21 報告
「フューズはいるか?」
街の冒険者協会に戻るなり、ニルドが片足で扉を開けた。建物内がとてつもなくうるさいから、周りへの配慮なのか、扉は閉まっていた。
大きな音を立てて開いた扉の方に、建物内にいる冒険者全員が注目する。その中には、受付で談笑している支部長もいた。
既に日が沈みかけていることもあり、建物にいる冒険者は、全員酒と夕食を楽しんでいる。
そして少しの沈黙が流れた後、どよめきが起こった。
無理もない。この支部で一番強いらしいSランクのニルドが片腕をズタボロにして帰ってきたんだ。一応、その原因はエヴァニスの魔術ではあるが。
「……中に入れ。お前らもだ」
一瞬で事態をおおよそ把握したであろう支部長は、俺たちを指差しつつ、ニルドとエヴァニスにそう言った。
Bランクへの昇格の時は世話になったし、話の通じる人間ではある上に、冒険者協会の支部長という肩書きもある。繋がりを持っておくには申し分ない相手として、何度か話しかけてみたが、やはり気さくな人間であった。
それが今、かなり真剣な表情でこちらを見つめている。
ちょうど俺も事情聴取をされそうだし、聞けそうなことは聞いてみるか。
そんなことを考えながらニルドの後ろを歩くと、建物の一番奥らしき部屋に着いた。
「で、何があったんだ」
「竜がいた」
支部長の質問に対して、エヴァニスは食い気味に答える。
その答えを聞いた支部長の顔はというと、汗を滲ませながら険しくなっている。
「……竜、か」
とてつもなく重い空気が部屋に流れているが、それに俺は疑問を感じてしまう。
はっきり言って、今日俺たちを襲ってきた魔物は、俺が魔術を使えば一瞬で殲滅できる自信がある。なんなら、竜もいたが、おそらく下級竜種のレッサードラゴンだ。負けるはずがない。
それが、Sランク2人に元Aランクの支部長が揃っているのにも関わらず、こんな重い雰囲気を作っていては、そもそもなぜ今までこの街が残っているのか疑問が湧く。
ここは大森林からそれほど距離は離れていないはずだ。さらにレッサードラゴンなど大森林には少なくとも500以上はいる。
今もこの街のすぐ近くの森にいる以上、今までもこのようなことがあったと考えるのは容易い。
「そんなに深刻なことなんですか?」
こう言う時は聞くに限る。せっかくこの場に呼ばれているのだからな。
「君ねぇ、深刻ってだけじゃ済まないんだ。 少なくとも竜がこの街の近くに出るなんて400年近く昔なんだ。その情報も文献に残っているだけだから、本当かどうかはわからない」
「あぁ……付け加えて言えば、確実に魔物の暴走が起きる。今日みたいにな」
なかなか想定外な回答だ。400年以上もこの近くに出ていないとは。
であればますますわからないな。なぜ今、大森林から出てきたんだ。
それと、400年前というとあれか。俺の家の近くを通った三対竜がいたな。そいつなのだろうか。それなら、今回の竜は一対の下級竜種なのだから、400年前の個体と比べたら雑魚もいいところだ。
そうかそれでか。400年前に三対竜に酷くやられたから、こうして頭を抱えているわけだ。
なるほど、少しずつわかってきたぞ。
「とにかく、緊急依頼を出してくれ。Bランク以上で森の調査だ」
後ろについてきていた受付の人に、支部長はそう伝えた。
森の調査はする必要がないと思うが。しかし、そうだな。楽しそうなことを一つ思いついたぞ。
どうせこの街はあと一月以内に出る予定だったんだ。せっかくなのだから、荒らして行こう。
「僕たちも調査には参加するよ」
そう言ったエヴァニスを支部長は少し睨みつける。
「お前らは休んでおけ、特にニルド。調査が完了次第に連絡するから、しばらく冒険者協会と提携している宿に泊まってくれ。金は俺が出そう」
「いや、俺は怪我を治させてもらうが、エヴァニスは連れていけ。それとファルスもだ。」
「……わかった。だが先陣として起用するのは無しだ。それでいいな?」
「うん、僕はそれで構わないよ」
「同じく」
正直面倒臭いが、確かに近くで状況を見ることは大切か。
せっかくだし、この街を荒らす前に情報収集を色々してしまおう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんにちは、オットーさん」
「おう、久しぶりだな」
目の前にいるのは街に来たばかりの時に世話になった衛兵だ。
ストラスを担ぎ入れるのを手伝ってもらって以降見かけなかったが、どうやら親戚の見舞いに行っていたらしい。
今日は、前に奢る約束をしていたから、それを口実に情報収集をしようという魂胆だ。
とはいっても、普通の衛兵にそれほどの情報を期待してはいない。
最低限、ここ1000年の歴史の概要と、その他で知っておいたら良さそうなことを聞くだけだ。
ちなみに、昨日も今日も人前では空気になっていたアーレは、いつも通りエヴァニスに連れ去られていた。俺としては、アーレが変なことをしなければそれでいい。
「おすすめの店があるんでしたっけ?」
「そうだ、ここを入ったところだ」
路地裏。この街に来てからあまり入ってはいないが、大体の雰囲気は覚えた。
一つの街であるとはいえ、それなりに大きいし、広い。そんな街の路地裏には、当然のように浮浪者がうろついている。
それと暇な時に上から観察してわかったことだが、浮浪者は三つの種類に分けられた。
まず一つ目は犯罪をして生計を立てている者。
二つ目に健全な仕事をして生計を立てている者。
三つ目に子供だ。
犯罪をして生計を立てている者は、そのほとんどがうなじの下あたりに焼印みたいなものがあったから、過去に犯罪を犯して今もやっているという感じだろう。
健全な仕事をしている浮浪者はというと、確実に稼ぎは犯罪よりも少ない。とはいえ、俺が街に来てから、1人雇われていった奴がいたから、選択を間違えてはいないんだろう。
子供に関しては、仕方がないというべきか。親を亡くしたか、親に捨てられたか。考えられるのはその辺りだ。
さらに、その三種類で生活圏が少し違うということも確認できた。
そして、今衛兵が入っていった路地裏は、子供の浮浪者がいる路地裏だ。
「少し待っててくれよ」
路地裏に入ってすぐの、板を貼り付けたような小屋の前で立ち止まると、衛兵は俺にそう言った。
ここがおすすめの店なんだろうか。外見からすれば、表通りにある店より美味しいとは、到底思えない。
それに、ここで立っていると浮浪児達からの視線が痛い。
物乞いなのか、羨望なのか、それとも失望なのか。判断に困る視線だ。
そう思っていると、大きな音と一緒に、目の前を大きな物体が通り過ぎていった。
小屋の扉を衛兵が破壊しながら、出てきた。いや、吹っ飛ばされたと言った方が正しいか。とにかく、綺麗に飛んできた。
「……お前がオットーの言ってた客か。入れよ」
とりあえず衛兵の方は振り返らずに小屋の中に入った。振り返らない方が衛兵のためとも思ったからな。
小屋の中は、思った通りのボロボロの小屋といった感じだ。
おいてあるテーブルや椅子も、サイズの合っていない木をとってつけたようだ。
しかし、趣きはあるな。そんな第一印象だ。
「いつも通りのやつを、こいつにも」
後ろから衛兵が言った。失神していたと思っていたが、鍛えているのだろう、意識を取り戻すのが早い。
「お前来るの一年ぶりくらいだろ。いつもなんてない」
「シチューだよ。前にいつも食ってた」
衛兵の言葉を背中で受けて、鍋に火をかける。
薪が爆ぜる音がし始めると、外から数人の浮浪児が入ってきて、一つのテーブルを加音で座った。
まるで、いつもの定位置だと言うような、そんな風に流れるように座った。
「兄貴がずっとやってる店なんだ。味は保証するよ」
とりあえず俺はその言葉を聞いてから、色々話しながらシチューが届くのを待った。
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