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バルビリオンを練り歩く

 フラジールから出て地上に戻ってきた。

 空はオレンジ色の夕暮れになっていた。


 メフィとはフラジールの中で別れた。


「じゃアタシ本日最後の破壊エリアに行かなきゃだからってことでバイビー」


 とか早口で言って俺より先にバタバタとフラジールを出ていったのだ。

 Sランク魔法使いには山ほどの破壊依頼があるんだろう、きっと。


「さーてこれからどうすっかな」


 2日後に採用試験を受ける以外には何も予定がない。ヒマだ。


「街でもぶらぶらすっか」


 俺は下町エリアを抜けて大通りへ向かった。


 バルビリオンの街は鉱業が盛んな中核都市で武器防具の店が立ち並んでいる。世界各地から良質な装備品を求めて冒険者が集まる街、それがバルビリオンだ。

 という内容を、街に初めて来た時に道案内してくれた通行人のおっさんが俺に説明してくれた。


 実際に街を見ると、たしかに大通りには武器防具の店が多いと感じた。

 しかも高級そうな外観の店が多い。

 冒険者が集うのもうなずける。


 せっかくバルビリオンに来たんだから質の良い装備品が欲しい。

 だが『猪突猛進』の奴らに金品を持ってかれた俺には金がない。無一文だ。


 ズボンのポケットに手を突っ込む。

 ポケットの中にはバルビリオンに来る途中で手に入れたEランクモンスターのリンゴゴリラの爪やら、Fランクモンスターのメガネネズミの皮やらの素材が詰まっている。


「とりあえず素材を換金しに行くか」


 俺は換金屋を探すことにした。


 噴水広場を過ぎて、洞窟公園を横切る。

 バルビリオンの街を練り歩いていく。


 すると道中で、『老朽化した家の破壊作業中につき頭上に注意! フラジールより』と書かれた立て看板があるのを見つけた。


 俺は上を見る。そしたら男が二人、まさに屋根の上に登って破壊作業をしている最中だった。


「おい、慎重に壊せよ!」


「わかってるってアニキ!」


「お前はわかってないから言ってんだ!」


「大丈夫だってアニキ!」


 男たちは声が大きく、話が丸聞こえだ。

 

 「フラジールってこういう仕事もやってるのか。ただただ破壊するだけじゃないんだな」


 俺がフラジールに入ることになったらこんな仕事もするのかもしれんなと思いつつ、俺は引き続き店を探しはじめる。


「お、あった」


 換金屋はバルビリオンの中央街に近いところにあった。


「あの、本当にこの額にしかならないんでしょうか?」


 到着したので店の中に入ろうとしたところ、換金屋の中から女の声が聞こえてきた。


「なんか揉めてんのか?」


 俺はいったん中には入らず、開きっぱなしの入口のドアから店内の様子を覗く。


 店内では店主のおやじと受付カウンターを挟んで赤髪ポニーテールの女の子が話していた。女の子は緑色の服とショートパンツ姿で肩には弓を担いでいる。身なりから察するに狩人のようだ。


「お客様、お気持ちはわかるのですが……」


「どうしよう……この額じゃ明日どころか今日も宿無しになっちゃう……」


 女の子は困り果てている様子だ。

 厄介事にはなるべく巻き込まれたくないというのが俺の信条ではあるんだが、これから俺が利用する店でいざこざが起きてるというのに見過ごすわけにもいかん。


「おやじ、急いでこれを換金してくれ」


 俺は店に入り女の子の横に並ぶと、ズボンのポケットからモンスターの素材を取り出し、カウンターの上にどさりと置いた。


「とりあえずお客様の話は後で聞きますので」と女の子に説明したあと、店主は先に俺の素材の換金作業をはじめる。


 女の子は「わかりました」と言ったあと退き、店の入口の横に設置してあるベンチに腰を静かに下ろした。


「なんかあったのか?」


 俺はベンチに座ってがっくり肩を落としている女の子をちらりと見たあと、店主を見る。


「ああ、あの子の換金額が宿代に足りてなくて、それで困ってるようなんですよ。あっしもなんとかしてやりたいんですが、いかんせん仕事ですしねえ……」


「なるほどねえ」


「はい、換金終わり。おまちどうさん」


「仕事が早いな」


 あっという間の換金だった。

 俺は店主から金の入った袋をもらった。

 さっそく袋の中を見る。


 おおよその予想はしていたが、装備品を買えるだけの金にはならなかった。


 ……さて。


「おい、そこのあんた」


 ベンチに腰かけている女の子に俺は声をかけた。


「え、私ですか?」


 女の子はきょとんとした目で俺を見ている。


「そうだ。あんたにこれをやる」


 俺はついさっき換金してもらったばかりの金が入った袋をぽいっと女の子へ放り投げた。


「え、これって……」


「金だ。それで宿屋に泊まるといい」


「いや、でも」


「俺には金がたんまりとある。でもあんたは金がない。だからその金を使え。じゃあな」


 俺は女の子にそう伝えて店からそそくさと去った。


 風が冷たい。

 外はもう日が落ちていて月が出ていた。


「今夜も野宿だな」


 ぽつりと俺はつぶやいた。

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