#03 別れと出発
生まれ変わって、驚きの連続で不安や心配や戸惑いもたくさんあったが、うさぎ駅のロットさんの温かいおもてなしで、僕はとても温かい安心感に包まれていた。
《もう間もなく魔炉機関車:大神都ハルム・ナスディアル行き到着です》
駅構内にロットさんの案内の声が流れた。直後、ポムポムと駆け寄ってくるロットさんが見えた。
「ポラリス様、いよいよご出発ですね。道中お気をつけて。短い時間でしたが、ポラリス様と楽しくお茶が出来てとても嬉しく思います。また近くに寄った際は是非、当駅:うさぎ駅へお立ち寄りください。その時は腕を振るってパンケーキをご馳走致します」
ロットさんの最後まで温かいおもてなしにとても感動して涙が出てきた。なんて優しくて良い駅長さんなのだろうか。
「はい!また近くに寄った際は寄らせていただきます。今度はこの世界で経験し体験したお話がいっぱいできればと思います。短い間でしたが、本当にお世話になりました。ありがとうございます」
「はい!ポラリス様ありがとうございます。当駅長として、このロット首を長くして、ポラリス様のまたのお越しをお待ちしております!」
ロットさんの笑顔は、とても眩しい笑顔だった。
ロットさんと別れの話をしているうちに、魔炉機関車がうさぎ駅へ到着した。
立派な機関車だ。とても大きい。そして黒光りしている。品があって重厚感を感じる。
生前見た蒸気機関車も迫力といい、雰囲気もとても似ているが、迫力や大きさは魔炉機関車の方が圧倒的だった。
どういう原理で動いているかはわからないが、魔炉という言葉の通り、魔力かなにかを消費してエネルギーにしているのだろう。
そう思っていると、魔炉機関車から誰かが降りてきた。
「ポラリス様、はじめまして当魔炉機関車車掌を任されております、グラムと申します。グラムとお呼びください。大神都ハルム・ナスディアルまでの快適な旅をお届けさせていただきます。どうぞよろしくお願い致します」
「グラムさん、僕はポラリスです。こちらこそ、よろしくお願い致します」
グラムさんはとても大きな身体で2mあるだろうか、大きな帽子で顔は影になっているが、目らしき2つの黄色の点が印象的だった。
「それでは、ポラリス様どうぞご乗車ください。ご乗車後、お部屋へご案内致します」
《大神都ハルム・ナスディアル行きへまもなく出発致します》
うさぎ駅構内にアナウンスが響き渡った。いよいよ、うさぎ駅ともお別れだ。
ロットさんが駅のホームで、にんじんのハンカチを振って見送ってくれている。
乗車するとドアが自動で閉まり、魔炉機関車がゆっくり動き始めた。またロットさんに会いに来よう、そう気持ちに刻み込んでゆっくりと動き始めた魔炉機関車の振動に揺られた。
ーーー
「ポラリス様、私客室乗務員のナンセです。お部屋までご案内致します」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
木製で仕切られた部屋が横並びに並んでいる。魔炉機関車の客室は全て個室のようだ。
廊下というべきか、足元もふかふかで上質の絨毯を歩いているようで歩きやすかった。
自分の部屋に到着した。
「ポラリス様のお部屋はこちら307号室となります。到着まで半日程度で到着しますので、その間ごゆっくりとお寛ぎください。何かありましたら、部屋に備えつけてありますボタンを押してお申し付けください」
「ナンセさん、ありがとうございます」
乗務員さんはペコっと頭を下げると、笑顔で客室を後にした。
部屋は広い作りだった。木製の部屋だが安物感はしない、上品で重厚感のあるしっかりとした作りだ。部屋全体に取っ手や細かいところまで、細かな芸術品のような細工で散りばめられていた。
高級な一等客室にいるような気分だ。
本当にお金がないけど、乗っても大丈夫だろうかという考えが一瞬過ったが、ロットさんの言葉、”無料ですよー”ということを思い出したので安心した。
この世界の常識に僕はとても疎い。
まあ、生まれ変わって体感だと1日しか経っていないのだからしょうがないのだが。
ロットさんもおしゃっていたように、ポスタマ―で詳しく説明を受けるまでは、この世界の常識や自分自身のことでさえ、よくわからないままなのだ。
もやもやしても、急いる気持ちもあるがどうしようもないのだ。流れに身を任せるしかない。
車窓からののどかな草原とクロワッサンのような白い雲がもくもく浮かんでいるのを眺めながらまだしばらく時間があるのだからと、僕はひと眠りすることにした。
もしかしたら、睡眠が必要のない体になっているのかも知れないけれども、今は横になって眠る気分なのだ。頭と体を整理するのには、丁度いいのだと自分に言い聞かせながら心のなかで思った。
起きたら、魔炉機関車を探検しに出かけてみよう。
僕は、目を閉じて横になった。