1男装令嬢、婚約破棄される
設定ゆるいので、温かい目で読んでくださればと思います‥‥‥!
「もう我慢できない!ミシェル・ミレッジ!!俺は貴様と婚約破棄するぞ!」
「へ?」
その宣言と共に、ピタリと音楽が鳴り止む。宣言をしたのは、この国の第二王子、ロスコー。隣に金髪の美少女を連れている。そして、その宣言を、周りは新しい催しでも始まったかのように、嬉々として見物をしている。
「ロスコー様。どういうことでしょうか?」
私は、そんな状況の中でも笑みを崩さずに、問いかける。その表情に、周りの女性がわずかに顔を赤くしているのが見えた。
「お前は、王子妃に相応しくない!」
「それは、おかしくないですか?私に落ち度などありませんので」
自分で言うのもなんだが、私の見た目は、とても麗しい。美しい黒髪に、目を引く碧眼。周りの女性が思わず見惚れてしまうほどである。
それに、見た目だけではない。
王子妃としての教育も、マナーも、外交も完璧にこなしてきた。
社交界の令嬢の鏡として数えられるべきだろう。‥‥‥‥本来なら。
王子は憤怒に顔を赤くしながら、私を指差した。
「おかしいのは、お前だ!!何故なら、あろうことか。お前は男装をしているからだ!」
「‥‥‥‥」
そう。実は、私は男装をしていた。白いスーツを身につけ、髪は短く切り揃えてある。何も知らない人から見たら、男にしか見えないだろう。案の定、周りの男性陣からは「まあ、あれは無理だわ」という声が聞こえてくる。
しかし、男装をしているのにも、訳があるのだ。
それは、数年前のこと。王子との婚約がしばらく経った時のことだった。
『王子の婚約者はむやみに、男を誘惑してはならない!よって、今日から男の格好をしろ!』
『‥‥‥‥?』
『俺がいいと言うまで、やめてはならないからな!!』
子供の戯言だ。しかし、彼は、王家特有の命令魔法まで使ってきた。それは、王家の人間が解かない限り、その命令を遂行しなければならない魔法だった。
それでも、私は王子である彼を慕っており、「彼が言うなら」と完璧な男装を遂行するため、努力を惜しまずにきた。
エスコートだって、ダンス(男性パート)だって、完璧にこなしてきた。
その甲斐あって、誰もがため息をつくほどの男装麗人が完成したのだ。
なのに、この仕打ちは酷いのではないだろうか?
「お言葉ですが、この男装をしろと言ってきたのは、ロスコー様ですよ」
「俺がそんなこと言う訳ないだろう!さっさと気色悪い格好をやめろ」
あ、命令魔法が解けるのを感じた。
多分、これで男装をやめたらじんわりとくる不快感は無くなるだろう。寝る時も、男装しなければならなかったのは結構キツかったからね。
「分かりました。では、男装を止めれば、婚約破棄をしないということでよろしいでしょうか?」
「そんなことあるわけがないだろう!俺は貴様に冷めたんだ。これからは、彼女と共に生きていく」
彼が引き寄せたのは、金髪の美しい‥‥‥グラマラスな女性。ミシェルとは違い、色香をむんむんと放っている。確か名前は、ナンシー・カーター。男爵令嬢だったはずだ。
「それは‥‥浮気でしょうか?」
「浮気なわけあるかっ!れっきとした純愛だ」
「‥‥‥‥‥」
純愛、の定義とは。大衆の面前で婚約破棄をするような男女に純粋な愛などあるのだろうかと、思わず考えてしまった。こういう理屈っぽいところが嫌いだと再三言われてきたから、言葉には出さないけれど。
話を戻そう。
そもそも、彼は第二王子。この婚約にも国政が関わっていると理解していないのだろうか?私の家は、侯爵家だ。幼い頃から婚約を交わしており、それに関する政治的な取り決めもあるのだ。こんな宣言ひとつで婚約破棄など出来るはずがない。しかし、彼が騒ぎを起こしたのもまた、事実。さて、どうフォローしよう。
そんなことを考えていると、王子は、苛々と声を上げた。
「とにかく、婚約破棄だ。異論は認めん!兵士たち、連れて行け!」
「ちょ、殿下?!」
私は抵抗をするが、兵士の力に勝てるわけもなく。そのまま城から追い出された。
こうして、私は命令されて男装したら、その男装を理由に婚約破棄された。
⭐︎⭐︎⭐︎
ガンっと飲み物の入ったコップを机に叩きつけた。その拍子に、中身が少しばかり溢れたが、気にしない。
「なんっで、私が振られなきゃいけないんだよ!!」
「それは、男装してるからでしょ?」
冷静に返すのは、私の護衛騎士。サファイヤのように煌く瞳を持ち、しみ一つない綺麗な肌を維持している護衛騎士の名前は、アンドリュー。
眩い金髪を一つに結び上げているのは、「カッコいいお姉さん」をイメージしてるからなんだって。本当、私よりずっと可愛くて、男性にも人気なのだ。
「それは〜殿下が、そうしろって言ったから〜〜」
「それに関しては、殿下がクズね」
ちなみに、私が飲んでいるのはただのジュースだ。未成年のため、お酒はまだ飲めないが、ジュースで酔えるタイプなもので。
「でもでも、殿下に好かれたいと思って完璧な男装をしてやろうと頑張ったんだよ?」
「そういうところよ。自分よりもカッコいい女の子を連れて歩くのは、プライドが許さなかったんでしょ」
「うるさい」
「あ?」
瞬間、アンドリューはドスの利いた声を出す。そう、彼女もとい彼は、女装が趣味の男だった。
彼は日々、美しさを追い求めているらしく、気づいたらこうなっていたらしい。昔から彼を知っている私も、その真意は理解していない。
私はグビグビとジュースを飲み干し、ジタバタと暴れた。
「なんでだよ!こんなにかっこいいのに〜〜〜!!!」
「だから、そういうところよ」
呆れたようにため息をついたアンドリューは、部屋から出て行ってしまう。
流石に、怒らせたかな。と不安になってくる。アンドリューは、いわゆる幼なじみで、彼が私の護衛騎士になったのも、その関係からだった。だから、つい甘えてしまうのだ。
やがて、彼は部屋に戻ってきた。ナプキンを持っているから、私がこぼしたジュースを拭くために、取りに行ってくれていたのだろう。
その優しさにジーンとくる。
「ごめんね‥‥毎回、こんな話嫌だよね」
「‥‥‥‥いいわよ。これで気が済むなら」
「気は済まないけど」
「おい」
アンドリューは素に戻った声を出すが、気にしない。本気で怒っているわけではないことは、これまでの付き合いで、分かっている。
「アンドリュー相手だと、どうしても安心しちゃうんだよね」
「‥‥‥‥‥‥ミシェル、わたしは」
アンドリューは、私に手を伸ばした。私はそれを勢いよく、両手で掴んだ。
「だから、アンドリューがしたいことがあったら、なんでもするから、言ってね!!」
「‥‥‥‥‥‥」
その瞬間、期待が外れたような、不満げなような微妙な空気が流れる。何か間違えたかな、と慌てていると、今度は彼の方が私の手を掴んできた。
「いいわね、それ」
「な、なに」
「あなたが王子を忘れられなくて、気が済まないのなら‥‥‥」
彼は、妖艶に微笑み、私の顎をくいと持ち上げる。
「わたしが、貴方を可愛い可愛い、女の子にしてあげる」
「な‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
なんですとーーー!!!