31 閑話:異界からの勇者
冬が近づいて、暗くなるのが早くなってきている帰り道。いつも通り、自転車で坂道を下っていた。
今日も憂鬱な学校が終わって、家に帰っても一人でゲームをするくらいしか楽しみはない。
嫌な空模様だと思いながら、スピードを出して道を曲がろうとすると、何かとぶつかった。
そこまでは覚えている。
何とぶつかったのか、今の自分がどうなっているのか、何もわからないまま、俺はただ白い空間にいた。
誰かいないのかと、周囲を見渡すと、遠くに人がいるのが見えた。
そこまで小走りで向かい、誰なのかを確認する。
俺の学校とは違う、同じ学校の制服を着た女子が二人と、それと、顔ははっきりとはわからなかったが、変わった服を着た佇まいからして女の人が一人。
「隼人……?」
女子のうちの一人が、俺の名前を読んだ。その女子の面影を、俺は知っていた。
「葵……で合ってるよな」
大宮葵。小学校、確か4年生の時まで近所に住んでいた。
公園でよく遊んでいたから、それなりに変わっていても、顔を見ただけですぐに分かった。
「そうそう。結構変わった気がするけど、よく分かったね」
正直怪しかったけど、当たってくれてよかった。
「葵ちゃんの知り合い?」
隣にいる女子は、見たことがない。葵の学校の友達かな。
「うん、引っ越す前によく遊んでた男子だよ」
「じゃあもしかして運命の再会、っていうやつ?」
「やめてよ、絶対そういうのじゃないって」
笑いながら目の前でそういうのを言われると、少し居心地が悪くなる。
「なぁ、それよりもここは──」
ここはどこなのか、そう聞こうとした時、パンと手を叩く音がした。
変な服を着た女の人が、注目とでも言うように手を叩いている。顔が見えているはずなのに、それをうまく認識できないのは気持ち悪い。
「感動の再会は済みました? では、軽い説明を始めますよ」
「それよりも、あなたは誰なの?」
「私は、そうですね。女神と名乗っておきましょうか」
「女神……?」
生まれてこのかた、神様なんてものを信じたことはほとんどない。それでも、周りの状況を見れば、信じざるを得ない。
「ええ。簡単にいえば、あなた方は亡くなりましたので、他の世界へ旅立ってもらおうかと」
「え、死んだの私たち」
「大宮葵さんと一ノ瀬菜乃さん、二人はトラックに轢き逃げされて。西村隼人さんは同じトラックに轢かれてですが、あれは飛び出したあなたが悪いですね」
葵とその友達、女神とやらは一ノ瀬菜乃って言っていたか、がドン引きの表情で見てくる。俺の飛び出しが悪かったのか。反省しておこう。
「まぁというわけですから、あなた方には別の世界へ旅立ってもらいます。旅立つと言っても、召喚されてというわけですが。あぁそれと、勝手ながら暴れられては困るので、落ち着くことのできる奇跡を施してあります。何か質問があれば、なんでもどうぞ」
さっきから死んだと聞かされてやけに落ち着いていられるのは、それのおかげか。
いやそれよりも、他の世界に旅立つというのがよくわからない。それに召喚も、さっぱりだ。
「……他の世界に行って、何をしてもいいの?」
葵が女神に聞いた。重要なところだ、俺も知りたい。
「自由ですよ。ですが、召喚した側も相応の理由があって召喚しているので、彼らの要望も聞いてあげてくださいね」
「えっと、それなら──」
「おっと、もう時間ですね。最後に加護を与えるので、頑張ってください」
「ちょ待っ──」
「それでは」
俺が言おうとしたことはとことん無視されて、床に突然空いた穴に落とされた。
何か不都合があるのか、それともただただ俺のことが嫌いなのか。
どちらにせよ、俺は他の世界に行くことになったのか。精一杯頑張ってみたい。
「あら、この世界……あの子、面白いことをしているのね」
幻聴かもしれないが、女神がそう言っていた気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして召喚されてから、三日目以降はずっと訓練の連続だ。
初日は色々この世界のことについて教えてもらい、二日目はどんな加護が与えられたのかの確認のため、体力テストみたいなことをさせられた。
そして三日目からは、倒れ込むまで訓練。
自分でこの世界のためにできることをすると、皇帝陛下の前で宣言した以上、逃げるなんて考えは毛頭ない。
そもそも、誰かから必要とされるなんて状況が、俺にとっては最高に嬉しかった。
訓練では、この国の近衛師団長と実践を考えた剣の打ち合いをしている。葵は魔術の鍛錬を、菜乃は弓術をメインに鍛錬をしている。菜乃に関しては一応、それなりに仲良くなったし、呼び捨てで呼ばせてもらっている。
訓練を始めて、もう3週間ぐらいが経とうとしているけど、かなり力がついた自信はある。
最初は一般兵士の人とやってもギリギリだったのが、今は近衛師団長とかのかなりの実力者以外は敵なしだ。
それも加護のおかげらしい。
俺が女神から貰った加護は、剣術と魔術の補正をするものと、かつての勇者の持っていた加護である勇者、この二つだった。
葵は魔術の演算速度を向上させるものと、魔力が常に回復し続けるもの、演算速度というのはよくわからないが、確かに葵は魔術の発動が早い。
菜乃がもらったのは、遠距離からの攻撃の全ての威力が上昇するもの。それも、一定の距離まで離れれば離れるほどそれは効果が大きくなる。それに、放った弓や石なんかが、敵に命中しやすくなるように風が吹いたり、木の葉がそれを避けたりする加護もある。
とにかく、二日目はその加護の検証で一日が終わった。本当に一日中だったから、なかなかに疲れた。
でも、宮廷にいるみんなから期待されているのは、嬉しい。やってやるぞと、そんな気分になる。
俺が世界を救わなければならない。そんな責務さえも喜んで引き受けるくらいには。
「ハヤト、団長がお呼びだ。アオイとナノも一緒に連れて行け」
走り込みをしていたら、近衛師団副団長に呼ばれた。
近衛師団長に呼ばれる時はロクなことがないということは、たった3週間でも分かった。何せ、呼ばれた全員が酷い顔で部屋に入っていき、酷い顔で出てくるからだ。
それでも、今日はあまり悪い気分ではない。前に行った時に、次呼び出す時は最初の仕事をする時だからと言われている。
「今すぐ葵と菜乃を連れていきます!」
それだけ伝えて、葵と菜乃を呼ぶ。副団長はもう団長室に向かっていた。
「どうしたの?」
「招集だって。多分初めての仕事だ」
「ほんと! やったね菜乃。ずっとまだかなって言ってたじゃん」
「そうだけど……やっぱり少し不安だよ」
いつも通りの葵と菜乃の会話を左から右に流して聞きつつ、団長室の扉をノックする。
訓練場のすぐそばにあるおかげで、他の近衛師団の人たちの訓練がよく見える。
「入れ」
そう言われてから少し間を置いて入室する。それがこの世界のマナーらしい。
「喜べ、今日はお前らに仕事を回そうと思ってな。今のお前らにとってなら簡単な討伐任務だ」
討伐任務。ずっとそれを待っていた。
魔物でも魔族でも、なんでも討伐してみせる。
「教国との国境沿いに出た竜の討伐任務だ。任務には教国から何人かの精鋭を派遣してもらうように頼んである。要件はそれだけだ。何か質問は」
「いえ、ありません」
「では行け。ワイバーンを手配しているから、今すぐ向かうように」
急いで退出し、ワイバーンが手配されているらしい門まで走る。
初めての仕事は竜の討伐。以前副団長に、竜を討伐できれば国を救う者として一人前という話を聞いたことがある。
俺たちは、一人前になるべく、竜の討伐に向かうんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ワイバーンでずっと飛ばし続けてちょうど半日で、俺たちはその現場近くに着いた。わかりやすく教国の人たちが煙を焚いていたから、場所はすぐに分かった。
空の上から、その場所めがけて飛び降りる。
地面に着く直前で、葵が魔術を発動させて衝撃を無くす。
「君たちか」
後ろから声がかかる。
「聖リュスカーレン教国第二騎士団団長のソルヴィア・ヴェル・アストリッドだ。とはいっても、肩書きはもうあってないようなものだが」
曇った顔の人。それが第一印象だった。他の感想はどうやっても出てこない。何かに許しを乞うような目をしているような気がする。
それでも、騎士団団長をやっているということは、かなりの実力者なんだろう。
色々と引っかかるところはあるが、こちらも自己紹介をしなければ。
「ストルカリムから竜の討伐に来た隼人です。それで、こっちが葵で……それが菜乃です」
なぜか菜乃が地面を掘っている。変なものでも埋まっているのか。
「あぁ、聞いているよ。早速案内しよう。それと、私のことはアストリッドでいい」
どこに案内されるのかはわからないが、正直周りを見る限り不安だ。
鬱蒼と空を隠す木々に、変な動物の鳴き声、それに何より、さっきから周りをカサコソと動いている何か。
とにかく、不気味なところは、いくらでも探せるくらいな場所だ。
そんなことを考えていると、アストリッドが剣を抜いた。その寸前で甲高く響く音があったから、それを警戒してだろうか。
〔ヴァァァァァァアアアアア!!〕
俺も一緒に剣を抜こうとした時、森の奥からそう聞こえた。
大きな足音と一緒に、それはとてつもないスピードで木々を薙ぎ倒しながら近づいてくる。
「あれが君たちの獲物だ。私は手出しをするなとトルトヴァルから言われている。健闘を祈る」
トルトヴァル、近衛師団長か。なんということを言ってくれているんだ。
音だけで判断するなら、俺の剣が有効打になるとは思えない。
どうするのがいい。考えろ、考えろ。
「これが……竜……」
後ろの方で、いつでも魔術が発動できるように待機している葵がつぶやいた。
さっきまで色々考えろなんてことを思っていたが、俺もなんというか拍子抜けをしてしまっている。
竜から伝わってくる殺意はとてつもない。それでも、今まで訓練で俺をボロボロにしてきた近衛師団長トルトヴァルのプレッシャの方が、格段に上だ。
であれば、早急に決着をつけてみせる。
「葵、俺がひきつけている間に魔術をいくつか打ち込んでくれ。菜乃は翼を落としてくれ」
二人にそう言って、竜の目の前に躍り出る。
思ったよりもすでに満身創痍で、俺だけでも倒せてしまえそうに見える。が、油断しないに越したことはない。
ある程度ダメージを与えてから、前に教わったように、逆鱗の裏を突き刺す。
まず最初に攻撃をしたのは、菜乃だった。
編み出した加護の裏技を使って、竜の翼の片方の付け根をほぼちぎれそうな状態にする。
加護の威力を生かし切る距離にいない時、矢をあらぬ方向に放ち、それが命中するまでに通る距離を増やすという、裏技を使っていた。
そのちぎれかかった翼を、切り落とす。
反対側の翼も、菜乃の矢が命中した瞬間、葵が魔術で落とした。
なかなか魔術が竜に効かないようだったから、葵お得意の連発でなんとか落とした感じだったな。
だが、これでもう倒せる。
「菜乃、目潰しだ!」
俺が叫ぶと同時に竜の目が潰れる。
俺の次の要望を察知してくれていたのか。なるほど、これがチームワークなのか。
そのまま、目が潰れた竜の喉元に突っ込む。
暴れているが、今は逆にそれが好都合。返しのついた短剣を鱗の隙間に差し込んで、固定する。
そして、一瞬動きが止まった瞬間に、逆鱗の裏に剣を突き刺す。
竜はそこから暴れることもなく、ただ普通に地面に倒れ込んだ。
「よしっ!」
二人と一緒にガッツポーズをする。
初の任務は無事に、そして思ったよりも簡単に終わった。
「これが、勇者なのか……?」
アストリッドが、不服そうにもう死んでしまった竜に語りかけている。
彼女がどんな人物なのかわからないが、なんというかミステリアスな人だということはわかった気がする。
「これをトルトヴァルに渡してくれ。任務完了の証書だ」
「ありがとうございまず」
証書を受け取ったあと、俺たちは礼を言ってその場を離れた。ワイバーンに乗って、そのまま帝都までの帰路につく。
この調子で魔物を、魔族を、どんどん倒してこの世界に平和を築きあげてみせる。
空を見上げながら、俺はそう誓った。
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