浮気は許さないから
「あと1分」僕と、佳奈は手を取りあう。冷たい手。細い指。僕は泣いていた。佳奈は、ねえ、なぜ泣くの? 私は悲しくなんかない。だって、いつでもあなたのそばにいられるから。私は、あなたの傍にずっといる。いつでも思い出してね。浮気はゆるさないから。と佳奈は怒った振りをする。
そこで、僕は病室の窓のブラインドを開ける。真夏の太陽が燦燦と輝いている。もう佳奈に泣いている姿を見せたくなくて、僕はそっと、ベッドに腰掛ける。するとさっきまで白かった太陽が黒く欠けていく。昨日の夜、皆既日食の特集がニュース番組で組まれていた。30年に一度の皆既日食が日本各地で見られます、とアナウンサーが言っていた。太陽が欠けていく。僕の輪郭も欠けていく。僕は佳奈の方を振り返る。佳奈は微笑んでいた。ねえ、30年に一度よ。次の日食まで私達、生きているわよね。と冗談を言う。うん。と僕は言う。
太陽と月が一直線上に並ぶ。太陽が君で、僕が月だ。太陽が輝きだす。ダイヤモンドリングだった。きらきらと輝く太陽の光は僕達の結婚指輪だった。私と結婚してくれてありがとう。と佳奈は言う。僕こそ。と言って、誓いのキスを佳奈にする。佳奈の目から涙が零れる。佳奈の息は次第に小さくなっていき、そして、消えた。僕はもう泣かないと決めたのに、涙が出てきた。泣き虫ね。と佳奈の声が僕の耳傍で聞こえた気がした。




