#02 新しい人生の門出
乗り物がくるまで、少し時間がかかるらしい、その間、ロットさんが駅長秘伝のパンケーキをご馳走してくださるとのことで、奥の部屋でお茶しながら待つことになった。
内装は落ち着いた木の香りがほのかにして安心感があった。にんじんのオブジェや不思議で綺麗な調度品の数々が並べてあった。
ロットさんは、ポムポムと歩きながら、にんじんのパンケーキと、このあたりの地方で採れるという茶葉を使った紅茶を振舞ってくださいました。
とても良い香りがする。
ロットさんが淹れた紅茶はとても澄んだ綺麗な赤色をしていた。
ロットさんは紅茶とパンケーキを二人分用意し終わると、木の椅子に腰かけた。
「ロットさん、このようなご馳走をありがとうございます」
「いえいえ、おもてなしは私の性分でして、お気になさらないでください。どうぞ、お召し上がりください」
「ありがとうございます。それでは遠慮なくいただきます」
一口サイズに切り取り、パンケーキを口に入れた。
にんじんの優しい甘みがほんのり口の中に広がり、とてもふわふわな食感がなんともいえない絶品なパンケーキだった。
生前でもこのようなパンケーキは食べたことはないと思えるぐらい感動した。
紅茶も一口飲むだけで、心がスッと軽くなるような安心感を味わえるような体験したことのない不思議な感覚になりながらも、”今”は現実の出来事なんだなって改めて実感したような気分になった。
「ロットさん、先程、転生者や転移者がこちらの駅に訪れることがあるとのことでしたが、どのくらいの頻度で訪れるのでしょうか。お会いできる機会があれば、お話をお聞きしに行こうかと思いまして」
「そうですね、ここ500年で転生者、転移者を合わせて、ポラリス様を含めますと、50人ほどでしょうか。みなさん行先は違いますが、きっとお元気にされているはずです」
聞き間違いだろうか、500年?!みんな元気かも知れない??!
僕は疑問をストレートにぶつけてみた。
「この世界は寿命というものはないのですか?」
「いえいえ、寿命はありますよ。種族や役職や加護など、様々な理由や条件がありますが、数十年で亡くなる方もいらっしゃれば、数百年、数千年以上生きられる人や存在も勿論いらっしゃいます。私自身も駅長という神職与えられておりますので、数千年の時を生きています。転生者や転移者の方々も特別なスキルや役職につくことが多いですから、長命だと思います」
この世界では生前の世界の常識とは本当にまったく違う常識で回っているのだ。
それに、駅長という役職は神職であり、世界の橋渡しのような特別な役職であるとのこと。
ロットさんがお話される内容をまとめると、ロットさんは神職の役職で、とても長命であること。
うさぎ駅創設時から駅長らしい。研修で一度、大神都に行ったことがあるそうだ。
転生者や転移者はスキルや能力に応じて特別な役職や地位についているということ。とは言ってもその職種につくなど、自分の人生を生きるうえでの束縛は無く、自由度はとても高いらしい。
そして、役職や種族によっては長命であること。
ただ、必ず長命になるかというと一概には言えないこともあるらしい。
転生者や転移者の行先はみんな違うらしいので、どこでどう会えるかは運次第だろう。
僕自身はこれからだ。果たして寿命とかあるのだろうか。
できれば、可能であれば、健康で長命でありたいと願う。
生前が短かったという思いや後悔の念が強いからも知れないが。。
「あのロットさん、これから乗り物が来ると思うのですが、お金とかはどうすれば良いのでしょうか。手持ちがまったくなくて、、、」
無賃乗車になって、即犯罪者にはなりたくない。
「ポラリス様ご安心ください。もちろん無料でご乗車いただけますよ。この世界にきた時点で持たない者としてお客様としてお越しいただいたので。合わせて特に稀な転生者や転移者というのであれば、なおさらです」
「安心しました、手持ちがなく不安でしたので」
ロットさんは軽快に笑いながら安心感を与えてくれるように、僕の不安を吹き飛ばしてくれた。
「ご馳走さまでした。とってもおいしかったです。素敵なお茶とご馳走をありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます。ポラリス様の門出をお祝いするのに少しでも喜ばれたのでありましたら私ロットもとても嬉しく思います。」
ロットさん、なんて良い方なんだろうか。
「あ、ポラリス様、ご自身の姿は確認済みですか?」
ん?どういう意味だろう。
「どういう意味でしょうか?」
「ポラリス様は以前の世界の姿ではない筈です。詳しいことはポスタマ―で詳しく説明があると思いますが、隣の部屋に姿鏡がありますので、ご確認ください」
僕は食器を片付けると、となりの部屋に確認しに行った。
この世界にきて初めてみる自分の姿を見た。
星のように艶のある水色かかった銀髪で、セミロングの美少年?生前とは比べものにならないほどのイケメンになっている。
身長も生前と比べると少し低くなって若返っているように感じる。
見た目は15歳程度だろうか。
どういうことなのだろうか。驚きに少しづつ慣れてきたとはいえ、未だ転生や転移という状態に気持ちが追い付いていない感覚がある。
人型であることは、ここの場所に来るまでの間で確認してはいたが、容姿となると、鏡も反射するものもなかったので確認しようもなかったのだ。
よくよく考えてみれば、転移または転生したのだから身体が変わっていることは、なんとなく察しがついていたが、ここまで変化していたとは驚きを隠せないでいた。
自分で言うのもなんだが、振り返ると生前は33歳で容姿も大してパッとしなかったし、身体も弱かったので
容姿や健康状態も自信はなかった。
今となっては、長距離を走っても疲れない健康的でかつ美少年?になっているので、生前とは比べられないような贈り物に感謝した。
大神都で、僕を呼ばれた神様という存在がいるのであれば、是非御礼を言いたいものだ。
姿の変化を確認し終わったので、ロットさんのところへ戻った。
「ポラリス様どうでしたか?変化されてましたでしょう?」
「ええ、とても驚きました。生前とはまったく違う容姿だったので、とてもとても驚きました」
「転生者の方はみなさん驚かれるんですよ。転移者はそのままの姿で来られますが、稀に変化してこられる場合もあります。ポラリス様の場合は転生か転移、両方の可能性があるので、他の方々とは違ったスキルや能力を秘めている可能性がありますね」
「スキルと能力ですか」
「そうです。この辺りは個人情報になりますので、大神都のポスタマ―で詳細が判明するでしょう。合わせて今回、行先が大神都ということもあり神々に呼ばれている可能性がありますので、神々からもご説明があるのかも知れません」
「はぁ....なんだか、雲の上のような夢のような話ですね」
未だ頭の整理が追い付かない。ここは別世界である、異世界であることであることは間違いないのだ。整理するのには少し時間がかかるだろうと胸の中で想いながら、ロットさんの話に耳を傾けた。
「この世界には魔法とかもあるんですか?」
「ええ、魔法ももちろんありますよ」
魔法と聞いて、整理に時間がかかるであろう動揺がスッと治まった気がした。
頭ではなく心が”ここが異世界である”と認めたのだ。この鎮まりようは間違いない。僕は確信した。
「ロットさん、色々丁寧に教えていただき本当に感謝しています」
「いえいえ、こういう会話も駅長としての勤めですから。私自身がお話好きということもありますけどね。あはははは」
ロットさんは、とてもよく笑う方だ。見ても癒され笑う姿もとても可愛く思えた。そのままロットさんと僕の生前の話や、ロットさんの故郷の話とかたくさんお話をした。
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「そろそろ、大神都行きの魔炉機関車が到着しますので、もうしばらくお待ちください。私は事務所で受け入れ準備に行ってきます。それまではどうぞお寛ぎくださいませ」
「ロットさん、何から何までありがとうございます」
僕は魔炉機関車という名の乗り物が来るまでゆっくりすることにした。
どんな乗り物なのだろうか。
どんな行先なのだろうか。
不安や心配はもはやない。ロットさんのおかげだ。
僕は新しい人生の門出に胸の期待を大きくして、魔炉機関車の到着を心待ちにしていた。




