むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
パーティーメンバーだった奴らは俺を置いて廃墟の村から旅立った。しかも奴らは旅立つ前に俺の装備品やら金品やらを根こそぎ持っていった。そのせいで俺は最低限の服と靴しか身につけていない。
今の俺は、とにかく腹が立って仕方がない。
「くっそがあああああっ!」
廃墟の村に残存している廃屋と化した建物を、片っ端から殴る。
自分でも何言ってるか分からない意味不明な言葉を叫びながら殴る。殴るったら殴る。
建物は俺に殴られた途端、粉々になって滅失していく。
俺は無能なんかじゃない。
この破壊力こそがその証拠だ。
この世界では十八歳になると大人の仲間入りを果たすとともに、神様からスキルを授かる。
教会の神様の像の前で跪いて祈りを捧げると、不思議なことに神様の声が頭の中に響いてくるのだ。それが神様からスキルを授かる仕組みだ。
スキルは戦闘に役立つものから、私生活に役立つもの、または特に何の役にも立たないものまで、様々ある。
2年前に俺はスキル『馬鹿力』を神様からを授かった。
このスキルはどちらかと言うと戦闘向けだろう。
人々はスキルを授かると、だいたいが周りに公表する。
俺も昔に1度だけ公表したことがある。
俺は破壊活動をいったん止め、手の甲を見る。それから俺によって粉々となってしまった建物の残骸を見る。
「こんなの、人には見せらんないって……」
2階建ての建物をたった1回全力で殴っただけで塵みたいに粉砕するほどの破壊力を見たら、間違いなく周りの奴らはドン引きする。
というか実際にこの強すぎる力を使った姿を、かつて住んでいた村の奴らに見せたらドン引きされた。
俺はもう周りの奴らにドン引きされたくない。恐ろしいものを見るような目で見られたくない。この力を使ったせいで「破壊神のスキルを授かった男」と言われ、村からも家族からも追い出されたあの時のようになりたくない。
だから俺はもう公表しないのだ。
そして思う。
たぶんこの『馬鹿力』スキルを俺に授けた神様は馬鹿なんだと。
「もっと壊すか」
破壊活動が気持ちよくなってきたので、引き続き建物を壊すことにした。周りに人がいないから心置きなく破壊できる。
どっかんどっかん爆音を響かせながら、俺は廃墟の村を殴って破壊していく。
俺は不器用だ。
人と付き合っていくのも下手だし、スキルを使うのも下手だ。俺はまだ上手くスキルを使いこなせていない。
ちょうどいい力加減で殴りたいのに、それができない。
ほどよく殴ろうと思って殴ったら、弱くなりすぎる。
思いっきり殴ったら、もちろん強すぎる。
俺のこぶしは弱すぎるか、強すぎるかの両極端なのだ。
ぶっちゃけ俺がパーティーを追放された原因はこれだ。
いつも弱すぎる力でモンスターを殴ってばかりだったから、俺はついに無能の判断を下されて見離されて、パーティーから追放されたのだ。
しかし奴らはわかってないことがある。パーティーがモンスターに襲われてピンチになったとき、アーノルドの攻撃に俺が息を合わせてモンスターを全力で殴り爆散させ窮地を脱していたということを、奴らはわかっていない。
アーノルドの攻撃によってモンスターが爆散したと奴らは思っている。
俺が素直にスキルのことを言えていたら、ピンチのときに俺がモンスターを爆散させていたことを言えていたら、追放なんてことにはならなかったとは思う。だが、かつてのことがトラウマで結局最後まで切り出せなかった。
あいつら、これからの旅で苦労するだろうな。最悪死ぬかもな。
まあ、もうあいつらのことなんか知らんけど。
「はぁ……はあっ……」
俺は肩で息をする。
気がつけば建物を全て破壊し尽くしていた。
周囲はもはや更地だ。
でも破壊したことで気持ちはすっきりとした。
「そこのキミ、なかなかやるじゃん」
突然背後から女の声が聞こえた。
俺は後ろを振り返る。
そこには金髪ショートのつり目で魔法使いっぽい黒いローブを着た女がいて、俺を見てふてぶてしい笑みを浮かべていた。
「おい、見てたのか?」
「しっかりと見てたよ。なかなかの破壊っぷりだったね」
女は答える。
人に見られてしまった。
最悪だ。
しかし俺は破壊しなければ気がおかしくなりそうだった。駄目になりそうだった。破壊したことによってやっと溜め込んでいたストレスを発散できたのだ。
「むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」