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18 依頼完了

 ニルドが受けた依頼はすぐに終わった。

 依頼の内容は村を定期的に襲撃してくるリカントの群れの討伐。最初に遭遇した2匹はおそらく斥候か何かだったんだろう。


 リカントの群れは、村から歩いて1時間ほどの場所にあった。数はだいたい200くらい。それなりに大きな集落だった。

 ニルドが依頼のランク以上だのなんだの言っていたが、それはよくわからなかった。

 一度俺の住んでいた山の近くにも、リカントの上位種が500近い群れの集落を作っていたことがある。

 あいつらは迷惑ごとしか起こさないし、俺の食べ物をとってくるから、見つけ次第潰したが。


 そして、重要だったのはニルドとエヴァニスのお手並みなわけで、いい結果が得られた。

 エヴァニスの方は、一度やり合ったことがあるから分かってはいたが、魔術の腕はそれなりといったところだ。とはいえアーレなんかよりは圧倒的に洗練されていた。

 ニルドは、多分かなり強い。冒険者協会にいる人たちはエヴァニスの方が格上なんて言っていたが、そうでもないはずだ。そもそも戦士は基本、魔術師より強いしな。

 で、ニルドは俺が剣を使ったら、なんとか俺が勝てるかな、というくらいの強さだ。はっきりと分かったわけじゃないが、体の使い方が上手い。


 50年も生きていなさそうなやつに、300年も鍛錬した俺が勝てるかどうかとは、情けない。まぁ俺は才能があるわけじゃないしな。

 あと、二人とも内包されている魔力量がかなり多い。流石に1000年も鍛錬してきた俺とは比べられないがな。ここ、強調しておこう。

 ただ、前に殺した勇者と同じくらいの量だ。

 エヴァニスはアーレに教える時に言っていなかったが、戦士は魔力を体に巡らせて身体能力を強化している。

 だから、ニルドの身体能力にも納得だ。あと、そもそもで筋力があるから、魔力を奪っても太い丸太なんかは軽々と持ち上げられそうだ。


 「どうしたんだい? 色々考え詰めている顔をして」


 今、エヴァニスとニルドは討伐証明として、リカントの歯を抜き取っている。冒険者協会の討伐依頼は、討伐証明が必要らしい。


 アーレはそれを見ながら手伝い、俺は木の上で食事中だ。血生臭いが、あの村の死体の山ほどではない。


 「いえ……街に戻ったら何をしようか考えていただけです」


 エヴァニスは冒険者協会にいる他の魔術師よりかは魔術に対する理解がしっかりしているように感じられたし、アーレを任せてもいいとは思う。決めるのはアーレだしな。

 あと、俺も街での自由時間が欲しくなってきた。今の俺には圧倒的に持っている情報量が少なすぎる。そこをなんとかしなくては。


 「エヴァニス、こっちは終わったぞ」


 「こっちも終わったよ。そろそろ帰ろうか」


 ニルドが持っていた皮袋をパンパンにしてエヴァニスの元まで来た。

 アーレはというと、手が血だらけになっている。それはエヴァニスとニルドも同じだ。汚いから後で洗わせよう。

 それにしても、あの死体を放置する気だろうか。放置すればもっと強力な魔物を招く羽目になるぞ。


 「死体は放置するんですか?」


 「ん? いや、僕の魔術で燃やしていくよ。危ないからね」


 よかった、今すぐにでもこの場を離れそうだったが、そこの認識はしっかりしているらしい。


 「そうだ……リグナちゃん、やってみるかい? 魔術の練習だよ」


 「え? えっと……」


 おいアーレ、こういう時に俺の方を見るな。

 それにしても、アーレがエヴァニスの前で魔術を使うのは初めてか。特に問題はないと思うが、少し嫌な予感はする。


 「その……リグナが魔術を使うのは多分初めてなので、手本というか、それを見せてもらっても?」


 これならボロは出ないはずだ。アーレもエヴァニスの使う術式を真似ればいいだけだから、簡単だろう。


 「そうかい。なら陣を描いて術式を組み上げる感覚から掴んでいこうか」


 エヴァニスがそう言って地面に陣を描き始める。魔術陣の書き方にはいろんな法則があるが、理論さえ理解してしまえば描くのは簡単だ。

 属性、規模の順番で描いた後、射出速度や温度、質量なんかは後から細かく調整していく。

 最初は面倒な作業だが、慣れれば感覚で1秒経たずに終わる。


 「これを描いて魔力を流してみて。そしたらできると思うから」


 エヴァニスに言われて、アーレが同じように魔術陣を描く。魔術陣は何度か描かせたから簡単にかけるはずだ。


 案の定、すぐに描き終えて魔力を流す。

 そして次の瞬間、リカントの死体の山を大きい火が覆った。

 だがなんだ、この違和感は。

 エヴァニスが魔術陣を描いている時から少し違和感を感じていた。


 そうだ、圧倒的に魔力消費の部分が非効率すぎる。


 「なんか思ったより気持ちいい、のかな?」


 「それが魔術を使う感覚だよ。これからもっと練習しようか」


 アーレの言う通りだ。元々内包している魔力量が多いから、そこまで影響はないように見えるが、俺が教えた魔術と比べると、魔力の消費量が少なくとも5倍はある。


 そう思って魔術陣を確認してみたが、すぐに違いが分かった。

 簡単に言うと、術式が汚い。術式を組む上で、省いても問題ない部分が、何個もくっついている。

 あれでは魔術を発動させた時に余計な部分にも魔力を流すことになるから、その分ロスが出る。

 この魔術陣を考えた奴は多分相当なバカだな。

 とはいえ、余計ではあるが効果がないわけではない。どんなものがついているかというと、暴発防止に不発動の時の保険、指定した座標に術者がいるときは発動できない、といったことだ。

 正直、技量が上がれば入れなくて問題ないが、それがテンプレートの中に組み込まれているのだから、排除するという考えが浮かばないのだろう。

 これなら、俺とエヴァニスが同じ魔力量だったとしても、そこの違いで、エヴァニスの方がすぐに魔力切れになる。


 まぁエヴァニスも、元の魔力量がそれなりにあるから気にならないのかもしれないが。

 さっきも何度も魔術を使っていたが、魔力量的には全く問題なかったしな。

 しかし、少し興味があるな。大魔族として魔術を使うときに、魔力が無尽蔵と思われる可能性がある。

 どんな相手でもそうだが、自分を低く見せて戦うに越したことはない。その方が油断というものが生まれる。


 よし、俺も少しその魔術について勉強してみよう。


 「焼き終わったし、帰ろうか」


 いつの間にか、リカントの死体が全て灰になっていた。かなりの火力で焼いたから、骨までが灰になっている。

 色々と検証したいことはあるが、それはまた今度にしよう。


 それにしても、面白いことが知れたな。

 今まで魔術士きは必要最低限のもののみで構成していた。そっちの方が発動までが早いし、消費する魔力量も格段に抑えられる。

 だがこうして色々余計なものが追加された魔術を見ると、汚いと思うと同時に可能性を感じてしまう。

 まぁ実験をしてみないとわからないから、そこを考えるのは今度なわけだが。


 「それで……今日着いてきてくれたってことは、僕の弟子になるっていうことでいいんだよね?」


 前を歩いているエヴァニスがそう言った。

 正直、弟子入りなら俺もしてみたい。俺が知らない魔術の応用なんかを知っていそうだしな。というかそもそも、1000年も経っているんだから、魔術が開拓されているのは当然か。


 「はい、お願いします」


 正直予想通りだったから驚きはしない。

 そもそも、ここに来る途中までのアーレの顔を見ていたらわかる。

 というわけで、ここまでは予想通りだ。


 次は俺の番だな、俺も弟子入りさせてもらおう。


 「それなら僕もお願い──」


 「そうだな、ファルスは俺のところで一緒に鍛錬しよう」


 は、ちょっと待て、俺はエヴァニスに着いて行きたいんだが。


 「いいじゃないか。ニルドも大剣以外の武器の使い方を教えてもらいなよ」


 「いや、僕は──」


 「確かにな……俺としても大剣以外を持っておいた方が安心だ」


 勝手に話が進んでいくこの感覚、昔経験したことある気がする。

 鮮明に覚えているわけではないが、流されて面倒ごとを預けられたりした。

 とはいえ、俺はこれに対して対策を持ち得ない。

 仕方がないか、どうせ鍛錬なんかは近くでやるんだろ。気になれば見に行けばいい。


 「……よろしくお願いします」


 悔しいが、俺のコミュニケーション力がなかったということだ。諦めよう。

 そうだ、今日は魔術に関して見聞を広められたんだからいいじゃないか。俺の好きな魔術についてさらに知ることができたんだ。それだけでいいんだ。


 俺はそうして自分を納得させながら街への帰路についた。

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