16 奢り
血抜きの終わったストラスを背負って山を降りていく。背負ってと言っても、足とかのいらない部位は切り落としてある程度軽くした状態でだ。それでも馬一頭分の重さはあるだろう。俺の体が羽毛とかに埋もれてしまいそうだ。
それにしても、この森は強い魔物が多いな。というか、弱い魔物が少ない。
そこまで魔力的な変異は見えないが、まぁそこら辺はなんか理由があるんだろう。あとで探してみよう。
まずはこれを街まで持って帰って、冒険者協会に提出する。確か魔物を倒すだけでも金がもらえたはずだ。これがいくらになるのかは知らないが、それなりに高くつくはずだ。
奪った金もいつまで持つかわからないし、さっさと安定して稼げるようになろう。
それと同時に、相場なんかも調べないといけないな。それを知らないとぼったくられる。
「アーレ……もう少し早く歩けないのか?」
後ろを振り返ってアーレに聞く。
俺と同じように、ストラスを背負っているが、とにかく歩くのが遅い。背負っている重量はだいぶ軽いはずなんだがな。
魔力切れにはなっていないはずだしもっと早く歩けるだろう。
少し持ってやってもいいが、面倒くさいしな。
どうせあともう少しで着くんだ。もうちょっとだけ頑張ってもらおう。
それはそうと、森を抜けて門が見えてきた。
そういえば、あの衛兵にもらった網籠を森の中に忘れてしまった。大事なものだったら申し訳ないが、あとで弁償しよう。
「ちょっと、ヴォルド……ハァ、疲れたから休憩……にして」
後ろから消え入りそうな声で言われるが、仕方がない少し休んでやるか。
そう思いながら門の方を見ると、少し騒がしそうにしている。何やら、衛兵十数人と冒険者の何人かがこっちに向かって走ってくる。
面倒ごとならごめん被りたいが、逃げるのもそれはそれで面倒臭い。
とりあえず何も悪いことはしていないはずだし、ここで待機しておこう。
そう言えば、森のことで少し気になったことがもう一つある。森のさらに奥の方だったか、かなり濃い魔力の塊があった。
多分あのレベルだと竜種だろう。とはいえ、話も通じないようなレッサードラゴン程度ではあると思うが。
竜種がこんな人里近くの森まで出てくるとは思わなかったな。今度見に行ってみよう。
「あれ……ファルス達じゃないか。どうしたんだ?」
色々考えていたら、後ろから今朝も聞いた声がした。
「……どうしたんですか? 大所帯ですけど」
衛兵の後ろに続くのは大体20人くらい。人の出迎えにしては大所帯だ。
何かしたのだろうか。
「いや、このストラスが生きているんだったら大問題だったが……死んでるな。ご丁寧に血抜きまでされて」
「森で倒してきました。これから売ろうかと。あ、そうだ……今度これを売った分でご飯を奢らせてください。前に言っていたお礼です」
「それはいいが、よし。街まで運ぶのを手伝ってやる」
「いいんですか? 別に僕らだけでも運べますけど」
「いや、やらせてくれ。どうせお前の妹も疲れてくたばりそうなんじゃないか?」
色々話が進んでしまったが、持っていってもらうのに特に問題はないはずだ。見られて困るようなものはない。
強いて言えば、殺し方は眉間に一髪だったが、剣で殺したように見えるよう、加工したところくらいか。まぁなかなかバレないだろう。
「わかりました。お願いします」
俺がそう言うと、後ろにいた人たちも含めてストラスを担ぎ始めた。
普段から鍛えている衛兵と冒険者が揃えば、ストラス程度簡単に運べる。おかげさまで俺たちが運ぶ分も取られてしまった。
楽ができる分にはいいが、アーレの体力作りになってくれるとも思っていたんだがな。
とは言え助かるのは事実だ。今度衛兵に奢る食事は、奮発したものにしよう。
色々考えたいことはあるが、それも今度だな。今はこれを冒険者協会で引き取ってもらうことを考えよう。
そうこうして考えていたらすぐに冒険者協会の目の前まで着いた。
街の移動が楽だったのは、ストラスを運んでくれている人たちのおかげだな。あとで感謝しておこう。
「中に入れていいか? そろそろ下ろしたい」
「あぁ、えっと……どうぞ」
俺が言い切る前にすでに扉を開けていたが、そこには言及しないでおこう。
さて、冒険者の皆様には見慣れた光景なはずだ。俺の時もそうだった。一週間に一回くらいで大きな獲物が運ばれて来ていた。
それらよりストラスはだいぶ強い魔物ではあるだろうが、それでもある程度見慣れているだろう。なんて言ったってあの森は魔物の巣窟だ。
「これの引き取りをお願いします」
受付まで行って、お願いした。
引き取ってもらうのは頭と臓物、肉に羽毛だ。
頭と臓物なんかは薬に使ったり家畜の餌に使ったり、肉は食用、羽毛は魔力を拡散させるから色々と使い道はあるだろう。あまり相場は知らないが、二ヶ月分の生活費が手に入る取りがたい。
「……少しお待ちください。確認をとって参ります」
受付の人はそう言って奥に消えていった。
確認というと何を確認するのだろうか。これが本物なのかとか、素材の質がどうかとかか。血抜きなんかは綺麗にやったから文句は言われないはずだぞ。
「……ねぇ、これは君が倒したのかい?」
後ろから声。これまた昨日聞いた声だ。しかも既に酒入りとわかる。
「エヴァニスさん、でしたっけ? はい、僕が倒しましたよ」
一瞬の沈黙が流れていく。何か嘘をついているように思われたのか。いや、そもそもこいつは俺のことを件の大魔族だと思っているのか。厄介だな。
最悪の事態になれば、この場を爆散させて逃げよう。エヴァニスがSランクでここのトップなら逃げることはないかもしれないが、人が多い。念の為だ。
「いやぁ、そうかそうか。すごいね君。多分ニルドでもてこずるんじゃないかな? それに……一刀両断だ」
Sランク魔術士のこいつにはバレるかもしれないとは思ったが、酔っていて助かった。
ニルドというとあの戦士のことだろうが、あいつもSランクだったはずだ。ストラスにてこずるのか。意外だな。
ストラスに対して戦士は相性がいいはずなんだが。
「すみません、お待たせしました」
お、きたきた。昨日宿に泊まるのにかかったのが銀貨2枚だったから、金貨が1枚2枚あればいいな。
「ストラスの全身ということで、金貨が1046枚になります」
は?多くないか?
いや、これがどれだけ希少なのかは知らないが、それだけあるなら40年は何もしないで暮らせるぞ。
「すごいね、初めてで1000枚越えか。そうだ……Sランクを単独で倒したんだし、支部長に君をBランクに上げるように言っておくよ。緊急の依頼なんかで君が受けられなかったらおかしいしね」
何が起こっているのかよくわからない。とにかく流れに任せるしかなさそうだ。
それにしてもストラスがSランクなのか。確かに希少ではあるだろうが、召喚でもなんでもすれば素材はある程度集まる。もっとも、天然の方が素材としての価値が高いのはいうまでもないが。
俺が一撃で倒せるような魔物が金貨1000枚なら、大富豪にでもなれそうだ。
ああそれでか、こいつがずっと酒ばかり飲んでいるのは。
「それとだ……やはり君についていけるようになるためにも、君の妹を僕の弟子に、ッたぁ」
アーレを弟子にしたいと俺に耳打ちを始めた瞬間、ニルドに頭を上から叩かれた。いい音が鳴ったな。
「すまない、変に絡むなと言ったはずなんだがな」
そう言って奥の方に連れ去られていく。哀れだな、エヴァニス。
さて、俺がやらなければいけないことはまだ残っている。
エヴァニスのことはニルドがなんとかしてくれたが、他の冒険者のことはそうともいかない。
新人がいきなり大金を手にすれば、誰だって気分が悪くなる。
そして今、まさに痛い視線を向けられている最中だ。
だが残念だったな。これに関しては回避する方法を知っている。とは言っても1000年前の荒技だから通じるかどうかはわからないが。
「すみません、そのお金から今日この場にいる人たちに奢ってください。僕はとりあえず金貨10枚だけ貰っておきます」
俺が受付の人に言い終えると、想像した通りの大歓声が上がる。昔新人がこれをやっているのを見たんだよな。確かにあの時は気持ちが良かった。
とりあえず、これに関しては一件落着でいいだろう。さっさと宿に戻って寝よう。
それにしても、これで早くSランクになるという目標には一歩近づいたな。あとはアーレにもランクを上げてもらうことだけだ。
このままこの街にも少しずつ馴染んでいこう。
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