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ポラリスの多世界  作者: 一
主特異界決戦編
321/362

#319 息抜きという名の発散


永久的なものなど、存在しないのだ。

不変なものも存在しないと知るがいい。

無限は有限の単位であり、それがどういう意味かは

己がよく知っているだろう。



「お姉さまは大丈夫でしょうか」


リノが心配そうな声を出した。


「まぁ大丈夫でしょ」そう、私は自分に言い聞かせた。緊張しているのかも知れない。この感覚はいつ以来だろうか。この張り詰めた空気と特異界という世界が、緊張という琴線が今にもこと切れるのでは無いかの情念で少し心が掻き乱された。このような場所まで来て、私は恐怖しているのだろうか。


「なんだ、お主ら怯えておるのか」ブレアの言葉が緊張で張り詰めた空気を一気に吹き飛ばしたような気がした。ブレアのことは私たちはまだよく知らない。そもそも特異界ごとで交流するという形が採用されたのが、今回が初めてだからだ。


「ま、そんなとこさ」


「お主ら、しょうがないのぅ」ブレアが小さな胸を張って何か言いたげな雰囲気を醸し出す。何を伝えたいのだろうか。


「なんだ、何か言いたいことでもあるのか」


「ふふん、私と勝負しなさい!」


何を突然言うんだこのちびっ子は。


「あの、勝負とかそういう場合じゃ」ナリアはオドオドしながら仲裁に入ろうと勇気を振り絞っているようにも感じた。なんだかこの茶番はと自分が不安という情念に支配されていたことから目を覚まさせてくれたような気が少しした。


この二人は私もリノも回廊経由で確認したが、一度もあったことは無い。紛れもない強者。そして。


「はいはい、そこまで」ソニアが透き通った声で場を一瞬で収めた。


「なんじゃ、ソニア。妾に喧嘩売ってんのか、あぁん」


「メンチきったらダメだよぉ、ブレアぁ」ナリアが再度、仲裁に入ろうとするがブレアとソニアの圧に吹き飛ばされてしまった。


「私が悪かった。謝る」私、パルムが場をおさめるために声を上げた。


「あぁん、パルムの妾にも喧嘩売ってんのか」


「ブレア、パルムに喧嘩を振ると怪我じゃ済まないぞ」ソニアは淡々と冷製に事実を言った。それはそうだ。この広くも狭くも無い丁度良い部屋にいる存在は人智や神智のそれを遥かに超越している存在なのだから。


個々の力で特異界は簡単に滅ぼすことは可能だろう。この場所ではかなりの過剰戦力と言っても異論は出ないだろうが、歪みのものという得体の知れない存在がいるため、私たちはこうして故郷を捨ててここに集まって協力しようとしている。


皆、ストレスが溜まっているのだろう。


「あ、じゃあ、模擬戦やります?」リノが唐突に言った言葉が切っ掛けだった。


「おうよ、妾に喧嘩売ったことを後悔させてやる」


「やめなよぉ、ブレア」ナリアは今にも泣き出しそうである。


「挑戦承った」ソニアの一言に場が一瞬で静かになった。これが彼女が出す強烈な覇気によるものだろうと瞬時に頭を過った。いや、本能が察したというところだろう。彼女らは現在進行形で進化中である。私もリノもそうだ。この進化はきっと終わりが無いのかも知れないと思ったりもした。


「それじゃ、模擬戦場に行きましょうか」リノが大きな声を出した。かなりやる気満々なところがなんだか気になった。


果たして、個々にして最強の存在がぶつかった時、その模擬戦場は維持出来るのか、心配になるところだが、それはリノ曰く、職員が改良の改良を加えて充分に対策をしているだとか。それならいいんだが。


ジグラットか。何時以来だろうか、もう遥か太古にプロエと戦闘した以来だ。武闘大会の時か。お互い若かった。先ほどのプロエの様子も昔と変わらずと言ったところだ。プロエは昔から強かったからな。今の私ならプロエにも届き得るかもと思ったりもした。その時は全力で戦闘しようと心から思った。


十中八九、この模擬戦祭りの影響のせいだ。私、こんなに感化されやすい体質だったかどうか、ふと天井を見上げて思い耽った。


「さぁ、皆さんこちらへ」リノの元気な声が聴こえ、私たちはストレスを発散しに模擬戦場へと向かった。



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