007 天使様の秘密。
『秘密って、このブログのこと?』
『うんまあ、それもあるけどもっとすごいコトもね』
これ以上、どんな秘密があるのだろうか。
秘密の共有は人間関係を強固にすると言うが、一方的に秘密を握られているとなると話は違う。さらに相手は学年一番の頭脳を持つ星宮美咲。
とっ、とにかく確認だ。
『何のことですか』
まさかヤンチャ時代の話?
それなら中学ん時の同級生ならみんな知っているけど・・・。
『鈍感な天使様のことだからきっと自分のことも知らないと思うので教えない!』
鈍感なのは認める。幼馴染の陽葵のことを、ずっと好きだったことすら気付かないのだから。だからこそ、余計に気になる。
『中学時代にヤンチャしてたとか』
『ヤンチャだったの?』
あっ、これ、もしかして誘導尋問?口を滑らせてしまったかも。
教室でラブレターを貰った時にもやらかしたので今さら誤魔化せない。
『はい。少しばかり思いあがってまして、暴れることがあったのは事実です。でも今は反省しております』
しおらしく返答を打ち込まざるをえない。
『ふーん。意外だけど。でも秘密はそこじゃないから』
『違いましたか?とても気になるんですが』
『星美だけがしっている秘密だから独占したいけど、デートしてくれたら教えてあげる!』
ヤンチャとこのブログ以外に僕に重大な秘密があるとは思えないんだけどなー。しかもリアル世界では接点のない星宮美咲さんが知っていることって・・・。
はっ、もしかしてネット上の星美さんが知っていること・・・。幼馴染の陽葵に思いを告げずに終わった恋以外に僕はブログに何か書き記しただろうか。
去年やっていたコンビニスイーツをテーマにした恋愛ドラマがどうのこうので星美さんを含めたブログ仲間のメッセージのやり取りで盛り上がったことはあるけど。それなら何人かは知っている話しだし。
他愛のない会話、スイーツについての評価や作り方、そんなやり取りしか思い浮かばない。
抜け出せない迷宮を巡る僕の頭は熱暴走でクラッシュしそうだぞ。
って、デート・・・。この僕がデート・・・。生まれて初めてのデート・・・。
いつもボッチでスイーツ店を巡っているこの僕が、女の子とデート・・・。
デートと言うフレーズだけで顔に熱がこもる。
しかも相手は学園きっての美少女、星宮美咲。これは一大事件だ。
こっちの方がある意味、重大機密。クラスメイトに知られたら、どんな風評被害が起きないか分かったもんじゃない。
しかし、昨日の今日どころか、日付が変わったばかりの深夜とは言え、陽葵への思いが上手くいかないからって、その日に別の女の子とデートの約束をする男子って軽すぎないか。
夜空を見上げて流した涙はそんなもんじゃないだろ。
あれこれ考えていたら先回りされた。
『天使様、実らない恋にうじうじと青春を浪費するのは心に良くないよ。
天使様には星美を虜にする誰にも負けない才能があるんだから。
スイーツ天使の秘密、知りたくないの?』
うっ・・・。ストーカーとか色々と重たい恋もあるものな。陽葵に対してそんな風になる位なら、星美さんの意見に乗っかるのもありかも知れない。
リアルな星宮美咲さんとはうまくいく気がまるでしないが、バーチャルな星美さんとなら趣味友でもあり、割と気が合う。
お付き合い云々は別として、友人としてリアル世界でも交流を深めるなら有りかも知れない。星美さんとなら、男一人では入り辛いデートスポットとして有名なカフェのスイーツも攻略できる。
なにより、星美さんが言う思わせぶりな僕の秘密とやらが気にかかる。
『知りたいです』
一言返す。
『それじぁ、決まり。日時は明日、入学式の後、場所は金松堂喫茶室。あと、丁寧語はなし』
ものすごい勢いで文字が打ち込まれてくる。何時もの星美さんらしいと言えばそうなのだが、彼女の正体が学年一番の美少女、星宮美咲さんだと知った今、イメージがまるで重ならない。
茫然と眺めている時だった。
ドン。
ガラス窓を叩く鈍い音が僕の部屋に響き渡った。
もしやと思ってカーテンを引く。僕の部屋のベランダに幼馴染の伊藤陽葵が春だというのに昨日と同じパジャマ姿で立っていた。