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異世界喫茶「銀」  作者: 虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
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第一話 異変

 二〇XX年一月十五日早朝。

 午前六時一〇分二五秒。


 関東地方に震度七強の直下型地震が発生。




「う……おおっ……!?」


 そろそろ起きようかと薄い布団の中でまどろんでいた刹那の出来事に、その男はかっと目を見開いて即座に上体を起こした。


「おおお。でけえぞ、こりゃ……っお!」


 もうかなり俊敏さを失った肉体だが、まるで自分の方へとよちよち歩きをするようにふらつきながら倒れ込んできた桐箪笥(たんす)を、あわやというタイミングで転げるように何とか(かわ)した。直後、どすん、という音とともに(ほこり)が舞い上がる。


「ううう。こりゃあ、ひょっとすると駄目かもしれん……!」


 年季の入った木造の我が家は悲鳴を上げている。(きし)むくらいならまだマシだが、めきめき、やら、ごきり、やらと不吉な音しか聴こえてこない。揺れの方も一向に収まる気配はなかった。


「おいおいおい! そろそろ勘弁してくれねえかな……こちとら!」


 男はぶつぶつとしきりに溢しながら、這うようにして何とか寝室を抜け出し、廊下を進み、そのまま居間の方へと向かう。背後でガラスの割れる音がけたたましく響き、肝が冷える。

 そうしてようやく居間の畳の上に落ちていた目当ての物を見つけ、ぎゅっと固く胸に掻き抱いた。


「ああ、最期がこんなひでえ終わり方か……」



 位牌、だった。



「まあ、それでもこのボロ家で()けるんなら幸せってモンかもな。なあ、お前さんはどう思うね、善子?」


 死を覚悟しながらも、男の皺ぶいた顔に浮かんでいたのは実に愛嬌のある子供じみた笑みだった。


「お前さんには随分と待ちぼうけを喰わせちまって済まなかったな。あれからもう一〇年だ」


 そう言って、手の中の位牌を優しく撫でる。


 本当だったら、とびきり写りの良い遺影もあった筈だったが、半ば喧嘩別れする形で縁を切ることになってしまった一人娘に取り上げられてしまったのだ。あとはもう、随分昔に亡き妻がこしらえたアルバムの中に数枚、その面影が残っている程度だった。


 その娘もまた、もういない。


 近親者と呼べる者と言えば、娘の子、つまり孫娘くらいだったが、これまたすっかりと疎遠になっていた。今は確か――高校生だったか。



 男は、一人、だった。



 さらに揺れが激しくなる。


「ううううう! 俺は痛えのは嫌いなんだ!」


 その場で、まるで位牌だけは傷付けまいとするかのように男は唸りを上げながら丸くうずくまった。


「糞っ! どうせやんなら一思いに――!!」



 どんんんんん!!



 盛大にフィナーレを飾るように、大地の奥底からひと際大きく突き上げるような揺れが襲い、次の瞬間、男の意識は闇に包まれた。






 暗転――。


 そして、


 静寂――。




お読みいただき、ありがとうございました♪




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