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15 魔術の授業

 エヴァニスなる魔術士に絡まれたあと、冒険者登録を済ませ、そのあとは冒険者協会と連携しているという宿に泊まった。

 相場は知らないが、協会の人が言うにはなかなか安いらしい。まぁ今の俺の金は奪ったものだし、どうでもいいか。


 そして今、起きた後宿での朝食が終わり、街の外に向かうため門のすぐそばまで来ていた。


 「おはようございます」


 昨日覚えた背中が見えたので、声をかけた。


 「ん? お、お前らか。どうだ、登録は終わったか?」


 昨日冒険者協会まで案内してもらった衛兵さん。お勤めご苦労様なんだが、世界の敵とやらを街に入れてるぞ。


 「はい……おかげさまで。依頼を受けたので街の外に出ようと思います」


 依頼はここまで来る前に冒険者協会に寄って受けてきた。


 森での狩猟罠の設置。とは言ってもこれは街の外に出るための口実だ。

 メインの目的はアーレを鍛えること。

 魔術を色々叩き込む。俺は教えることに関して自信がないが、とりあえず俺がやっていた鍛錬と同じことをやらせよう。そういう魂胆だ。


 さっさと行こう。


 「おお……ちゃんとカードをもらったんだな」


 身分証となった俺の冒険者カードを差し出す。


 暗号化された術式で魔術が組まれていて、複製はできないらしい。とはいえ、暗号を解いてしまえば複製は簡単だったが。


 「はい……それでは行ってきます」


 「あぁ待て待て。ちょっとここで待っていてくれ」


 「何? どうしたの?」


 衛兵が門の中へ走って行ったのを見て、アーレが顔をだす。さっきまでずっと後ろで隠れていた。


 「わからない。が、何か俺らに用事があるんだろう」


 そう答えていたら、すぐに門から出てきた。

 手に握っているのは籠か?


 「すまんな……ほれ」


 差し出されたのは網籠。匂いと重さから考えて昼食か。


 「嫁に言われたんだよ。お前らに今日会ったらこれを渡せって」


 「ありがとうございます。大事に食べますね」


 俺はそう言って差し出されたものを受け取り、門をくぐった。

 アーレもそれについてくる。


 そのまま俺は後ろに手を振って街を後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 森の中、依頼の罠は設置が完了して、俺たちはそのさらに奥にいる。

 周りは完全に高い木に囲まれて、暗くなっている。

 そんな場所まで来て俺はアーレに何をさせたいのか。


 簡単だ。魔術の鍛錬をする。


 「よし、アーレ。ここでやろう」


 「やろうって……何を?」


 「それは後から教える。とりあえずこれを持っておけ」


 俺がアーレに放り投げたのは村の襲撃の時も使った魔石。

 魔力切れになって死なれては困る。もちろん、魔力切れ程度では人間は死なない。

 俺が死を心配する理由は別のことだ。


 「それじゃあ準備はできたな。よし……始めるか」


 「始めるって何を」


 アーレの声を無視して俺は術式を組み上げる。そしてそれを発動させた瞬間、あたりからこちらに一直線に向かってくる音が全方位からしてくる。


 この森は入っただけでわかるが、奥に入れば大量のそれなりに強い魔物がいる。

 この音は、そいつらがみんな近づいてきている音だ。


 「ちょっと、これどういッ──」


 アーレが全力で術式を構築した。

 使役魔術。だが、器に魂が入った後の魔物にはそれは効かない。


 別の魔術を昨日宿で教えただろう。さっさとそれをやって欲しいんだが。


 「水だ水。水を使え。火はダメだからな、山火事になる」


 上から飛びながらアーレに指示を出す。

 見えるだけでも、マンティコラにキマイラ、バジリスクもいるな。いいね、これぐらいが最初はちょうどいい。


 「昨日教えたはずだぞ。イメージだ、さっさとやれ」


 昨日宿で教えたのは基本の四属性の攻撃系の魔術、なのだがアーレが一向に術式を発動させようとせずに逃げ惑っている。

 やってしまえば簡単なのだから、さっさとやったほうが楽だろうに。


 「術式を発動するだけだ。早くやれって」


 「うるさいな! これじゃあ集中して術式を組み上げられないよ!」


 下から悲痛な叫びが聞こえてきた。


 仕方がない。


 「これでいいだろう」


 アーレの元まで降りて防御結界を展開する。

 結界に阻まれて、魔物たちが重なり合う。結界越しに手に伝わってくる感覚がなかなか気持ち悪い。

 さっさとやってくれ、アーレよ


 「こう……?」


 アーレがそう言いながら水刃を作って放つ。この結界は内から外に出ていくことは許可しているから、アーレの魔術は結界に阻まれることはない。

 そのまま、マンティコラの目が潰れた。


 「よし、そのまま打ち込みまくれ。どうせ魔石がある限り魔力切れは起きない」


 ズバズバと目の前の魔物が少しずつ細切れになっていき、向こう側が見え始めると、俺の魔力探知に一つ面白いのが引っかかった。


 これはデザートとしてアーレにプレゼントだな。


 「ハァッ……!」


 目の前の魔物を細切れにし終えると、アーレが肩を揺らしながら大きく息を吐いた。


 「私を殺す気?! あんなんじゃすぐに死んじゃうわよ!」


 まぁ俺も見ながらそれは感じたな。次は少しレベルを落としてやろう。

 だが──


 「まだデザートが残っているぞ」


 俺がそう言うのと同時に真後ろの木が倒されて、その陰から出てきた爪が防御結界に少しのヒビを入れる。

 アーレは腰を抜かしているが、問題な。すぐに立ってくれるはずだ。

 それにしても、やはりこいつはいいな。


 「何これ……」


 「ストラスだ。俺の住んでいた場所にも100年に一度くらいで出たが、なかなかに強くて美味いぞ」


 ストラス。見た目はデカいフクロウだが、さっきのキマイラなんかを餌にしているだけある。本当に少しとはいえ、俺の防御結界にヒビを入れるのは流石だ。


 それと少し厄介な性質もある。


 「ちょうどいい……練習だ。あいつに魔術をぶつけまくれ、俺が拘束しておいてやる」


 アーレにそう指示を出し、俺はストラスの足を魔術で作り出した沼に沈める。


 こいつの厄介な性質、それは魔力を拡散することだ。

 魔力というもの自体説明が大変だが、魔術で操っている限り、魔力を伴う。

 例えば、今アーレが全力で水刃を打ち込んでいるが、あれに関しては最悪だ。ストラスに対してはなんの効果もない。

 ストラスのように魔力を拡散させる魔物はそれなりにいる。どれもかなりの強さを持っているが、竜種なんかはその最たる例だろう。魔物と呼んだらあいつらは怒りそうだが。

 ともかく、魔術を乗せない攻撃をすればいい。魔術しか使えないアーレはどうするのかって?考えればすぐにわかる。


 「アーレ……魔術で水を作って、それを全力で圧縮しろ」


 「え?」


 「いいからやれ」


 「分かった」


 アーレは頷いて作った水の圧縮を始めた。

 術式が粗雑だから、かなりの量が漏れ出ているな。今度緻密な術式の組み方でも教えてやるか。

 水の生成と圧縮を始めてから30秒が経過。拳大くらいのサイズではあるが、重さだけで言えば牛と同じくらいはあるな。これならギリギリいけるか。


 「よし、その圧縮の一部を解け。その穴から水をあいつに向かって射出するようにだ」


 「え? ちょっと……そんなの、無理ぃ……」


 アーレが圧縮を解いた瞬間、水が俺の方まで飛んできた。目の前で水の圧縮をしていたアーレは、当然ずぶ濡れだ。何をしているんだか。

 今日はこれくらいでいいか、もう終わらせてしまおう。


 「アーレ、今日はこれで終わりだ。最後に俺の術式の組み方を見て覚えろ」


 アーレにそう言って術式を組み始める。組み始めると言っても、日頃使っていた術式だから、一瞬で組み終わる。1秒もかからない。

 水の大きさは小指の爪程度。だが、重さはさっきのアーレの二倍くらいだ。

 触ってみて確かめるのもいいが、前にやった時はとてつもなく熱かったからおすすめはしない。


 ストラスの体は魔力を分散させる。つまり取るべき手段は、魔術を介さない攻撃か、拡散しきれない魔力での攻撃だ。

 拡散しきれない魔力での攻撃は疲れるし、何よりアーレの学びにはならない。

 魔術を介さない攻撃にも二種類ある。完全に魔術を使わない剣などでの攻撃か、魔術で生み出したもので魔術を使わずに攻撃する。この二択だ。


 今やっているのは後者。全力で圧縮した水が肉や木を貫くというのは、色々魔術を研究していた時に知った。今回はそれをやっている。

 水を全力で圧縮し、極小の一点から放つ。

 そして、それから放たれた水は、圧倒的な速度と質量を以てストラスの眉間を貫いてくれる。


 「どうだ? 分かったか?」


 「えっと……少しだけ」


 よかった、分かってくれたみたいだな。

 とりあえずこのストラスは血抜きして持って帰ろう。美味いからな。

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