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第1話 無垢なる黒髪乙女とよくしゃべる幽霊少女。

7000字くらいあります。

 真っ暗な闇の奔流に流される私は、自分が誰なのかすら忘れてしまった。

憶えているのは人として最低限の習慣と知識、あとは言葉くらいだった。

名前も記憶とともに抜け落ちてしまったけど、それでも自分の姿は分かる。


艶のある黒髪で紫の目をした年頃の女子…これが私。


これ以外の情報を何も知らない。

まるで、自分なのに自分じゃ無いみたいだ。

けど、この姿が自分だと実感できるから、なんとも不思議な気分だ。

これが本来あるべきものが欠けた状態なのだろう。

そう冷静に分析していると暗闇の中、一筋の光が差し込んだように感じた。


『起きて…起きてください!起きてください!』


それは誰かの声だった。

少し幼いけど鈴のような綺麗な声で、だけどとても可憐な印象を受ける、そんな声。


けれど、どうしてかな?とても聴こえづらくて、今のも消えそうなか細い声だった。


私はその一筋の光に手を伸ばしてみた。

よりはっきりと声が聞こえるようになったのを実感した。


「貴女は…誰?」


私は特に考えることもなく、その白銀の声に応える。

白銀の声と表現したのは、特に明確な理由などは無くて、ただ何となく、そんな印象を声から感じただけだからだ。


『…!起きたのですね!…良かった。』


私のことを認知した白銀の声は、安堵のため息を零していた。

まるで迷子の子供が親や安心できる大人を見つけたかのようだった。


『あの…!突然ですが、私を覚えていますか?自分が誰で、どうしてこんな事になったのかを…覚えていますか?』


白銀の声は突拍子も無くそんなことを訪ねてきた。

けれど私は記憶が完全に抜け落ちていて、オマケに今持っている僅かな情報ですらかなり混濁しているのだ。

だから私は、この白銀の声を憶えていないし、自分が誰でどうしてこのような事に成ったのかも、分からない。

少しの間で情報を整理して、結論を出した私は首を横に振った。


『そんな…!ほ…本当に覚えていないのですか!?私が誰で…アナタがどんな使命を持っていたのかも…!』


悲痛そうな白銀の声だったけど、私にはどうしようも無かった。

何故なら、本当に何も憶えていないからだ。

残念だけど、白銀の声にはその事を分かって貰うしか無かった。


『そんな…。…っ!…いいですか?私の名前はアリス。私は……かつてのアナタと共にこの世界を旅していました。』


白銀の声はアリスと言う名前らしい。

この名前は主に可愛らしい女性に付けられる名前だから、この声は女性と言う事になるね。

それで、どうやらアリスによると、私は冒険者で元々はこの子と旅をしていたらしい。

正確には、私とアリスともう一人、アリサと言う名前の少女と世界を渡り歩いて旅をしていたみたい。


『けど…私は……どうしてか死んでしまって、アナタは≪黒い人≫によって、一度敗れてしまいました。』


けど、ある時私は≪黒い人≫と呼ばれる何者かに敗れ、致命的な傷を負ったらしい。

けど、体を見てみたけど、傷なんてどこにもなかった。

その理由を尋ねてみたがアリスから『わからない』と告げられた。


『そして、アナタも私と同じように記憶を失っているようですね。しかも…私よりも酷く、何もかもがぽっかりと空洞になってしまっていますね…。』


そしてどうやら私は記憶を失っているのは確実らしい。

それだけじゃ無い。

このアリスも記憶が幾つか抜け落ちているみたいだ

けれど、それでも私よりかは軽度のようだ。


『でも、大丈夫ですよ!私がアナタを導きますから!…とりあえず、まずはこの暗い場所から抜け出しましょう!そして、これからのことをじっくりと考えれば良いのです!』


そう言って彼女は私に見えない手を差し伸べてくれた気がした。

その手は見えないけど、確かに私を掴んで離さなかった。


『さあ!まずは起きて、アナタが奪われたモノを再び取り返しましょう!私が…アナタを導いてみせます!』


『だから、起きて。この世界は…アナタを待っているのだから…。』


………。

………………。


 ゆっくり目を開けて、私は手を空へと伸ばした。

視界に入った自分の手は、少しやつれた印象を受けたけど、しっかりした肉付きで肌も張りがあった。


はぁ~…よっこいしょ…!


私はぴょこりとバネのように飛び跳ねて、上半身だけを起こしてピタリと止めた。

動いたときの風当たりで、私は今の状態を何となく察した。


どうやら、今の私は何も着ていないみたいだ。


記憶と一緒に服も何処かに消えてしまったのだろうか?そうこう考えを巡らせていると、何処からかあの声が聞こえた。


『どうやらここは古い遺跡のようですね。どうしてアナタがこのようなところで眠っていたのかは私にも分かりませんが、きっと何か重要な理由が有ったのでしょう!』


暗い夢の中でも聞いた白銀の声のアリスであった。

寝起き早々、アリスは良く喋って色々と自分の考察を私に教えてくれた。

けれど、今の私に色々と言われても、状況を整理しきれていないからあまり反応は出来ない。

アリスの発言を聞いてから、私は周囲を見渡す。


石、水の音、暗闇、空洞音、これらの情報から分析すると、私とアリスの居るここは暗い洞窟の中となる。


その中にポツンと居座る石造りの台座の上に、私は居る事に気が付いた。

遺跡と表現するには少し規模が小さ過ぎるけれど、台座は透明な泉の中央にあり、その泉は不思議な光が輝いていて、その光景を含めると確かに神秘の遺跡と表現するに足りた。

私はその台座の上に裸で寝ていたようだけど、それがますます謎を増やした。

理由をいくら考えても分からなかったけど、とりあえず少し水浴びがしたくなったから、私はその輝く泉につま先から入り身体を浸からせた。


「ん…気持ちいい…」


まるで数年ぶりに身体を洗ったような気分だ。

私は綺麗な水で身体を隅々まで洗いながら、水面に映る自分の姿に目をやった。


夜の闇よりも深みのある漆黒の髪、水晶のように透き通っていて全ての光を呑み込みそうな程に深みのある美しい紫色の目、スラリと引き締まった少女的な身体、そしてあどけなさの残る顔。


ナルシストと言われても可笑しくないけれど、ついつい自惚れるくらいには綺麗な容姿だった。

どんな服を着てもどんな表情でいても、全て違和感なく自分の良さを発揮できるだろう。


…さて、充分に身体を洗ったし、そろそろ行動をしようか。


水を充分に堪能した私は、乾いた地面に濡れた足を付けた。

ヒンヤリとした感触と冷え込んだ風を浴びながら、私はその暗い洞窟の中を徘徊する。

湿気の有る影で染められたその洞窟の中は、少し歩いただけで心細くさせる。

所々にツルハシや斧の残骸が放棄されていた。

更に少し目を凝らして見てみれば、朽ちた木の柱や梁で洞窟を補強されているのが分かった。


『ここはどうやら廃坑のようですね。柱や道具の劣化から察するに、かなり昔に放棄されたみたいですね。』


少し歩いていると、足元に綺麗な石とちょうど良い木の枝を見つけた。

無邪気な子供が外で見つけて拾い集めるであろう、大自然からのお宝だ。

特に理由は無かったけれど、興味を惹かれた私はその【綺麗な石】と【折れた木の枝】を拾い集めた。

とは言え量が多くて持ちきれないし、全てを集めても片付ける場所も無いから、少ししか拾えなかった。


収穫は【綺麗な石】5個、【折れた木の枝】3本だけだった。


少し残念な気持ちになりながらも、私はその廃坑の探索を続けた。

元々は何かが採掘出来たのだろうか、所々に採掘跡が見て取れた。

そして、僅かな鉱物の破片も落ちていた。

何となく屈んでそれを見てみると、それが金色の金属であることに気が付いた。


『これは金属鉱石の破片ですね。ふむ…専門家では無いのであまり分かりませんが、これは恐らく黄金ですね。けど、少し質が良くないですね。う~ん…拾ってもあまり価値は無いと思います。』


どうやらこれは金鉱石らしい。

と言うことは、昔はここは金の採掘場だったのだろう。

けれど今は質が良くない破片しか見当たらないと言うことは、良質な金は採り尽くしたか、殆ど利益にならなくて、ここは廃棄されたのだろう。

とりあえず、綺麗な石を一つ捨てて、この金の破片を拾った。


収穫は【質の悪い金塊】一つ。

廃棄は【綺麗な石】一つ。


まじまじと金塊を眺めながら、廃坑を更に進んで行くと、少しだけ大きな空洞に辿り着いた。

そこには小さな掘っ立て小屋のような場所もあり、【休憩所】と看板で書かれていた。


『何かあるかも知れませんね。行ってみましょう!』


まるで自分が歩いて進んでいるかのような発言だけど、もしかしたら見えていないだけで、実は一緒に歩いているのかも知れない。

とりあえず、私はその朽ち果てた扉を開けて、中に入った。


『う~ん…何だか少し怖いですね。』


そう言った彼女の発言と同じ気持ちで、私はその小さな部屋を捜索した。

何だかお化けでも出て来そうなその不気味な場所だけど、よく考えてみたら、アリスも幽霊だった。

身近に幽霊が居ると考えれば、別に怖くないね。


そうして気持ちを改めて、色々と漁っていると粉塵の被った樽を見つけた。

空けてみると、まだまだ食べられそうな【パン】がいっぱい詰め込まれていて、一緒に【小さな刃物】と薬草のような物が入っていた。


『何個かはダメそうですが…まだ食べられそうなパンもありますね。そして、この刃物は武器としては心許ないですが、一応持っておきましょう!この薬草は…質が悪いですね。枯れていて、しかも元々の薬草自体がそこまで珍しくないですから、価値は無いと思います。』


若干早口で捲し立てられながら、私は適当にパンを囓りながら再び部屋を捜索する。

目が若干慣れてきたお陰である程度見えてきた。

奥にもう一部屋分のスペースがあり、ベットと机が置いてある。

後、壁に掛けられた台の上に小さな木箱も置いてあった。

箱の中にはさっきも見た【質の悪い薬草】と…凄い美味しそうな【黄金色に輝く蜂蜜】が入っていた!

後、それとは別に小さな瓶も中に入ってた。

瓶は何かピンク色の液で満たされていて、臭いを嗅いでみるとほんのり優しい感じだった。


『これは蜂蜜ですね。それとこれはポーションですね。確かポーションはかなり高価だったはずですが、ここにいた人はお金持ちだったのでしょうか?まあ、場所によりますが、金の採掘場で働いてる人は高収入だったらしいですからね。可笑しくは無いですが…』


声を聞きながら漁っていると、足元に何かが落ちている事に気が付いた。

それは古びたぼろ布のズボンと…灰色のオーブのような物だった。


何だろう?何だか、不思議な感じがする。


私はそれに手を伸ばしてみた。

その灰色のオーブは触れた途端に私の指先に溶け込んだ。

その瞬間、私の頭に何かが浮かび上がったんだ。

………。

……。

 その男は金の採掘場で働いていた。

男はどこにでも居るような極々普通の一般の人間だ。

朝起きたら同僚と共に仕事を始め、昼はパンを囓りながら好きな異性のタイプを語り合い、夜は与えられた休憩所で成人向けの雑誌を読み耽る、そんな毎日を過ごしていた。

そんな日々の中で彼はある時、一人の子供を洞窟で見かけた。

その子供は真っ黒な髪と紫色の目が特徴的な少女であった。


「おい!ここで何をしている!」


男は声をかけたが、その漆黒の少女は聞こえていないのか、あるいは聞き流していたのか、男を無視して駆け足で洞窟の奥へと進んで行った。

この洞窟には危険な生物が棲み着いており、度々この採掘場にも襲撃するくらいには狂暴だった。

他人ではあるが、それでも幼い少女に死なれては目覚めが悪いと考えたのだろう、男は一本の斧を手に取り漆黒の少女の後を追った。

道中、地面を這う獣や気の触れた疾病者に遭遇してしまったが、彼は不器用ながらもそれら障害の頸を(刎ね斬り)ながら進み続け、ようやく洞窟の奥地へと辿り着いた。

けれど、そこには誰もいなかった。

追っていたはずの漆黒の少女の姿は何処にも無く、ただ眼前には透き通るような泉が広がっているだけであった。

見失った事を悔やみながらも、男は来た道を戻り、また変わらぬ日々を過ごしていった。

そして、いつの間にか彼は疫病に罹った事で、正気を徐々に失っていった。

いつから感染したのかは分からなかったが、どんなに薬草を煎じて飲んでも、高いポーションを服用しても、決して治ることは無いと気が付いた彼は最期にあの泉に身を投げた。

そこで彼は初めて、あの漆黒の少女を見失った理由を知ったが、そんなことはもうどうでも良かった。

…。

……。

意識は再び小さな部屋に戻された。

今のはまるで、誰かの思い出を追体験をしたような感覚だった。

非現実的だけど、そうとしか表せないような感覚だった。

私は自分の身体を触り、軽くつばを飲み込んで、自分がちゃんと現実にいることを再確認した。


ジジ…ジジ…


今、何かを感じ取った気がした。

さっきの誰かの思い出を追体験した感覚と似ていたが、それは若干違った。


『…嗚呼、ようやく目覚めたんだね。嬉しいな。また、僕と共に生きていけたのなら良かったんだけどね。』


ザザ…ザザ…


『この気配は…彼奴であろうか?約束を果たさねばならぬな…。我が弟子達よ、この夢幻の図書館に集え!知恵を求めるあの客人の為に試練の準備をするのだ!』


ジジ…ジジ…


『時は来た。待ったかいがあったわ。さあ、私の敬虔なる信徒達よ、武器を持ち、聖典を開き、我が権能を拝領せよ。あの子を…我の法から逃れし異端に裁きを下せ。』


ザザ…ザザ…


『復讐しなければ。私達の楽園を奪った、あの漆黒の略奪者に…!おお、無血なる鋼鉄の守護者よ、脆弱なる私達の身体の代わりにあの漆黒の略奪者に復讐の鉄槌を!私達の故郷を奪ったあの漆黒の侵略者に報復の鉄杭を!』


ザザ…ザザ…ジジ…ジジ…


『新しい駒が現れたようね!今回こそ、わたくし様を楽しませてくれますかね?キャハハハハ!さあ!ゲームを再開しましょう!わたくし様の従順なる兵士達よ、準備しなさい!数百年ぶりの戦争ゲームですよ!』


ザザ…ザ…ジジ…ジジ…


記憶の濁流が、誰かの思念が、まるで激流のように頭を流れては過ぎ去っていく。

気まぐれな春風のように、私にその一部分だけを見せては消えていく。

けれどたった一つだけは、何時までも私の中に残ったんだ。


『安心して。アナタの意思は私が引き継ぐから。この穢れた世界を私が代わりに洗い流すから。この世界にある不潔な存在を私が代わりに殺し尽くすから。だから、安心して…安らかに…ゆっくり休んで。』


そうしてクラクラと目を回しながらも、私は薬草を口に含んで苦汁を噛み締めた。

頭を曇らせたあの膨大な情報と思念は、薬草のもたらした苦味によってようやく霧散させられた。


『どうしたのですか?脱ぎ捨てられたズボンをジッと見て…まさかこれを穿くつもりですか!?か…考え直した方が良いですよ!』


どうやら、私が見た光景はアリスには伝わっていなかったようだ。

整理しようか、まずあのオーブに触れた途端に、膨大な情報と誰かの思念が流れ込んだ。

あれらはここで働いていた男の記憶だろう。

けれど、その後襲いかかって来た記憶の激流はオーブがもたらしたモノとは別物だろう。

あれら記憶の激流を見ていた時、私はとてつもない懐かしさと強い激情が湧き上がってきたからだ。

あれらは私の喪った記憶の一部分なのかも知れない。

いや、正確には違うのかも知れない。

感情が動いた情景はたった一つ、最後に見えたあの言葉だけだったから。

とにかく、私には目的が出来た。


記憶を取り戻して、真実を明かしたい。


そのためには、私は世界を旅する必要がある。

そこで、今見つけたオーブに触れて記憶を覗いたり、様々な人々と交流して情報を得たり、世界の隅々まで探索して秘密を解き明かす。

そうやって進んでいけば、きっと私の知りたい真実に辿り着ける。

そして…≪黒い人≫にも出会えるかも知れない。

そのためにはまずは準備をしなければいけないね。

私は志して、そのズボンを拾い上げた。


『え?本気ですか?ばっちいですよ!不潔ですよ!しかもこれ、男の人の…!は…恥ずかしいですよ!』


確かにそれは粉塵や泥によって汚れていて、内側も洗っていないのか、あまり清潔とは言えない。

けれどこの服の持ち主は、不器用だったけれどそこまで悪い人では無かった。

それに、裸のままでいるのはきっと良くないだろう。

勝手に記憶を覗いちゃって更には服まで盗んじゃうなんて、悪いことをしたような気がする。

けれど、これも旅をするために必要なんだ。


『わ…!はわわわわ…っ!?ほ…本当に穿いちゃった…!』


グイっと服を引っ張り上げて、私はそれをしっかりと穿いた。


「ん…ちょっと痛い…」


強く上げ過ぎて肌が擦れて痛かったけれど、何かを着たと言う安心感があった。

紐を限界まで縛ってもまだサイズがブカブカで脱げそうだったから、その辺に落ちていたロープで更にギュウギュウに縛り上げて、ようやくサイズを合わせられた。

部屋にあったベッドのシーツを【小さな刃物】で切り取り、落ちていた【錆びた釘】を針代わりに糸を巻き付けて、数分間かけて縫って、小さな鞄を作り上げた。


消費は【大きめの布】一枚、【小さめの布】3枚、【折れた木の枝】一本。

製作物は【粗製の小型バック】一つ。


鞄自体は古い布で無理矢理作ったものだから、重い物を入れたり、大き過ぎる物を入れたりしたら簡単に底が破けたりするだろう。

それでもこれで、ある程度は物を持ち運べるようになった。

次に私は余った布とこの【綺麗な石】と【折れた木の枝】を使って、武器を作った。

簡単なデキだ。

布に石をいっぱい詰めて、それを紐でつなげて枝に巻き付ける。


消費は【綺麗な石】4つ、【折れた木の枝】2本、【小さめの布】2枚、【荒めの縄】一本

製作物は【粗製の簡易フレイル】一つ。


枝は一本だけだと直ぐに折れてしまうだろうから、こうやって二本に纏めて少しでも耐久性を上げた。

それでもぼろ布で作ったから多分少し使っただけで、重りとなる石が入った袋部分が破けて中身が落ちてしまうだろう。

それでも、武器にはなるだろう。

最悪の場合、【小さな刃物】を武器にしたり、その辺に落ちている物を武器に代用すれば良い。


『す…凄い器用ですね。この短時間でこれ程の物を作り出すとは…とても記憶を失っているとは思えない程の手際ですね。』


アリスが関心と畏怖の感情を言葉にした。

確かに考えてみれば、記憶を失っているはずなのにここまで出来るのはかなり異常であり、それは実を言うと私自身でも驚いている。

そういえば、彼女は私がかつて名を馳せた冒険者だったと言っていた。

この技術力と行動力はその頃から在った私自身のモノだろうか。

それとも、さっき見た労働者の記憶から抽出した他人のモノだろうか。

でも、どちらにせよ、それも記憶を取り戻していけばきっと分かるだろう。

もう一度【パン】と【質の悪い薬草】を頬張ってから、残った物を鞄に詰め込んだ。


収穫は【パン】3つ、【質の悪い薬草】2束、【黄金色に輝く蜂蜜】一つ、【不明のポーション】一瓶。


【小さな刃物】は直ぐに取り出せるよう、腰に巻かれたロープとロープの間に布で刃を覆った状態で挟んだ。

これである程度は準備が整った。

私は最後にズボンが履き捨てられていた方を向く。


「ありがとう。行ってきます。」


簡単にお礼を残して、私はその休憩所から出て行った。

…そうして私は記憶を喪った状態で、同じく記憶を忘れてしまった幽霊少女と運命を共にする事となった。


各地を放浪して真実を明かす為の…記憶集めの旅が始まった。

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