#12 実戦
パチンッ
見渡す限り広い空間の筈なのに、エアリスさんが指を鳴らした音が響き渡る。澄んだ高い音だが、軽い感じの音には聴こえない。この胸騒ぎはなんだろう。
《観測できました。時間が引き延ばされています。通常時間1秒が10年単位に時間改変されました。限定的にこの空間は1秒が10年の世界となります。主お気をつけください》
エアリスさんは、時間を引き延ばしたみたいだ。たった一瞬で時間を改変してしまうなんて。
「ステラマリス君、もう君の能力で知っているかもしれないが、時間を引き延ばしてもらったよ。これで時間を気にせず思いっきり私との戦闘に集中してくれたまえ。合わせて、補足だが、この空間は特別製でね、ノノ主席官との戦闘以上のことがあっても平気だから全力で私に向かってきて欲しい」
「エアリスさん、お気遣いありがとうございます!」
冷や汗かただの汗かはわからないけれども、頬を汗が一滴垂れた。気持ちはどうだろうか、動揺なし。不安も恐怖も心配も無い。大丈夫だ。僕なら大丈夫。
ただ、大気は震えをました感じがする。ノノには一瞬しか見えないかも知れないな。
《主来ます!!》
エアリスさんが、指を鳴らすと丘が吹き飛んだ。いや、丘じゃない?!地平の果てまで地面が深く抉られて吹き飛んでいる。
「これは?!」
エアリスさんが放った衝撃で空中高く上がってしまったようだ。今のところダメージはない。
パチンッ
《回避不可、衝撃波を跳躍させます》
指を鳴らす音が聴こえた瞬間、体をとてつもない衝撃が突き抜けた。辛うじて衝撃を「跳躍」と「Universeの併用で9割を飛ばし受け流した」
「かッはッ...」
《主!損傷個所を修復に入ります。完治完了。面での衝撃波を観測掌握完了しました》
全天さんは仕事が早い。よし、攻勢に行くぞ!
《ノノの特異点崩壊を観測掌握した際に「黒点域」を獲得しています》
「OK、全天!!」
スキル「跳躍」と潜在能力「Universe」を併用して、刹那にエアリスさんの背後に回った。
「ほう..」
エアリスさんが驚いた声を小さく聞こえたように聞こえたが定かではない。攻撃に集中する。
「黒点域!!!!」
手のひらから小さな黒い球体が出てきた。
瞬間!、空間が大きく歪み瓦礫もエアリスさんも飲み込むまいと重力と引力の奔流がエアリスさんを襲った。
エアリスさんとの距離は0距離。
発動は背後に出た刹那に発動。
だが、十煌神と膨大な種族や数多の世界の頂にいる一角、この程度でやられるほど甘くはないのだ。
エアリスさんが指を鳴らすと、黒点域はそよ風のように何事もなかったかのように消えてなくなった。
「次は何を見せてくれるのかな?」
エアリスさんはなんだか喜んでいるようだ。
《観測完了。黒点域完全消失確認》
全天の声を聞きながら、「跳躍」と「Universeの併用で、距離を遠くとった。
《主次のエネルギーは先程の衝撃波とは次元が違う攻撃がきます!!!観測掌握完了!!!
!!》
全天は十煌神の動きを計算して予測しているというよりは予知に近い言動を発している。観測さんの時とは違い、かなり進化していることを体で実感した。
「神雷」
巨大な光が迫ってくる。全天さんのおかげで、思考が加速し、視界がスローに見えるから思考できる時間が出来ているのだ。
だが、時が止まったに等しい刹那の合間でも避けれようには見えない規模の攻撃だ。エリアスさんは徐々に力を込めてきているのかも知れない。避けることは難しいだろう。
全天も同意見だ。だが!
《Universe解放による防御策を練り対応します!完了しました。衝撃来ます!!》
全身にとてつもない衝撃が駆け巡る。全身が痛い。燃えるように全身に熱が溢れてくるような感覚に陥った。
光の奔流が治まると、景色は一遍していた。僕の背後は草原の景色は消え、地平の彼方まで続くような草も生えないような平地と化としていた。
《主、体の回復完了しました。次来ます!》
全身を突き抜けた衝撃による痛みはもう気づいたらなくなっていた。便利な体になったものだ。次はもう当たらないぞ。直撃したらおそらく死ぬか致命傷になる攻撃だ。
ノノのときは違って苦戦を強いられていた。何が違うのかはわからない。明らかに超新星爆発や特異点崩壊の方が圧倒的に破壊力があるからだ。
先程の光に意味があるのかも知れない。
《主、先程の攻撃を観測掌握完了致しました。次回の攻撃から全て吸収に移行します》
「ステラマリス君、次はもう少し早く行きますよ」
エアリスさんが言葉を発した直後に、先程の光の塊がこちらへ飛んでくる。ノノのときに感じなかった死を覚悟するような感覚がする。
だが、Universeの能力で全て吸収した。先程、僕に襲い掛かった衝撃波もだ。
「ふふ、そう来なくては」
エアリスさんはまだまだ余裕そうだ。なんだか、楽しそうだ。
とは言っても、先程の攻撃はノノの攻撃とは比べものにならないエネルギーだということが観測結果が網膜に表示されている。
見た目の大きさや派手さはこの戦いには関係無いことを改めて思い知った。小さなエネルギーに見えても宇宙を消し飛ばしたり、ビックバン並みのエネルギーはこの世界では常識なのかも知れない。なんていうインフレ具合よ。
どんな攻撃だろうが、僕の潜在能力で飲み込み、吸収し何かの進化のために膨大なエネルギーがせっせと解析され成長に使われている。僕の潜在能力はまだ僕自身も把握しきれていない。明らかにノノときと今回の戦いで宇宙をいくつも誕生させるぐらいのエネルギーを吸収してしまっているからだ。
僕が知らないところで全天は何に使っているのか、戦闘が終わったら確認しなくちゃな。
《主、Universeとスキル「跳躍」を連続使用と調整し進化させたため、スキル「三次元跳躍」を獲得しました。今後、観測できる全ての三次元空間域に転移可能です》
全天は僕の行動の経験値から分析し解析し調整して進化までしていた。
(グッジョブ!全天!!)
《ありがとうございます!!引き続き継続します!!》
全天はまだ何かをせっせと調整してスキルを進化か何かをしているようだ。改めてとんでもない、優秀過ぎる相棒だ。
スキル「三次元跳躍」を得たので、容易にエアリスさんへ時間差無しで転移可能だ。さて、僕が攻撃できるものは黒点域のみだ。
「ならば、更に応用だ!」
エアリスさんは戦闘開始からまだ一歩も動いていない。
パチンッ!!
エアリスさんが指を弾くと同時に大気が歪んだ。これは?!!
「ステラマリス君、これを受け止められますかね」
「これは??!!」
「雷國」
《高凝縮された雷の奔流です!吸収する前に灰になります!》
なるほどね、これも避けられそうになさそうだ。これはさすがに。。
衝撃だけで、地面が砕けていき、大気が灰になっていくようなものが見える景色全体で起こっていた。
「負けない!!」
エアリスの目にはステラマリスという存在が急速に成長し、まるで自分に届きそうな才能を感じざる得ない感覚になりながら自分の気持ちに引きを締めて冷静に分析していた。
油断はしていない。だが、
エアリスの周囲に光が見えた。
「!?!」
「行け!!!!」
三次元跳躍でエアリスの攻撃が全て転移され、エアリス本人へ雷の奔流が迫った。
「無駄だ」
エアリスは右手をフッと払うと、雷の奔流は何事もなかったかのように消えたが、、
「これは?!」
雷の中から数多の極小黒点域が崩壊した。
ステラマリス君は、同時、私の攻撃と自分の攻撃を全方位に跳躍させ局地的にビックバンを起こさせた。
消えた光の中から眩い光と膨大なエネルギーが全方向からエアリスを捉えた。
「ステラマリス君、見事」
極大な爆発が起きた。エアリスでさえ、回避は不可能だ。
《完全にエアリスを捉えました。極小黒点域を連続で転移させ続けます》
ほんの極小の点の特異点崩壊とはいえ、破壊力は抜群だ。ノノのように巨大な黒点域だと発動まで時間と見た目でも対策される可能性を前回の戦闘から学んだから、今回の戦闘では極小黒点域を利用した。三次元跳躍のおかげで、観測できる全てに発動から直撃まで時間差無しだ。分析や解析、吸収を仮にできる状態であったとしても時間が無いのだ。自分だった場合とそれ以上を想定して演算した上で攻撃をしているのだ。
相手はこの宇宙や世界の頂にいる存在、僕だって油断はしない。全力で相手をするのは礼儀だ。
極小黒点域は継続してエアリスさんを包んで崩壊している。凄まじい爆発と衝撃だ。
自分の攻撃でダメージを受けるわけにはいかないので。全天の演算でダメージが無いように全て三次元跳躍で回避している。
ーー
あれから何分経過したか、僕の攻撃は続いている。爆心地では天まで上る爆炎と重力崩壊の渦で地形が大幅に変わっている。
エアリスさんからの攻撃は無い。全天さんの観測だと未だ、爆心地で立っているのだという。
やはり、エアリスさんはとんでもない人だ。何もアクションをこちらへ起こしてこないということは、何か企んでいるのだろうか、様子見しているのかも知れない。
「ならば!!!」
《観測掌握完了。爆心地から離れる全てのエネルギーを三次元跳躍し爆心地に転移します。演算完了》
爆心地は光の球体ように眩く輝いていた。全天さんの三次元跳躍が無ければ光を見ただけで通常は失明してしまうぐらいの光だ。
爆心地では、重力崩壊が連続でループしており、仮に完全防御のようなスキルか特殊能力があって無傷だったとしても、球体の外に出ようとした瞬間に、崩壊している中心へ三次元転移し体の内側から重力崩壊の直撃を受ける仕掛けも用意したのだ。
だが、何故だろう。
勝てる気がしないのは気のせいだろうか。
爆心地は数多の重力崩壊が重なり、空間が歪み始めていた。地形は綺麗な草原ではなく地殻が割れ、空は大きく歪み世界の終わりのような景色になっていた。
地鳴りが聴こえる。
《主!!!!》
「ステラマリス君、実にお見事だ」
「??!!!!」
突然背後にエアリスさんが立っていた。ローブが所々焼け落ちている。だが、一見、服以外は無傷のように感じる。
「さすがだよ、ステラマリス君。ここまでの攻防一体の極致的な完全な攻撃を受けたのは何億年振りだろうか。次は本気で行かせてもらうよ。死なないように気を付けること」
エアリスさんが初めて指だけではなく両手で構えた。
「雷廻」
構えたエリアスさんの全身が青白く雷を纏っている。空間に雷が見える。ただの雷じゃない。触れれば恐らく即死する存在だ。
《主!体術連撃が来ます!防御態勢を!》
うん!大丈夫!
本番はこれからだ。
(黒点域で体を包むことは可能かい?)
《観測掌握完了しました。可能です。攻防領域展開します。Universeと黒点域を統合し進化させ、スキル「星崩衣」を獲得》
僕の全身が星の衣を羽織ったように煌いた。
「全身に宇宙を纏ったか。凄い力だ。想像以上だよ、ステラマリス君。本気で来なさい」
エアリスさんが驚きながら冷静に分析している。かつ、僕を成長させるために正面から全力で向き合ってきてくれている。これが、頂に立っている方か。僕は心の底から尊敬した。
「ステラマリス君、行きますよ!」
「はい!!」
瞬間、拳と拳がぶつかる度、空間に大きく亀裂が入り広大な大地が灰塵と化した。空も焼き切れて大気も存在していないように思える。
僕は攻撃を受け避け放ち、確実にエアリスさんを捉えていた。
僕は戦闘を重ねるに連れ急速とは言えないぐらい急激に進化している。
エアリスさんはそれすらも計算しているのだろう。加速度的に力とスピードが増して僕に襲いかかってくる。
現実世界ではまだ1秒も経っていないのだろう。
《エアリスの戦闘パターンを観測掌握完了しました。これからは自動防御可能です》
全天さんはとにかくヤバイ。観察して観測して自分のスキルにしてしまう。エアリスさんは百戦錬磨では利かないぐらいの実力者だ。それをいとも簡単に攻略できたのか?ただ、だからと言って僕はどんな相手だろうが舐めたり見下したりしない。違う意味で人間として負けてるからだ。これは自分の問題だけど。
「もう、見切ったのか。ならば!!」
「くッ!!!!?!?!」
エアリスさんも想像を絶する人だ。油断しないが、油断すると僕は確実に死ぬ。間違いなく死ぬ。
死んでもこの世界は蘇生をしてくれるのか、もしくは蘇生できないのかわからないけれども、慎重に気をつけなければならない。
エアリスさんは、僕が解析の報告を全天さんから受けて同時に、戦闘の流れから自分が解析されたことを察し、攻撃パターンを変えてきた。
間違いなく、攻防はもっと激しくなる。
地形も大気ももはや面影はない。今戦っている空間がどのくらい広いか、強度が大丈夫かは僕にはわからないけれども、僕がこの貴重な戦闘経験で大きく成長して得られるものがあるまで保って欲しいと願ったのは言うまでもない。




