#96 パルムは思う
「人の気配というか、痕跡すらも無いな」
パルムは魔力感知でソラの観測同様違う視点で感知魔法を使用してみたが、何も気配を感じることが出来なかった。パルムにとってもこの特異界という世界は初めてきた。地理もまったくわからないし、どんな存在がいるかも未知数だ。
ただ、魔法の特異界、全ての特異界を束ねる主特異界のプロエという人物とは古い付き合いだ。頻繁に会っていたわけではなかったが、特異界に関する重要な案件があるときにプロエとは特異界の代表として会っていた。
が、だ。魔法特異界で主特異界との交易や通信が出来なくなってしまったと千年会議での議題で上がった頃から強大な敵が攻めてきた。
そんなときにタイミングよくポラリスという少女が現れた。リノがプロエから最重要機密情報を共有し情報を整理し、主特異界にあるという未来観測所シェルムの情報をポラリスの回廊を経由して見ることが出来た。
特異界は全部で7つあるということ。そして、主特異界の時間軸で3年という期限しか無いということ。
特異界毎で時間軸が異なるため正確に3年とは言えないのかも知れないが、その主特異界時間軸で3年後の決戦に向けて最終防衛ラインに7名を揃えないといけないということみたいだ。
何故、個人を集める必要があるのかは共有された情報内では不明だ。ただ、その個人が未曾有の厄災に対抗し得ると主特異界が判断したのだろう。
高い確率で魔導皇帝のような存在よりも厄介で強大な敵との死闘と想像を絶する戦争が待っていることだろう。
そして、私もパルム・エノカもこうして戦争の列に名を連ねている。
魔法の世界では特異界最強と謳われていたが、主特異界でも最強であるかどうかは正直他の特異界を少ない知識レベルでしか知らないので実際は測りかねるというもの。だが、私が選ばれたというのは理由があるのだろう。
特異界にはIFという「かもしれない」という概念が存在しない。起点と過程と結論の一方通行しかない。つまり、宿命ということか。これは受け入れるしかないと思う。
ポラリスという少女は今は私よりも遥かに弱い存在だが、この宿命の歯車にいるということはこの少女が全ての特異界を統べる力を有する存在に至るというわけか。
このことも宿命ならば、ポラリスは特異界という世界の意志に呼ばれたというのかも知れないな。
主特異界も魔法特異界も同様、神という存在はいない。例えばキミという大魔法使いが仲間でいたが、キミが使用していた神魔法や天使召喚魔法などはあくまで神を冠した魔法であり、実際は精霊魔法に近いのかも知れない。もしくは信仰の具現化かや顕在化する特殊な魔法だったのかも知れない。
少なくとも数百億年生きてきて無限に等しい莫大な魔法を記憶してきて思うことは、神はいないということだ。だが、似たような存在はいる。
支配者や管理者、統治者のスキルや能力、もしくはユニークなどを有した存在が突然現れてきて恩恵をもたらす場合もあれば厄災を振りまく存在もいた。
神などいたら、この未曾有の大戦争もなんとかして欲しいものだ。
その方が確実に楽だし、もしくはいずれ訪れる大戦争を回避すらできるかもしれないからだ。だが、神はやはりいない。いても精霊や悪魔、天使程度だろう。あくまで種族レベルからは外れない。
だが、あの魔導皇帝とかはどうだ?
未知の魔法、回廊の情報だと創世期よりも古い原始の大魔法使いという情報が記載されている。道理で攻撃は未知だし、見たことも無い魔法言語だったというわけだ。
私よりも遥かに古い存在でかつ強大な大魔法使いがいたとは思わなかった。
創世期よりも古い文献は禁書物にも存在しなかったし、歴史にも記載されていないし、改ざんされた跡もなかった。
あれは別次元の存在だった。あれを神だと思わないか?
いや、あれは決して神ではない。神という括りで完結してしまうには違和感があるからだ。
それにシキが言っていた。歪みの者という存在、そして、ポラリスたちが出会ったというゾラムとかいう謎の存在。
回廊を経由して膨大な情報が入ってくるのと同時に、ポラリスを経由しているせいか、少女の潜在能力というか彼女のなかにある莫大過ぎる力を感じることが出来た。この少女はなんだというのだ。
今はポラリスは力の1%以下の出力でしか戦闘していないし、発揮してきれていないから私よりも今は弱いが、これが全部発揮されたら流石の私でも耐えられそうにはない。ポラリスがこの世界の鍵だということは肌でわかった感じがする。
そして、リノも凄い実力者だ。魔力は全く感じないが、周辺の物理法則を変換させて移動や攻撃をしているあたり、私の魔法ですら解析されてしまえば変換されてしまう可能性が高い。それほどの潜在能力と未知数の実力を兼ね備えた女性だ。
禁書物でも周辺の物理法則を変換するというのはあるにはあるが、リノの場合はそれをリスク無しで自然に発動しているあたり伸び代はかなり大きいと思ったりした。
破壊力で言えば、直観だがこの中で一番強い感じがする。
何はともあれ、私もあの魔導皇帝に実質負けたと同じだから私にも十分伸び代があるだろう。伊達に数百億年生きてきたわけでは無い。きっと私の宿命はこの出会いとこれからの未来のために今まで生きてきたのだと察する。
「どうかなさいましか、パルム」
「いや、ちょっと考え事さ。さて、この広大過ぎる建築物の果てに行ってみますかね。普通に歩いているといくら時間があっても足りないからね」
「そうですね、僕の多次元跳躍で座標がわかれば飛びやすいんですが、観測範囲内であれば跳躍可能です」
「それじゃそうしよう。近くに街があるといいな」
「ええ」
あの建物とか遠すぎて上は霞んでるし、正面にある建物群も巨大かつ遠くて霞んでいる。
ここは一体どんな特異界なんだ。




