30 出立
「こんにちは、オットーさん」
街の西側で、崩れた壁の修復をしている衛兵のうちの一人声をかける。街は大魔族の襲撃から一週間で、建物がほとんど半壊している西側の復旧が進んでいた。
俺のせいでもあるしな、手伝っておくべきだろうかと思い、今こうして声をかけた。
まだ撤去も終わっていないほどに瓦礫が多い。いや、俺のせいだからな。文句を垂れるわけにはいかないか。
それに、全く片付けの進んでいない場所よりはマシだ。死臭に囲まれての作業は、鼻が曲がるからしたくない。
これならもう少し威力を抑えても良かったかもしれないが、件の大魔族の脅威をこれくらいとして考えてもらうためにも、ちょうどいいかと思う。
とはいえ、最終的にはこの街を含めこの世界の全てを一度滅ぼすわけではあるが。
「それにしても……怪我、早く治ったな。さすがは冒険者だ」
魔術で作った分身体にファルスとして行動をさせていたから、俺は怪我をほとんどしていない。そもそも内臓や体の一部が欠損しない限り、大抵は治癒魔術で治るからな。
まぁ今回の結果があれば、多少の骨折や欠損程度、普通に支払うけどな。
先週の大魔族襲撃の時、俺は大魔族の撃退と竜の討伐の功績のおかげでAランクに昇格した。その上、冒険者協会や冒険者からの信頼も勝ち取ることができた。
当初の目的だった、コネを作ることもでき、大魔族との関係性は敵対しているとして受け止められた。
今回、ファルスは完全に大魔族の邪魔しかしてないからな。
「Aランク昇格もだ。おめでとう」
俺が大魔族としてしたことは、単純といえば単純である。
冒険者たちに魔物をけしかけて、街の一角の建物を崩壊させただけ。ただそれだけだ。
竜を殺した後、まずは魔物をある程度支配下に入れた。とは言っても使役魔術を使ったわけではないから、完全な支配とはいかなかった。
竜が恐怖で魔物を支配していたおかげで、竜を殺した俺は簡単に認めてもらえた。
その魔物を全て、森の裾からいつでも出られるように待機させる。
そこから魔物を、順序を考えながら冒険者たちにけしかけていった。
まずは小手調べとしてのヘルハウンドの群れ。しっかりと小手調べとして、冒険者全体の実力をはかることができた。
ざっとSランクとされている魔物を10も出せば完全に壊滅させられる。そんなくらいだった。ほぼエヴァニスとニルドが抜きん出ているだけではあるが。
というわけで、その次はAランクの魔物の詰め合わせを送りつけた。ニルドとエヴァニスがいる以上、そこを消費させなければ、俺の思い描いていた予定になぞれない可能性があったからだ。
そうそう、その時エヴァニスが使った魔術はどれも興味深いものだった。
爆裂術式、終わった後にエヴァニスに聞いたらそう言っていたな。
俺の知っている爆発を伴う魔術は、ほとんどが炎球を放つものである。それに対して、エヴァニスの使っていた爆裂術式は、ただ爆発を起こすことに特化している。
炎球ではない以上、術式で設定する座標がズレればただの暴発になるが、それさえなければ魔力の消費を抑えつつ的確に攻撃ができる。
1000年と魔術の研究をしてきたが、そこに辿り着けなかった自分が情けない。
と、Aランクの魔物で最低限消費したところに、Sランクの魔物であるガープをぶつける。
俺としては、その後に構えている魔物の対処のために、準備運動として提供したつもりだったが、色々と冒険者たちの気を高めてしまったようだった。
あまり士気を高めると、想定外が起きるから、そのつもりは本当になかったが、士気を高めてしまったものは仕方がないとして、魔物の召喚で調整させてもらった。
召喚魔術は、正直魔力を大量に消費する上に、元々は最後に登場して使うつもりだったものを早めに使うことになって、面倒極まりなかった。
最初に頭で描いていた予定とは、全くの別ルートになってしまったというわけだ。
いちいち召喚魔術の術式それぞれに魔力を流すのは面倒というわけで、ちょうどエヴァニスの爆裂術式でできた窪地に魔力を貯めて、術式を組み上げたら勝手に召喚されていくようにした。
魔術というのはそう言った工夫をしてこそだ。間違っても、ただ型に当てはめるだけでいてはいけない。
召喚魔術でAランク相当の魔物約100体召喚するのを3回。全て連続で召喚しては、冒険者連中が全滅するから、適度に間を開けるというのが面倒臭かったな。
そして士気を低下させたタイミングで魔石を使う。魔力をしっかり見ることができているのはエヴァニスだけのようだったが、それでも情報を誤認させるためにも魔石を使ったのは効果的だったと言える。
魔力量の誤認。俺の経験則から、これはとにかく重要だ。
魔力量を誤認させてしまえば、相手の油断を誘うことも、恐怖で固まらせることもできる。
今回は、魔力を本来の一割弱程度に制限して戦っていた。その上で、エヴァニスの術式で学ばせてもらった、魔力を無駄に消費する術式で、魔力の消費を大きく見せる。その都度、見せかけの魔力量も減らして、完璧とはいえないかもしれないが、魔力量を誤認させることができたはずだ。
それと、エヴァニスやニルドが気付いてくれたかどうかはわからないが、魔術を発動させるたびに掌印を結んでいた。これも俺のことを本来よりも下に見積もってもらうためだ。
魔術の発動に掌印を結べば、詠唱と同じように術式構築の手助けになる。普通に必要はないけどな。
とにかく、そんな理由で魔石と掌印を使っていた。
で、魔石を使った後、そこからが冒険者協会からの信頼を勝ち取る上で大事だった。
Sランクの魔物を召喚し始めて、危機感の演出。エヴァニスとニルドにはAランクの魔物を何体もくっつけているから、阻止しにくることはできない。
そこで魔力で作った分身体に俺の腕を斬らせた。ファルスとして、ボロボロになった装備で参戦してきたファルスが大魔族の腕を切り落とせば、大魔族とファルスが繋がっているという線はそうそう考えられない。
しかし、1000年の間に暇すぎて仕方がなかった時に分身体を作って、それ相手に会話していたことがこう役に立つとは思わなかった。
ともかく、街で英雄のように扱われているファルスは、俺の分身体というわけだ。
その後はずっと、疲れることの連続だったな。分身体を操っているのだから当然かもしれないが、とにかくうまい具合に思い描いていた結末に持っていくために、魔術を調整したり、ファルスに適度に魔物を殺させたり。とにかく大変だった。
レッサードラゴンのことも、面倒臭かったな。
どんな生き物も、死んでしまえば魂が死者の都に向かう。その抜け殻になった死体に、魔力を与えて蘇生させる。
冒険者協会にあった魔術の資料では、禁忌として扱われていた。まぁ魔族が使う分には問題ないだろう。
そうやって蘇生させたレッサードラゴンを、ファルス、エヴァニス、ニルドの残った3人に向かわせる。
その時にフューズが隠蔽魔術を使って俺の後ろに回り込んでいたが、それは無視で問題なかった。
そのまま適度に上から観察しつつ、街をちょうど吹き飛ばせるくらいの魔術の術式を組み上げていった。エヴァニスなら術式の雰囲気だけでどんな魔術かはわかってくれそうだったからな。
そうこうしていると、フューズが俺のところまで突っ込んできた。それを竜の尾で薙ぎ払った。
フューズには悪かったが、術式の組み上げをしながらそれをやめずに真後ろを攻撃となると、それしか思いつかなかった。
だが、それでエヴァニスがやる気を失ったのは問題だった。
エヴァニスに働いてもらわなければ、俺の描いていた結末には辿り着けない。ファルスとしてどんな声をかけたらいいかよくわからず、なんとなくで竜を殺す宣言をしてしまった。
本当に運ではあったが、なんとかエヴァニスがやる気を取り戻してくれた。
元々、竜への止めはニルドに刺してもらおうと思っていたが、言ってしまった以上仕方がなかったというものだ。
頑張って分身体を動かして、竜に止めを刺す。そして大魔族目掛けて突撃させる。
そこでようやく、俺の描いていた結末に辿り着けた。
組み上げていた術式を組み換える。詠唱はしなくてもよかったが、保険だ。
エヴァニスの残りの魔力量から、構築できる結界を大体で割り出して、街にそれなりに被害が及ぶも、完全には破壊しない程度の魔術を発動させる。
設定した座標は街より少し西よりのあたりだ。
終わった後に、エヴァニスがなぜ街の真ん中に座標設定しなかったのか、疑問に思っていたが、問題はおそらくない。
とにかく今回の全容はそんな感じだ。
おかげで、今俺は街のどの店に行っても、ただでいろんなものが楽しめている。いつか殺すとはいえ、ありがたい限りだ。
「お、昼休憩の時間だ」
ベルが鳴り、午前の作業の終了を告げる。
街の修復作業をしていた人は、全員が食糧配給の列に並ぶ。その列の半分は、暗い顔だ。
ちょうど終わってからフューズに聞いた話だが、ずっと続いているらしい人魔大戦の影響もあって、国から街に復興の資金は出ないらしい。
まぁ俺には関係のない話ではあるな。
「やあ、今日発つんだったね」
後ろからそう声をかけてきたのは、エヴァニスだ。横にはニルドもいる。
「ええ。ちょうど今から出発しようかと」
俺が作業場の端に置いてある荷物を指さすと、理解したと言うように頷く。
「竜や大魔族の魔力の痕跡が残っている以上、しばらく街には魔物が近づかないと思うけど……君たちに履いてもらった方が僕たちは安心だな」
「何言ってんだ、今度こそ俺たちで全部やるんだろ。新人に手助けしてもらおうとするなよ」
「それもそうか。悪いことを言ったね」
あれだけ魔力が枯渇するまで使ったのに、エヴァニスの魔力は全快している。羨ましいな。俺は今回、エヴァニスの十倍弱は魔力を消費したとはいえ、あまり回復していない。
ニルドも、かなりひどかった怪我がほぼ完治している。
だからこそ、二人はSランクなのか。他のSランクにもぜひ会ってみたいものだ。
「それで、どこに行くんだい?」
「それが……まだ決めていなくて。一応東に向かう予定ですけど」
「まぁここからは東にしか向かえないしね。そうだな……軍国、イェルンヴァイムはどうだい? 軍事国家イェルンヴァイム……人魔大戦の兵力を募っているからね、あの大魔族の腕を切り落とした君には最適だ」
そういえば忘れていたな。俺の敵は人間だけじゃない、魔族もだ。
であれば、なるほどイェルンヴァイム、いいかもしれない。
「では、そこに向かうとします」
「移動は馬か? ん、もしかしてあのリグナの曳いている馬か」
ニルドの指差した先に、アーレがいた。
アーレは今回ほとんど何もしていないからな。魔族とやり合う時には、色々使ってやろう。
「そうです」
「なるほど、いい馬に見えるな」
そうなのだろうか。俺には普通の馬にしか見えないが。
「お待たせファルス」
「あぁ、それじゃあ行こうか」
アーレを馬に乗せ、荷物を載せる。落ちないようにの確認だけして、俺も馬の上に乗る。手綱を握って鎧に足をかけ、準備完了だ。
「それでは、またいつか」
「またね。リグナちゃんも、魔術の鍛錬は怠らないように」
「すぐに会えそうな予感がするが、とりあえず俺より先に死ぬなよ」
その言葉に頷いてから、馬を歩かせる。
とりあえず目指すは軍事国家イェルンヴァイム。この街からだと長旅にはなるが、のらりくらりと行こう。
そういえば、衛兵の誰からイェルンヴァイムは魚が美味いと言っていたな。それに、いい武器が揃っていると。
なるほど楽しみになってきたな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街を出て2ヶ月後、俺はなぜか帝国ストルカリムの宮殿にいた。
横にはアーレだけでなく、エヴァニスとニルドもいる。
なぜ、なぜこうなったんだ。
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