破壊屋ギルドのご案内
「キミ面白いねー。破壊屋ギルド『フラジール』のメンバーにならない?」
女が尋ねてきた。
「破壊屋ギルド? フラジール? なんだそりゃ」
「フラジールのこと知らないの?」
「知らないな」
少なくとも今日まで俺が生きてきた中で『破壊屋ギルド』とか『フラジール』だなんて言葉は聞いたことがない。
「キミどこ出身? あと職業ランクは何?」
「出身はマッポ村でDランクの武闘家だが」
「あー、マッポ村ならギルドのこと知らないか。てかランクD? 嘘でしょ? その強さなら余裕でAはあると思うんだけど」
女は困惑した表情になった。
「知らん。てか破壊屋ギルドってなんなんだ」
「破壊屋ギルドは破壊することを生業にしたメンバーの集まりよ。物、生命、概念。この世のありとあらゆるモノを、人の依頼を受けて破壊する。それが破壊屋ギルドなの」
「はーん、はじめて聞いた」
「まあ、まだ活動し始めてちょっとしか経ってないからね。ちなみにアタシはフラジールのメンバーなの。今日はこの廃墟の村を破壊するためにここに来たってわけ」
「村を破壊?」
「そ、村を破壊。ほら、廃墟のままだったら建物内にモンスターが住み着いちゃうでしょ? さらにそこから繁殖もしちゃうでしょ? だからそういった危険をなくすために、村を破壊してまっさらにして安全にしてくださいって、そういう依頼があったのよ」
と、女はわざわざ説明してくれた。
「じゃああんたは誰かの依頼を受けてここに来たんだな」
「そーゆーこと」
嬉々とした顔で女は話す。
確かに廃墟のままだと治安も悪くなるし危ないしな、と俺は納得。
そういえばこの女は俺の馬鹿力を見た訳だが、破壊するところを見てドン引きとかしなかったんだろうか。
「おい、そんなことより正直に言え。俺が破壊するところを見てどう思った」
「ん? すごいなーって思ったけど、それが何か?」
「怖いとか思わなかったのか? あとドン引きしたりとか」
「そんなの別に思わなかったよ。まあ一般人とか低ランクの人たちとかなら『ヤバい奴おる!』って思うかもしれないけどね。でもアタシはこーいうの普段から見慣れてるし。とゆーかアタシ自身も『ヤバい奴』だし」
「あんたがヤバい奴?」
「ヤバい奴だよ。見てみる? アタシのヤバいスキル」
そう言うと女はにやりと笑った。
この女、ただの魔法使いにしか見えないが、とんでもないスキルを持ってんのか?
「見させてもらおうか」
「いいよ。特別にあんたに見せてあげる」
女は指の関節をパキポキ鳴らしたあと、続けて指をはじいてパチッと音を鳴らした。
「上空にご注意くださーい」
女の発言を聞き、俺は上を見る。
そしたらなんか、黒い何かが空から降ってきているのが見えた。
その黒い何かはだんだんと近づいてくる。
「おい、何をした」
「まあまあ黙って見てなって」
こんな話をしてる間にも、空からは黒い何かがやってきている。
それはどんどん大きくなってくる。
そして肉眼ではっきりと見える位置まできたとき俺は理解した。
黒だと思っていた色は黒ではなく赤で、降ってきている何かは、大きな火球だということに。
「全てを燃やし尽くせ! ビッグファイアーボール!」
女が決め台詞のようなことを言った。
そして大火球は建物の残骸があったあたりに落下、地面に激突した瞬間、爆音と爆風を巻き起こした。
「うわあああっ!」
俺は爆風によってあえなく後方へ吹き飛ばされてしまった。
「アタシのスキル『巨大化』はどうだった?」
女が地面に転がっている俺を見下ろしながら聞いてきた。女も爆風をモロに受けたはずなのに吹き飛ばされていないのは、魔法の力かなんかなのだろう。
「ははっ、これはヤベぇや」
「でしょ?」
勝ったと言わんばかりに女は自慢げな顔をした。
俺は砂ぼこりを払って立ち上がる。
「最高にドン引きだ」
「ちょっ、ドン引きしないでー」
「これがドン引きせずにいられるか」
思わず俺は笑ってしまう。
ぶっちゃけ俺くらいのドン引きするスキルを持ってる奴なんて、そうそういないと思っていた。
ましてやこんな一見普通の魔法使いの女がヤバいスキルを持ってるなんて思ってもみなかった。
だが。
世の中にはやっぱいろんな奴がいるんだな。
「アタシSランク魔法使いのメフィ。破壊屋ギルド『フラジール』所属よ。あんたの名前は?」
「俺はデスト。さっきも言ったがDランクの武闘家で、冒険者パーティー『猪突猛進』からほんの少し前に追放されたばっかりの無所属冒険者だ」
「ふーん、デストって名前なんだ。なんか強そうな名前だね」
「よく言われる」
俺たちは、はははっ、と笑い合う。
風が少しでてきた。
メフィの黒いローブが風でなびいている。
「デスト。あんたは冒険者より破壊屋に向いてると思うよ」
「そうか?」
「そうよ、絶対にそう。だってその破壊力だもん」
メフィは断言した。
そして続けて話をする。
「この廃墟の村から東にちょっと行ったところにバルビリオンって街があるの。そこにフラジールはあるから、よかったら来て」
「バルビリオン……」
「そう、バルビリオンよ。そんじゃアタシ、次の破壊エリアに行かなきゃだから」
そう言いながらメフィは魔法の力で空中に浮き、瞬時に遠い空へと飛んで行った。