表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/32

28 魔石

 ボトッ。そう音を立てて、切り落とされた腕が落ちた。

 先ほどよりも落ち着いた様子で、無感情で声を上げた。


 「やれ」


 その声に呼応するように、森の中で待ち構えていたであろう魔物が、一斉に出てくる。

 先ほどよりも1体1体の強さは落ちているが、比にならない数がある。圧倒的質量攻撃が、エヴァニスたちを襲う。


 ファルスはというと、その魔物を切り伏せながら、エヴァニスのもとまで向かっていた。

 それを見て、大魔族は即座に腕を治療する。落ちた腕の断面を、肩の断面に合わせるように近づけ、完全につながる。治癒魔術ではなく、まるで奇跡のようであった。


 「エヴァニスさん! あいつ、あいつはなんですか!」


 ファルスがエヴァニスの元まで行くと、そう聞く。

 エヴァニスはただ茫然と、ファルスの顔を見ていた。死人を見たような、そんな顔で。


 「お前、生きてたのか!」


 何も喋らないエヴァニスの代わりに、フューズがそう言った。

 迫り来る魔物の群れをいなしながら、なんとか会話を試みる。ニルドたちも、魔物を食い止めるために、全力で魔物を叩き切っている。


 「……君に、あれの相手は出来るかい?」


 エヴァニスが口を開いた。それと同時に、大魔族までの直線上にいる魔物を爆裂術式で爆散させる。

 その状況で、ファルスが取れる選択肢は一つだけだった。


 大魔族は体勢を立て直して、召喚魔術を再発動させようとしていた。

 とは言っても、窪みに溜まっていた魔力は霧散し、残り少ない魔力で召喚できるとしても、Sランク1体が関の山ではあるが。


 「わかりました!」


 威勢のいい返事を一つして、ファルスはエヴァニスの作った道を抜けていった。

 フューズは、新人冒険者であるファルスをもう一度死地へ送り込むような気がしたが、目の前に集中し直す。ファルスの決断をただただ信じて。


 ファルスは一瞬で大魔族のいる窪みの淵まで辿り着く。そして息を吐く間もないまま、大きな衝撃に襲われる。

 始祖の72種のうちの1種、エリゴスの槍を、なんとか剣で受け止めていた。しかし、その衝撃を逃し切ることのできないまま、吹き飛ばされる。

 だがそれで死ぬほど、ファルスも軟弱ではない。

 すぐに立ち上がり、一瞬で間合いを詰める。

 槍を受け流し、槍の間合いの内側に入ろうとするが、エリゴスの持つ蛇の頭に、それを阻まれる。

 間合いを外して、再度同じことを試みる。が、今回は受け流した槍を脇で抱えるようにして突き進む。

 振り回されそうになると、すぐに槍を放し、大勢の崩れたエリゴスの喉元を急襲する。蛇の頭がまた阻止しようとするも、間に合わない。


 そのままファルスが、Sランクの中でも上位であるエリゴスを、たった一人で、一瞬の攻防で倒した。


 「させないよ」


 ファルスの後ろでそう声が聞こえた。

 見ると、エヴァニスが大魔族の術式に干渉し、発動しようとしていた術式が崩壊している。

 今、その窪みにはSランクの魔物が5体に大魔族、エヴァニスとファルスが互いの隙を探して、静かに立っていた。


 その沈黙を最初に破ったのは、Sランクの魔物たち。それらが全て、エヴァニスの方へと向かう。

 それに合わせて、大魔族はファルスに水魔術で作った弾丸を放つ。ファルスはそれをなんとか避けようとするが、弾丸は左肩を貫通する。

 それにより、一瞬間合いを詰めることを躊躇する瞬間が生まれる。それを大魔族は狙っていた。


 「ッゥ!」


 大魔族の魔力が、元の量まで戻った。ついさっきと同じように、何かを手で握りつぶす動作を取りながら。

 尽きかけていた魔力が、回復した。それをエヴァニスがファルスに伝える前に、ファルスは飛び出していた。

 それでも、連発される魔術の弾幕を前に、回避行動すら取れなくなる。なんとか急所への直撃は免れようとするが、四肢に穴が開く。


 「そんなものか。もっとやれるだろう」


 今までよりも、とことん無関心に思える、そんな淡々とした声で告げる。

 ファルスの動きが鈍ったことを確認すると、弾幕を張るのをやめた。弾幕の代わりにファルスへ与えられようとしているのは、エヴァニスの爆裂術式よりも威力が高いであろう炎球を放つ魔術だった。


 今のファルスに回避手段はない。だが、その魔術は不発に終わる。


 「大丈夫かい?」


 エヴァニスが軽快に、高らかに声を上げる。魔物5体は、始祖の72種でなかったとはいえ、Sランクの魔物を5体相手取り、それを一瞬で終わらせていた。


 「ハハッ、想像以上じゃないか! いい、実にいい!」


 エヴァニスに魔術の発動を邪魔されたと知ると、大魔族は気味悪く叫ぶ。まるで、何か素晴らしいものでも見たかのように興奮し、口角が上がりきっている。


 その隙にエヴァニスはファルスの元まで駆けつける。

 即座にできる限りの治癒魔術をかけるが、本職の治癒士とは比べ物にならない。

 なんとか血が止めることができたが、少なくとも、このまま大魔族と継戦することは不可能だ。

 森から溢れてきた魔物は、ニルドのおかげで、ほとんどが殲滅できている。しかし、大魔族だけが、問題だった。これ以上どうしようもない、そう思えるほどに実力差があった。

 そんな中で、エヴァニスだけが一つの希望を見出していた。


 「僕たちで時間を稼ぐ。その隙にあの魔石を全て破壊することはできるかい?」


 エヴァニスがファルスに耳打ちした。

 大魔族の無尽蔵のように回復する魔力。それがどこから来るものであるのか、エヴァニスだけが、魔力を見ることで突き止められていた。


 魔石の破壊。それは様々な意味を持つ。その中でも、最も多く用いられるのが、魔力の回復のためだ。

 その原理ははっきりと解明されてはいないが、魔石を割るという行為には、そのような結果が伴う。

 そしてエヴァニスは、魔力を見ることができるその視界で、大魔族の手の中で魔力が生まれていることを、はっきりと見ることができた。


 「一度だけなら。でも、どうやって……」


 どうやって時間稼ぎをするのか。圧倒的に格上の相手に時間稼ぎをする方法など、多くない。

 それでも、やらなければ自分たちの街が消えるということを、エヴァニスは理解していた。


 「そこは、頑張るんだよ」


 エヴァニスは一言そう言うと、爆裂術式を叩き込んだ。当然、その攻撃は防御結界で完全に防がれている。


 大魔族はエヴァニスの方を一瞥し、そして土弾を放った。土弾を放つ魔術は、魔術を覚えたての時に誰しもが練習する魔術の一つだ。

 だが、その大魔族の土弾は、密度も、速度も、大きさも、初心者のそれをはるかに凌駕し、エヴァニスの防御結界を簡単に破り得るほどの威力を持っていた。

 それでも、その土弾は防御結界に届く前に二つに割れた。

 ほとんどの魔物の殲滅を終えたニルドが、全速力でエヴァニスの元まで駆けつけ、その魔術を二つに割っていた。


 再度、エヴァニスは魔術を発動させる。今度は爆裂術式でなく、火魔術で。

 炎球が大魔族まで一直線に向かい、そして爆ぜる。その魔術もまた、防御結界によって防がれた。しかし、その結界に一つの小さなヒビが入っている。


 「驚いたかい?」


 エヴァニスの放った魔術は、炎球だけではなかった。先端を鋭く尖らせた、結界にヒビを入れることだけを考えた土弾が、その炎球の中に隠されていた。


 そして、そのヒビを確認する前に、ニルドは飛び上がっている。

 いくら頑丈な防御結界であれど、一度ヒビを入れ、なおかつ魔術ではなく、物理的な攻撃を加えれば簡単に


 「割れる」


 大魔族の結界が、完全に割れた。それをはっきり観測できたのはエヴァニスだけであるが、ファルスにも、それは感じることができていた。

 背後からの一瞬の交錯の瞬間に、大魔族の腰についていた魔石が全て破壊された。

読んでいただきありがとうございます!


もし面白いと思っていただけたのなら、ブックマークをして欲しいです。


また、評価もお願いします。面白ければ★5個を、面白くなければ★1個でもいいです。お願いします。


質問や感想等も、何かあればバシバシください!


応援していただければ、こちらのやる気も漲るので、お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ