#310 深く沈む意識
シャワーが終わったら、体をタオルで拭いて、ロイが用意してくれたであろうパジャマを着た。とても着心地が良い。何の素材で出来ているのだろうと、ふと思った。とても肌触りが良く、品がとても良い上質なシルクを思わせるような白いパジャマだった。
部屋の隅にベッドが用意してあったので、足の向きをそちらへ向かう。ベッドに腰を下ろすとまるでホテルにいるような感覚になった。ロイはとてもきめ細やかに周辺整理や必要な物を用意してくれていた。
髪が長いせいなのか、まだ水気が残っていたので吸収したら、一瞬で丁度いい感じに乾いた。ソラのきめ細やかな調節もなかなかである。まるで、セレブになったような気分になった。どこからどう見てもセレブでは無いのだが。
品の良い調度品や、細かなところまで行き届いたアメニティの数々を見るにロイの経験値が成せる技だと思った。ロイは特異界の起源の一つであり、僕らが訪れた特異界を創造した主なのだから。生活から文化まで貢献度は計り知れない。
それを僕ら少数に与えられた恩恵もまた計り知れない。ベッドに仰向けになった。高い天井には空調設備だろうか、空気口が見えた。観測してみると底から室内の温度とは違う風が吹き込んでいた。ソラの観測結果だと室温調整を自動でしてくれているらしい。
「こんなこと僕には出来ないや」
純粋にロイも凄いと感心したし、尊敬もした。それ程、感動することだと全身が反応する。そこまで重くは無いと思う体重でも深く沈む包み込まれるように体を預けることが出来る安心感に、そして、何よりも室内には冷蔵庫も完備されていて、最早、ここにずっと住めるんじゃないかと思うぐらい感動していたのだ。
回廊経由では無く、ロイには後でお礼を言っておこうと思った。大切な事は直接本人にへね。前世の記憶からの経験値だ。この特異界に来て、巻き込まれて本当は何年経過したのだろうと、たまに思うことがある。ソラでも正確にはわからないと言う。それは誰にも判明しないし、決してわからないだろう。
一人の部屋というのも懐かしい気がする。一人になると自分のことを考えてしまう。この辺りは前世と変わって無いなと思うのだ。だが、前世の記憶がこの特異界の問題に寄与出来たかというと大して役にも立っていない。
「郷に行けば郷に従え、か」
もしかしたら、この言葉を考えた人も異世界人だった可能性もあるかもな。他の世界から迷い込めば、そこは紛れもなく異世界になるのだから。僕が前世で読んだり見たりした異世界とは、僕が今ここに存在している異世界はまるで摂理、原理やもしかしたら真理も違うのかも知れない。
そして、今までの特異界でも異世界人は多くいた。この特異界にも転生か転移した存在もいるかも知れない。パルムは転生者、リノは転生か転移かは分からないそうだ。ロイや帝も歴史を遡れば転生または転移して来た存在なのかも知れないと、思うがままに連想した。
枕ろぎゅっと抱きしめるととても落ち着いた気持ちになった。僕の行動は正しかったのだろうか、判断は正確だったのだろうか。この歪みのものとの異変を食い止めることは可能なのかどうかとか。一人でただ考えた。
考えてもしょうがない話なのは分かっている。ソラ曰く僕が転生転移して来た時点で未来へ分岐が開始された可能性を示唆していた。これも確かめる術は無い。IFが存在しな世界それが特異界。
未来が確定されてない今、僕らや主特異界の人達も総動員で今も戦闘しているに違い無いと想像した。この特異界も結界の外では大惨事になっている可能性がある。結界が閉じたままというのが大きな理由だ。
だが、先ほどの紳士のおかげで、カラス亭という場所を見つければ何か手がかりがあるかも知れないと知った今では、今は少しでも休息を取って明日に繋げるしか無いのだ。
眠る必要の無い体になってしまって眠ることに大して久しいが、ゆっくりと瞼を閉じて回廊の奥へと意識を潜り込んで眠りについた。




