12 閑話:宮殿地下
帝都の中央にある巨大な宮殿。その地下に、五百もの奴隷が短剣を持って、円形に並んでいた。
奴隷の皆が中を向き、その視線の先には、大きく、そして複雑に描かれた陣がある。
魔術発動のための陣、それも形状から召喚魔術であるということはすぐにわかる。
地下空間には、八つの魔石でできた明かりがあり、薄暗く全体を照らしていた。
奴隷達の足元にも、魔術の陣が描かれてある。
帝国ストルカリムの皇帝、側近、皇女、魔術士団長、それに五人の魔術士のみが、地下におり、魔法陣の発動を待っていた。
「やれ」
沈黙を破ったのは、魔術士団長だった。
その言葉を聞いた奴隷達は、全員が短剣を自らの喉に突き刺した。
血が垂れ、地面に付くと、魔術陣が薄く光りだす。
魔術に施されている術式は、人族の自死を糧に、それを魔力に変換するものである。
五百人の奴隷の自死によって、その地下空間内は魔力によって過飽和状態になっており、いつ魔力の歪みによって強大な魔物が生まれてもおかしくない状況であった。
『虹橋の門、エヴィグフィエルの鍵、霖風の輦台、穹窿の解錠──』
すべての奴隷が死んだことを確認すると、魔術士団長以外の魔術士は詠唱を開始した。
何節もの術詞が連ねられ、一つの魔術の詠唱として形作られようとしている。
魔術士団長は、地下空間内にある魔力を入念に魔術陣に流していく。
どれも精巧で、同時に空間の壁が振動するほどの魔力の揺らぎが起きている。
今発動されようとしている魔術は、魔術の性質を考えれば、神代魔術であることは明らかであった。
神代魔術、それは神代という魔力の溢れる時代に生み出された且つ、その魔術を行使する神や竜自体が大量の魔力を内包していたため、その発動には非常に膨大な魔力を必要とする。
古代魔術の時代よりは、今の方が世界に満ちている魔力量が多いとしても、神代には遠く及ばない。
そのため、このようにして奴隷の命を燃やして魔力に変換する。
神代魔術の行使は、発動過程に関してのみ言えば、さほど難しいものではない。ただ要する過程が多く、魔力も必要とするために、高度なものとされている。
もちろん、神代魔術の発動には非常に高度な技術が必要になるが、古代魔術ほどではない。
神代魔術とは、そのような魔術である。
魔術の詠唱開始から既に五時間が経とうとしている。
その時間が経つ間、誰一人として座らず、その魔術発動の謹厳さが窺える。
そして、今。
『──霹靂のように落ち、聖竜と共にここへ、顕現せよ』
詠唱が全て終わったと同時に、地下空間内は眩い光に包まれる。
空気が大きく揺れ、魔力が乱れる。
そして大きな魔力の奔流が、魔術陣より流れ出ていった。
既に魔術陣の周りに横たわっていた奴隷の死体は片付けられており、部屋は多少の死臭がするものの、清潔な状態である。
それは、今現れた者を迎え入れるためであり、この魔術を行う、目的でもある。
光が弱まりそれが見えた瞬間、皇帝が魔術陣のすぐそばまで歩いて言った。
「貴殿らは、我が国の、この世界の希望だ。どうか、この世界を救ってほしい」
召喚されたそれは、この世界では見られないような服を着た三人組だった。
女が二人に、男が一人。
三人とも、もれなく魔術士団長に引けを取らないほどの魔力量を内包しており、魔力を扱う才に長けているということは、一目瞭然であった。
長く続く沈黙。それを破ったのは、皇女だった。
「どうか、お願いします。今世界は、魔族という敵の他に、もう一つ、強大な敵を抱えているのです。先代の勇者様は、勇敢に戦ってくださいましたが、世界に平和を取り戻すことは叶わず。新たな勇者としてどうか、どうか、彼の意思を注いでいただきたいのです」
帝国ストルカリムが召喚したのは、異界より招かれた勇者であった。
千年前の人魔戦争でも実際に召喚され、魔族との戦争を、一度平定した。
今回もそううまくいくとは限らない。だとしても、帝国は勇者を召喚する必要があった。
勇者と神子の血を引く者の末裔、その国家の存続のために、人魔戦争という状態の中で、帝国に勇者は、必要不可欠である。
「あの、誰が新たな勇者なんです?」
それが、異界からやってきた勇者の発した最初の言葉であった
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