#339 世界の天秤
「リノ!」
脳内に回廊経由でありのままの情報が流れて来た。プロエが黒幕だということと、歪みの存在はこの特異界自体のことを指しているということ。つまり、修正力が働いているのは歪みの存在側であり、僕達はその修正力に飲み込まれるしか無いということ。様々な情報が脳内を駆け巡る。
眼前には無限という単位が少数単位のような数をソラが網膜に表示させてくれている。歪みの存在を倒してもきりが無いということはようやく納得がいった。それは回廊に繋がる仲間全てが確認しているところだろう。事態は一刻を争う。プロエの目的はなんなのか、そして、その先には何があるのか。
特異界という存在意義はプロエの言葉を完全に信じるならば無くなった。僕という存在を否定されたかのような気がした。神煌核とは歪みの象徴ということも可能性として高いとソラの演算能力で算出してくれている。僕という存在を否定されて、気分が悪くないと言えば嘘になる。だが、この場にいるといるということは何か大きな意味がある筈だと思った。
急いでリノの元へ向かった。だが、距離が遥かに遠い。僕はワープは出来ない。ワープを想像することで力は発揮することが出来るには出来るが使い道や精度としては、リノやポラリスに劣る。それよにも現場までの場所を想像出来たほうが瞬時に跳躍出来る。雑音と共にリノから回廊経由で座表が送られて来た。とても、とても遠い場所だ。そして、プロエがいるであろう宙域から随分離れた場所までリノは飛ばされたようだ。体の損傷も激しいようだ。
瞬時にリノがいる場所まで想像して移動した。そこには体、半身が失われたリノがいた。
「リノ! しっかり」
「ロイ、来てくれたのね。情報は回廊経由で共有した通りよ。私達側こそが歪みの存在だった。お姉さまもプロエに取り込まれたままで救出することすら出来なかった」
「リノ、もう喋らないで。体の修復を最優先に!」
「そうね、後数秒後には素体が出来上がる筈だわ。プロエは強い。私達以上の力を有していることが分かったわ。そして、その修正力の力を用いて歪みの存在だと思われていた修正力を手にしたプロエは全ての特異界の脅威となることは確定した」
「もうお願いだから喋らないで!」
「ロイは優しいわね」
頭を撫でられた瞬間、失われた何かを思い出したように感じた。リノの手はとても優しくとても美しかった。
《リノの生体構成物質形成完了。間も無く完全修復完了します》
リノをこんなにするまで程なのか、あのプロエだった者の力は。修正力という神になったということか。神以上の何かということはリノの一戦を通して体感した。これは、もう生存競争を賭けた戦いだと。だが、どうする強大過ぎる修正力はこの特異界と呼ばれた歪みの世界を飲み込まんとしている。それが本当に正しいことなのか、この情報を知っているものは回廊経由で知っている極わずかだ。
僕、一人でプロエに勝てるかどうか。否、それは無理だろう。最神という存在にプロエは至ったという。最神という称号がどういう位置付けなのか、どれ程の強さを有しているのかを今の僕が知るよしは無い。ただ、リノが簡単に負けてしまうレベルの存在ということはよく分かった。それ程の脅威ということだ。その脅威を取り除くには全員の力が必要だ。
プロエはこの特異界の頂点に立つ存在だと聞き及んでいる。そして、今この特異界で最強の力を得て次は何をするか。そんなこと想像するまでも無い。全ての世界への蹂躙だろう。世界は数えきれない程ある。そして、その数は増えているとソラが教えてくれた。
他にも何か企みや計画があるのかも知れない。何故、ポラリスを取り込んだのか。どうして、神煌核を受け入れる器に至ったのかを。ポラリスという存在が鍵ということなのかも知れない。額から汗が滲み出て来た。嫌な予感がする。全員を集めてプロエに仕掛けないと全員が危ない。回廊経由で全員に連絡をした。




