#47 転移者と転生転移者
白い月の建物がようやく見えてきたぞ。
けれど、なんか今日はやけに人通りが多い気がするのは気のせいだろうか。今日は休日となのかな。いや、週末の明後日に開催される大武道大会が近いということがこの人通りが多い理由なのかな。
大会当日になったら僕も忙しくなるだろうけれども、この大都市を挙げての武道大会だからきっと出店や露店も多くなるんだろうな。それはそれでとてもお腹空く話である。
さて、そうこう考えているうちにようやくギルドに到着!
やはり、色々観光したり考えているとあっと言う間に到着できるな。途中で買い物も出来るし、金獅子亭へのアクセスは意外に良いのかも知れない。
ガチャリと音を立てて扉を開けた。
中に入ると相変わらず?いや、今日はやけに人が多い。がやがやしている。なんだか、昨夜の件もあるせいか多く視線を感じるのは気のせいかな。
それだけではないギルドとしても大武道大会いよいよってところか。はやくエントリーしに行こう。
受付はこっちでいいのかな。あ、大会用の受付が用意されている。
「あの、エントリーをしたいんですが」
「はい、こちらは大会用受付窓口です。かしこまりました。お名前をよろしいでしょうか」
「ポラリス・ステラマリスです」
何やら、受付のお姉さんがパソコン?
いや、魔道具の一つだろうか。タッチパネルのように浮かんでいる情報らしきものにタッチしながら入力しては動かして検索している。こちら側からは文字らしき形は見えるが内容は見えない。
よく出来た便利な代物だ。この世界にもインターネットまではいかなくても似たような代物があるのかも知れないな。心から驚いた。
「照会を完了しました。ポラリス・ステラマリス様とリノ・ノノ様ですね。ありがとうございます。それでは現在、エントリーは保留という形となっておりますが、どちらの方が代表として選出されますか?」
「僕、ポラリス・ステラマリスでお願いします」
「かしこまりました。ポラリス・ステラマリス様ですね。少々お待ちください」
手慣れた手際で何かを入力している。
「エントリー完了致しました。通常、参加費は金貨1枚となりますが、ポラリス・ステラマリス様は代表選出のため不要となります」
「あ、そうだった」
「それでは、登録は以上となりますので開催中のご武運を祈っております」
「あ、ありがとうございます。頑張ります!」
アッぶね、ギルドマスターのことをあのオヤジと言いそうになった。平常心、平常心。
んっ?やけに後ろから視線を感じるな。
(ソラ、誰が僕を見ているか観測できるか?)
《造作も無く、直ちに特定します。観測完了。複数の冒険者たちです。昨日の騒動のときにいた冒険者たちです。特に勇者の一行を特定することが出来ました》
(勇者?本当に勇者?)
居てもおかしく無いか。そういえば、この世界に来てから勇者というフレーズを聞いたことや噂も聞かなかったな。まぁ自分が調べようともしなかったんだけれども。
《間違いなく勇者です。ステータス値、レベルともに規格外です。比較するならば先日の魔神王を瞬殺できるぐらいには強いです》
(瞬殺か、僕と同等またはそれ以上という可能性もあるのか?)
《不明です。一部抵抗されました。現状分かるのはレベル100オーバーということだけです。これ以上、観測すると気づかれる場合があります》
(これ以上の詮索は不要だ。それじゃ、引き続き観測と空間の作成をお願いします)
《わかりました》
宙王の観測を抵抗しただと?
勇者というのは伊達では無いらしい。しかも、先日の魔神王討伐のクエストもタイミングが違えばこの勇者とかいう者達が達成していたのかも知れないな。
《こちらに勇者が近づいてきます》
振り返ると、真っ白なプレートアーマーを身につけた黒髪の男性が近づいてきた。ん?どこかで見たような顔つきだ。あ、前世で言うとアジア系?もしくは日本人?
「初めまして、勇者をさせていただいております。一十日と申します。今回の武道大会であなたがギルド代表と伺いましたのでご挨拶をしにきました」
誰から僕のことを聞いた?ニノマエ?日本人っぽい名前で聞いたことがあるような。
僕の事を知っているのは、昨日のクエストで有名になっているせいか。確かにギルド代表には僕らが選ばれたが、僕は今エントリーを終えたばかりだぞ。しかも、顔すら分からないのに何故?
あ、ギルド内部中央に大会用の掲示板が浮かんでいる。
それだ。そこで話を今聞いて挨拶しに来たということか。
「あ、初めまして、勇者ニノマエ様、僕は冒険者のポラリス・ステラマリスと申します。ポラリスとお呼びください」
「ありがとうございます。敬称は不要です。お互い楽にお話しましょう。失礼な話ですが、あなたのような可憐な女性がギルド代表で出場するとギルド中央広場で耳にする迄は信じられなかったですよ」
「では、ニノマエさんで。見た目については冒険しているとよく言われます。気になさらないでください。それでニノマエさん何かご用ですか?」
女性というか無性なんですけどね。
「ご用という程でもありません。感というますか、何故か貴女に声を掛けておかなくてはと思っただけです」
「勇者様からそう言ってくださるなんて嬉しいです。大会では相見えるかも知れませんがその際は全力を尽くしましょう」
「ええ、勿論!」
ここは日本人ですか?と、ダメ元で聞いておいてみたほうが良いのだろうか。だからと言って特に何かあるわけでは無いのだが。この世界の特有の人種ということもあり得る。
「変な話ですが、ニノマエさんは日本という国をご存じですか?」
驚いた表情をしている。ビンゴか?ビンゴなのか?!
「これは驚きました!もしかして、ポラリスさんは日本からの転生者?ですか?」
「ええ、実はよく分からないですが、似たようなものです」
「私は帝都日本國で生まれました。10年前ぐらいでしょうか。交通事故を切っ掛けでこの世界に勇者として天啓を授かり転移してきた者です」
日本國?帝都?もしかして、違う世界線の日本から来た転移者というわけか。
「僕はニノマエさんとは違う日本という国から転生転移してきたんだと思います。自分ではよくその辺りはわからないんですが、希な生まれ方をしたみたいでして」
「違う日本國かぁ。わかります。異世界に転移するとかアニメや小説の世界だけだと思っていましたが、転移した今の身としては、世界線が違うというのもありなのかも知れませんね」
「アニメや小説の世界、よくわかります。お互いに世界線が違いますが、同郷としてよろしくお願いしますね」
「ええ、勿論。今度、また改めてゆっくりとお話出来ればと思いますので、その時はお誘いさせていただきます」
慣れた感じにお辞儀をすると勇者ニノマエは自分の仲間の場所へ戻って行った。
ニノマエさんは転移者としては僕にとって初めての先輩転移者だ。いや、リノも確か記憶が無いだけで、転生か転移かどちらかの可能性があるって言ってたような気がする。
なんだが、親近感が湧いてきた。
勇者ニノマエ。武道大会では必ず上位に食い込んでくるだろう。それに勇者クラスが参加するということは同列の猛者らも参加してくるに違い無い。僕も気を引き締めないと初戦で敗退という惨敗を喫する可能性もある。
0とは言えない。この世界には僕より強い存在はまだまだいる筈だ。魔神王戦で進化と成長が出来たのは良い戦利品だったと思う。この武道大会でも大きく成長したい。
《主、虚数空間での模擬戦可能となりました。いつでも使用可能となります》
(ありがとう!ソラ!それじゃ、帰りに買い出しをしてご飯食べたらリノと今日か明日模擬戦しよう)
《わかりました。準備を進めます》
時間は限られているが、出来ることはしておきたい。
目指すは優勝!そして最悪でも上位3位以内で、あのギルドマスターらに一泡吹かせてやるぞ!




