#22 世界のうねり
「はぁ、シュシュ元老員のとこ行くのは面倒いなぁあ」
「エノカ様、またシュシュ様に怒られますよ。確かに千年会議が終わったばかりというのには急過ぎるとは思いますけどね」
「でしょでしょ、私だって休暇が欲しいものだよ」
「兎に角、元老員のところへ行きましょう」
「んー、少し待ってて」
そういうと、パルム・エノカは何かの魔法を使って欲しい知識を増やしているようだ。手段は私には全く分からない。恐らく賢者の魔法の一種だろう。エノカ様を中心にしてほんのり光で包まれているような様子が見える。後光が射すようなというか、室内だというのに少し明るくなったような気がしなくもない程にだ。
魔法の文字が宙に浮かびパルム・エノカの頭に吸収されていく。
魔法とは世界の辞書である。
この大魔法特異界においての魔道図書と言われる禁書図書室という場所は毎秒事に想像を絶する数の魔法書が入荷されてくる。書物は魔法で陳列され整理され保管されている。しかも空間は拡張をし続けているので図書室の端は肉眼でも魔法を使っても見ることは出来ないぐらい広い。エノカ様ならあるいは可能なのかも知れないけれども。
魔法は生き物であり、自然であり、属性や種族関係無く、使い手さえ居れば魔法は何も無い空間や景色にさえも溶け込んでおり存在している。
魔法は生き物であり、世界であり、存在なのだ。
魔法には治癒などの魔法から攻撃的な魔法まで数多に存在している。それに度合いや位もある。魔法の世界はとても広く深い。創造性に富んでいる。加えて種類も数多くある。古い魔法と呼ばれる超越魔法、起源魔法、創世魔法から近代魔法、現代魔法と言われるものまで。最近、禁書図書室に入荷してきた書物の中には、創世魔法、宇宙魔法、極大魔法、世界魔法といったものまで世間では決して出回らない知識が完全保管されている。
ここ禁書図書室自体が究極魔法以上の結晶であり、外部から無断で閲覧や書物の持ち出しや、複製なども不可能である。禁書物は神と呼べる者ですら入退館は許可無しでは出来ないのだ。
そもそも神とはいるのだろうか。禁書目録においては神と冠した記述は多く存在し、実際に神と呼ぶに相応しい程の破壊力や奇跡を起こすことも造作も無く出来る魔法も収蔵されている。神魔法や神代魔法、魔神魔法、神人魔法などが該当する。
パルム・エノカはここ大魔法特異界で最強の頂に君臨している最高峰の大魔法使いである。そのパルム・エノカが使える魔法の種類は無限に等しく魔力量は大魔法特異界一である。だが、性格は温厚で優しく天然だが、冷静に敵を分析し、解析し、どの魔法が敵に有効かを瞬時に判断することは自然に刹那よりも短く判断出来ることは確かだ。
時間を見つけてはここへ足を運ぶのだ。
「エノカ様、お迎えが来たみたいですよー」
「あーい、今日も大収穫だよー」
「もう、持ち出し出来ないからと言って入荷した書物全て一言一句全部暗記するなんてエノカ様ぐらいしかいませんよ」
「あはははー、スイスイもっと褒めてくれても良いのだよー」
「もう、直ぐ調子に乗るんですから」
魔道図書室を出ると。気持ちの良い風が部屋に吹き込んできた。
今日は良い天気だ。とても鮮やかな青で快晴だ。雲一つすら無い。しかもいつもよりも空がとても高く感じる。白い鳩が遠くで飛んでいるのが見えた。
見覚えのある一人の男性が立っていた。あ、元老員の秘書さんだ。スイスイは頭の片隅にある記憶を穿り返す。
「私、アルクセと申します。元老員のシュシュ様の命によりパルム・エノカ様をお迎えにあがりました。よろしくお願い致します」
「あーい」
「私はスイスイと申します。こちらがパルム・エノカ様です。こちらこそ、よろしくお願い致します。ところで、今回はどのようなご用件でしょうか」
「はい、千年会議で議題に上がっておりました。謎の勢力についてと交信についてです」
「なるほど」
エノカ様は隣で立ちながら爆睡している。もう数千年一緒にいると慣れてしまって怒る気力も無いというよりは、この状態がエノカ様なんだなって思うように出会って間もない頃に思ったのが昨日のようにふと思い出した。
「立ち話も何ですから、移動魔法の道中でお話致します」
「ご丁寧にありがとうございます」
「エノカ様、行きますよ」
「あーい」
行きたくなさそうな声だ。本当に面倒くさいのだろうか。エノカ様の心を見透かすことなんて出来る訳じゃないけれども直感でふとそんな気がした。移動魔法はありふれた生活魔法だ。国民や官僚でも子どもでも普通に使用することができる簡単な魔法だ。ただ、行き先に寄っては瞬時に移動が出来る移動魔法でも時間がかかる場合がある。
例えば今回のような元老員の元へ行かなければならないという場合だ。何重にも張り巡らされたセキュリティを解除し承認されてようやく元老院にいる元老員の元へ辿り着くことができるのだ。
なので、道中会話が出来る時間はあるのだ。秘書のアルクセが魔法を発動させ移動を開始する。
「早速ですが、今回の話の概要について、主に二点です。謎の勢力の侵攻についてと、主特異界への交信不可について。パルム・エノカ様のご助力を頂ければと思いシュシュ元老員がお話されたいそうです」
「zzz....」
「エノカ様はお疲れのようなので、私スイスイがお答え致します。はい、かしこまりました。エノカ様と一緒に話を聞かせてもらいます」
「スイスイ様、いつもの事ながらありがとうございます」
「いえいえ、エノカ様のお世話を出来るのは生み出された私しか出来ないことですから。お気になさならずに」
今回の移動魔法は元老員の秘書アルクセということもあり通常の承認がスムーズに下りていく。到着まで五分程度だろうか。
会話は要点だけを秘書から聞かされた。今後何かしたらの攻撃または大きな変化が起こる可能性が高いと思われる。通常、主特異界は世間では政府内だけで完結されており、世間では公表されていない事実だ。だが、一部の貿易で交易している者も承認された存在のみ行われている。だが、現時点では交易していた者との交信するらも断絶され、大魔法特異界において一部の地域で多大な被害が出ている報告を道中要点だけ聞かされた。
事態は急を要しているようだ。だが、気になる点がある。この大魔法特異界への侵攻についてだ。過去にも戦争や争い事は歴史上沢山あった。エノカ様も多くの戦場で活躍した。だが、六〇〇〇年前に締結された世界和平条約が結ばれてから一度たりとも戦争やテロリストによる紛争や戦争なんてなかった。
他の星からの侵略するらも世界和平条約に組み込まれているので、特異宇宙内での争いは禁止されているのだ。
だが、今回の話を聞く限りだとかなり事態は深刻だ。なんせ、消失したのは魔導武装都市ガルゼンだからだ。この大魔法特異界でも数えられる武装大都市だ。それが一夜で消失したというのだ。
最後の通信は救援だったという。あの都市には特別製の魔法障壁があり、大魔法を放ってもビクともしない強度を誇っている。守りだけではない。攻撃においても、魔法武装に関しては世界有数であり、大魔法使いレベルはゴロゴロと溢れるぐらいの大軍を保有していた筈だ。大都市を治める王に至っては極大七大魔法を操れる世界で十の指に入る大魔法使いだ。
話を聞く限りだと、急襲であった事は間違いないのだが、急襲であったとしても簡単に大都市を消失させることができることがいかに難しいことはこの世界において魔法を習得している者であれば難しいことぐらい百も承知である。
だが、大都市は陥落し、現在調査団が調査に現地へ行っているそうだが、現状、敵について知り得る情報などが上がってきていない。
スイスイの個人的な感覚だが、恐らくこの首都ランティアにある大神殿レルベアへの侵攻も遅かれ早かれというところだろう。元老員の意図としてはエノカ様の助力と今後の方針について相談と次回の賢神会議で上申するのだろう。
現在、魔導武装都市ガルゼン消失については箝口令が敷かれており事件として情報が伏せてある。無論、無用な混乱を防ぐ為だ。敵がどこから攻めてくるかわからない以上、事は慎重に早急に進めなければならないのだ。
だが、本当にあの王と軍勢を滅ぼしたのだろうか。都市ごと転移させたのではないだろうか。かの王はエノカ様も一目置く最強の一角である大魔法使いだ。特に攻撃魔法においては知識も膨大で魔力量も最高峰の一角に数えられている存在だ。
敵は誰だ。どんな魔法使いだ。今まで息を潜めていたというのか?
あり得ない。優秀な魔法使いや大魔力を持った魔法使いは全員確認されている。だが、現状当時の現場にいた魔法使いで該当するものはいないとの報告をアルクセから聞かされた。
「zzz....」
エノカ様は鼻提灯を雄大に膨らませながら寝ている。まるで緊張感がない。だが、逆に安心する。エノカ様は一を聞いて億を知るぐらい頭の回転が速いのだ。大賢人とも呼ばれている。
世界はうねりを上げて変革を起こそうとしているのかも知れない。主特異界の件といい何者かの影響があることは確かなのだ。
アルクセとの会話が丁度区切りが着いた頃、大神殿レルベアへと到着した。大きな大階段はいつ見ても圧倒される。神殿も巨大で荘厳な雰囲気を神聖さを保ちつつ重圧のような迫力が建物から肌にヒシヒシと痺れる感覚に陥るのは僕だけだろうか。この大魔法特異界の要の神殿というのには最も相応しい場所であることは毎度の事ながらそう思う。千年会議の時だってそうだ。一人一人の存在感で潰れそうになるくらいの迫力と気迫に満ちている場所だ。
階段を登り、神殿の奥へ進む。
「こちらがシュシュ元老員様の執務室です」
アルクセが一礼する。いつ見ても大きく重厚な扉だ。見た目から重さを感じないというのは嘘だ。細かい装飾に加えて幾重にも魔法による結界が張られており、シェルターの役割も果たしそうな重厚な作りである。
「エノカ様、エノカ様、到着しましたよ」
「ん」
器用な方だ。眠りながら歩いてきたのだから。どんな器用な魔法なのだろうか。いつも不思議に思う。
扉が重さを感じさせない程に軽く開かれた。
世界は容赦なくうねりを帯びて迫ってきている。スイスイは扉の中から零れ出る空気にそう感じさせずにはいられなかった。




