#13 実戦②
この空間で戦闘を開始して何時間立つのだろうか。
僕とエアリスさんとの応襲は続いている。
疲れや消耗は感じない。ただ、辺り一面長閑で気持ちよかった風があった世界とは違って、暴風と地殻が割れ空間が割けんばかりに悲鳴をあげているように空間が震えていた。
エアリスさんは戦闘が始まる前に、この空間は特別製だと言っていたが、本当に持ちこたえることが可能なのだろうか。
戦闘開始後、僕の目では極限まで全天さんの能力で加速された世界では光の速度での攻撃すらも見えるようになっていた。進化のスピードが急激に早まっており治まるところを知らずに青天井に向かって現在進行形で進化し続けている。
十煌神エリアスという頂との存在のおかげだ。戦闘力の純度がノノとは比較にならないということなのかも知れない。
もはや、自分でも力の加減が利かなくなっており、膨大に蓄積された戦闘経験値から得られたスキルや能力を全天さんが猛スピードで統廃合と進化を繰り返しているため、能力やスキルを使用するどころか、知る術も無いままに統廃合され進化され続けている。
全天は戦闘の観測と分析をしつつ、着実にかなりのスピードで僕の中に蓄積された膨大なエネルギーを使い合理的かつ効率的に使用しているのだ。
僕の真核はとんでもないやつ(全天さん)だ。
にしてもだ、たった数時間の戦闘だけで、僕が放った攻撃は、大地を抉り地殻を剥き出しにし、空間に更に亀裂を生じさせていた。この空間は本当に大丈夫なのだろうか、外の人に被害は出ていないだろうか。
思考加速された世界で僕は、戦闘の刹那で考えながらエリアスさんと戦闘できるようになるまで成長していた。だが、決して僕は自惚れたりしない。僕は天才でもなければ特別な存在でもないと思っている。
真核の全天が優秀過ぎることは否めないが、それはあくまで僕の主観での話だ。
この特異界という世界でどんな存在がいて、3年後の敵という存在についても謎ばかりで、未知数だ。
エリアスさんは強敵だと言っているということは僕が今驕ったり慢心していると少なくとも必ず良い方向にはいかない。
パラレルワールドが存在しない世界という特異界(この世界)で、僕がどんな思考をして行動した結果が既に決まっているのかも知れない。
3年後は死んでいるのも、今度は生まれ変わることも無いのかも知れない。本来、転生にしても転移にしても奇跡のようなことなのだ。あの世という死後の世界があるのかもわからない。
僕は戦闘しながら大きく成長している。全ては3年後の為だ。本来、僕はこの世界で何かをする義理も理由もない、3年後に未来が無いと決まっていてもだ。だが、僕がこうして戦闘して死線ギリギリで経験値をためて成長して前に進んでいることを望んでいる自分がいることもまた真実であり結果だ。
未来は決まっているかどうかなんて僕が知るよしも無いし、全天さんですら預言者のようなオカルトな特別な能力があるわけでもないし、十煌神レベルでもわからない未来が待っていること。
僕は思う。パラレルワールドが存在しない唯一無二の時間や世界が流れているのであればそれは必然であり、自然の一つの正しい形なのではないかって。
それに、生まれ変わる前の世界では"人生は一度っきり、悔いがいないように生きよう!"と、世の中にはそんな本や言葉が太古から語られてきた。結局は生まれ変わる前も生まれ変わった今もたいして変わらないのだ。
宿命はあるのかも知れない。この世界にはそういう法則で回っているのかも知れないが、それでも自分の道は自分で選択して行動するまで、3年後がどんな世界であれ、そこからがこの世界では宿命から自分で変えられる運命を動かすスタートラインへと辿り着けるんじゃないのかなって。
ただの僕が主観で考えている仮説だが、決まっている人生なんて退屈に決まっている。
「ステラマリス君、次は少し本気で行こうか」
エアリスさんの実力は青天井だ。上も底も見えない。もはや、脅威だ。だが、不思議と恐くない。僕も少しは成長できている証拠だろうか。
まるで、成長期の中にいる子どものような気持ちだ。全身に走る衝撃も傷みも成長期に感じる成長痛みたいなものなのかも知れない。
「はい!!お願いします!!!」
《主!こちらも準備完了しました。体力もエネルギーも無限に近くありますので思う存分にご利用を!!》
エアリスさんが動いた。体の形状が変わっていく。
「雷煌神君」
エアリスさんの本気モードだろうか。星崩衣を纏っていても心もとなく思えるぐらいの膨大なエネルギー量だ。もはや、神と戦っている気分になる。
エアリスさんは神などいないと言ってはいたが、あれは方便だと心から思う。畏怖や尊敬、畏敬だろうか、神々しさを感じないほうがこの場にいる僕からすると異常だと思う。
「ポラリス・ステラマリス征くぞ」
言葉が攻撃と感じるぐらい空間が揺れ衝撃が走った。戦闘中に得た、「衝撃無効化」を獲得しているのにも関わらずだ。
無い大気が焦げて消滅していく感覚がする。全天さんも観測出来る全域にアンテナを伸ばし不測の事態を回避できるように神経を使っている。
「神羅雷」
エアリスさんが言葉を放つと空が全天真っ白になった。
《主!!!!!!!!!!!全速回避!!!!!!!!!!!!!!!!》
全天さんからの報告が頭に流れ込んでくる認識する前から網膜には測定観測不可のエラー表示で視界が埋め尽くされた。
「エアリスさんの今の状態や状況を見てら少しどころの本気じゃないな」
空が光る。雲は蒸発し直撃まで1秒以下だろう。極限まで思考加速してなかったらもう死んでいただろう。即死無効や耐性があってもこれは即死する。そんなレベルだ。纏った星崩衣なんて簡単に蒸発してしまうだろうよ。
《この空間全域に三次元跳躍しても回避不可です!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!》
「僕は諦めるわけにはいかない!!!乗り越えられない壁は無いんだ!!!!!!全てをUniverseへ!!!!!」
《このエネルギーは吸収できる確率は0です!!!!!!》
「本当に0か?限りなく0でも可能性があるんじゃないのか?」
《再演算、観測掌握不完了。不可不可不可不可…!!!!!》
「全天!!!僕が考える可能性を見ていろ!!!例え、0でも1にして勝ち取ってやる!!!!」
《主、不可能です!!!防御態勢を!!!!》
「大丈夫だ!!全天、不思議となんとかなる気がするんだ」
《主......仰せのままに。全力でサポート致します!!!!!》
「頼むぜ相棒!!!!!」
《はい!!!私の主!!!!!》
大気は蒸発し、大地は量子崩壊を始めている。時が止まるほどの思考加速ですら普通の時間みたいに周りのものや存在が消えていく。空間が閉じていくような感覚もあった。
これが、世界の頂に立つ存在の一撃。距離はとても遠く遠い。
白に包まれた。
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どれだけ、時間が経ったのかはわからない。体がどれだけの損傷を受けたのかもわからない。現実世界では1秒も経っていない。
僕の体感は数時間または数日だろうか。時間の経過した観測が操作されていたため正確な経過時間が掴めないでいる。
僕が覚えている最後の記憶は
”白い景色”
だ。
無音と静寂が満ちる中、僕は目を閉じた。




