒はしておこう。


 そう思い、あたりを見渡しながら村の中に入っていく。

 やはり目に見える変化は、軍がいないことくらいか。

 俺が全員殺した後の増援はなかったらしい。ひとまずそこは安心だ。

 次に気になったのは、村の人が少ないような気がする。

 前回は村に少し足を踏み入れただけで、何人かとすれ違うことがあったのだが、そういったことがない。

 奥から喧騒みたいな声が聞こえるから、村の人たちがみんなそこに集まているのか。

 もしそうだとすれば何をしているんだろうか。非常に気になる。万が一、俺にとって面倒くさいことだったら嫌ではあるが。


 そんなことを考えながら歩いているうちに、奥が見えてきた。

 見えたのは、大勢の人の塊。やはり、奥に人が集まっているという予想は間違っていなかったらしい。

 聞こえてくる音は、騒がしい話し声と、木材に何かがぶつかるような乾いた音だけだ。

 何をしているのか見当がつかない、何をしているんだろうか。


 「どうしたんだ? 村の人間じゃないな」


 後ろからそう声がかかる。そして、俺はこの声を聞いたことがある。


 運がいいことに大きな声を出しそうになるが、我慢する。今の俺はこのおっさんとは初対面ということになっている。ボロを出すことなどできない。


 「あ、こんにちは。実は、旅をしていて。途中で村を見つけたので、何か食べ物を買うことができればなと」


 それっぽい理由をでっち上げる。今回は、それっぽいことを色々考えてきたから、積極的に攻めよう。


 「最近は妙に知らない顔が来るなぁ。食べ物を買いたいんだったか、あそこを曲がったところにある肉屋とパン屋でも行きな。つっても、そこの店主は二人とも仕事をサボってここにいるんだけどな」


 親切に教えてくれるのはいいが、店の仕事を放り出してやるほどのことなのか気になるな。やはり、皆目見当がつかない。とはいえ、聞いていいのか。

 雰囲気だけで言うなら、祭りのような感じがする。


 「む、もしやお前も噂を聞いてこの村に来たのか? 全く、だから長老達に言いふらすのはやめろと言ったんだが」


 何も質問をせずに奥を覗こうとすると、おっさんがそう口を開いた。とにかく、何かがあるということだけはわかった。それで上出来だ。


 「あの、この人だかりは何をしているんですか?」


 「ん? あぁ、これは生贄を捧げる前の物忌だよ。あそこで横になって、断食をするんだ。この人だかりは、村のみんなが石を投げながら罵声を浴びせているだけだな。くだらない」


 なるほど生贄か。確かにそのようなものに頼りたい気持ちはわかる。わかるが、俺に捧げられるものなのであれば、受け取り拒否をしたい気分になる。


 「あの、その生贄は誰に捧げるんですか?」


 「知らなかったのか。噂を聞いているなら知っていると思ったんだがな。この山の奥にいる、大魔族だ」


 その言葉で、俺の頭は最悪の二文字に埋め尽くされる。


 「村の長老の一人が、なんか古臭い本を持ってきて、そこに生贄を捧げたら大魔族の怒りが収まったっていうことが書かれてあったんだ。なんでも、1,000年前の人魔大戦の時にも似たようなことがあったらしくてな。その時はうまくいったらしい」


 1000年前というと、俺が山に住み着いた頃だが。俺が生まれたの自体人魔戦争が終わってからだからな。誤差だろ。ずっと同じ生活を続けていれば、50年くらいの誤差は出る。

 というか、であれば1000年前に山にいた大魔族はお人好しというほかない。俺の場合は、少なくとも村を滅ぼす。

 それをまさか、生贄が送られてきて怒りが収まるとは。


 俺がきた時にその大魔族がいなかったのはそれが理由か。生贄を送ってくる村の近くなんて、普通はすぐに逃げ出したいくらいのものだ。

 あとこの村1000年も前からあるのかという疑問も湧く。もし無かったのであれば、本はいろんな人の手に渡ってきたとか。

 とりあえずそんな長期間本を丁寧に扱う方法を考える頭があるなら、俺のところに生贄を送りつけるというのは、やめてほしい。


 それと、伝達のために逃がした兵士さんは、この村には何も伝えなかったらしいな。世界の敵と宣言したのを、ただの怒りで括るのは無理がある。


 「兄ちゃんもみていくか?醜いもんだが、もしこの村に滞在するなら慣れておかないとな」


 見なくてもいいが、見ておいた方がいい。俺はそう思った。


 なぜか。それはもし生贄として捧げられるなら、この村を滅ぼすことは決定事項になる。そして、この村を滅ぼすときに、その生贄を使ってみたいという気分になってきたからだ。。

 その理由はもちろん、楽しそうだからの一つだ。


 「じゃあ、一応見ます」


 俺がそう言うと、おっさんが歩き出し、それについていく。

 そのまま1分ほど歩いて、人だかりのすぐそばまでついた。


 人だかりの垣根の先に、木で簡易的に作った壁に磔になっている少女が見えた。

 見えるだけでも外傷がたっぷりある。体全身に打撲痕、裂傷、擦り傷。額からは血が流れている。

 あれは生贄というより、集団いじめのように感じる。田舎の村だから集団意識が強いのはわかるが、それで生贄を一人吊り出して攻撃とは、俺が言えたことじゃないが外道だな。


 さらに、木の下には石が大量に落ちていた。おそらくそれを投げつけられていたのだろう。

 村の人にもこの目の前の哀れな少女にも、同情はしない。


 「お前も厄除けと思って一発投げてくか?」


 おっさんに石を差し出され、受け取った。

 もちろん断らない。監視の目がある上に、投げたほうが他の村の人たちに仲間として認識されて、もっと情報を聞き出せるかもしれない。


 石から少女へ、少女から石へ、視線を移動させ、投げる。

 俺が本気で投げたら少女が爆散しそうだから、適当に投げて壁に当てておいた。

 隣のおっさんはというと、俺と同じように壁に当たった。


 近くから、野次が少し飛んでくる。


 当てろとでも言いたげだが、別に外したっていいとは思う。もちろん、慈悲をかけているわけではない。

 この目の前の少女は俺の道具になってもらうんだ。ここで壊してしまっては、元も子もない。


 「あの子って、いつ送るんですか?」


 目の前で磔にされている少女を指差して、そう言った。

 単純な疑問だ。人を迎えるのであれば、何かしらのおもてなしをするに越したことはない。

 そのためにいつ送るのかを聞きたいだけだ。


 というかどうやって送るのだろうか。歩かせてなのであれば、食料とかを持たせたとしても、あれじゃ森を越えられない。


 「ちょうど今日の夜じゃなかったか?だから村の中央広場で色々準備してるんだろ」


 言われてみれば、奥に見える広場で木材を組み立てたりしている。なるほど宴みたいにやるわけか。

 生贄を送りつけるだけで怒りが収まるなら、儲け物かもしれない。俺は迷惑料として村を滅ぼす予定だが。


 「場所はわかってるんですか?」


 「ん?西にいるんじゃないのか?細かいことは知らないが、若いのが牛を曳いて、その牛にあいつを括り付けて西に連れていくらしい。なんか昔もそうやったんだとよ。ま、俺はあまり話を聞いているわけじゃないから分からんが」


 確かに前例があるのなら、場所がわかっているのかもしれない。前の大魔族が俺とは違う場所に住んでいた可能性はあるが、あそこの他に住むところなんてない。

 それよりも魔物ばかりの森に送る方が疑問だ。魔物避けの何かを持っているのだろうか。


 とにかく、今日の昼間はここで情報収集して、あの少女が送られるのと同時に帰ろう。

 全く、面倒臭い。いや面倒ならやらなければいいと言われるかもしれないが、実は少しやってみたい。

 生贄を捧げられるなんていう経験、なかなかできない。


 迎え入れて、そのまま送り返したらどんな反応をするのだろうか。

 色々やってみたいことはあるが、家に帰ってから考えよう。


 「なるほど、ありがとうございます。森に入るのは危険そうですので、今日はこの村を回って、明日帰ろうと思います」


 「おう、楽しんでいけよ」


 おっさんの言葉を背に受け、俺はその場を後にした。


 その日の夜。生贄の少女は、青年に曳かれた牛に括り付けられ、森へと入っていった。

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