パーティー追放
「デスト、お前パーティーから抜けろ」
廃墟の村で遭遇したDランクモンスター、ワンパクパニックトカゲを討伐して装備品を整えていたときだった。
Dランクパーティー『猪突猛進』のリーダー、戦士アーノルドが突然俺に追放を命じてきた。
「は?」
「は? じゃねえんだよ。さっさと抜けろ」
冗談かと思ったがイライラした様子から察するに、どうやら本気らしい。
「なんで俺が抜けなきゃなんねーんだよ」
「なんでだと? お前まさかわかってないのか? 自分がモンスターにまともにダメージも与えられない無能だってことをよお」
「そうよそうよ。身の程を知りなさい。このゴミカス武闘家!」
アーノルドに続いて魔法使いのミルルも俺を罵倒してきた。
「はっはっはっ、ゴミカス武闘家とは、これまた素晴らしい二つ名をもらいましたなあデストくうぅぅん!」
アーノルドが高らかに笑う。
「俺のおかげでこれまで生き残れたのを知らないのか?」
「は? 俺がモンスターにトドメを刺してんのに何言っちゃってんの? お前なんなの? 馬鹿なの? ゴミカスは馬鹿なんでちゅかー?」
アーノルドはあからさまに小馬鹿にして挑発してきた。
さすがに今のアーノルドの態度にはイラッときた。
ぶん殴りそうだ。いや、ぶん殴ろう。
俺はこぶしを力強く握る。
「ちょっとみんな、喧嘩はやめなよ。そんなひどい言葉を使ったらデストくんがかわいそうだよ」
賢者のイリーナだけは俺の味方になってくれて、この場を丸く収めようとしている。
さすが賢者、さすがイリーナだ。
俺が密かに思いを寄せているだけのことはある。
だがアーノルドは止まらない。
「おやおやあ? そのこぶしでどうするのかなあ? 暴力で解決するのかなあ? これだから無能は困るんだよ。このゴミカスめ」
つばを吐き捨てるようにアーノルドが言った。
それを聞いた途端、イリーナがアーノルドを睨みつけた。そして口を開く。
「アーノルドさん、そういう言い方はやめたほうがいいです。こういうときはもっと丁寧に言うべきですよ。『頼みますから私たちのパーティーから消え去ってください』って」
「……え?」
俺は耳を疑った。
まさかだった。
味方だと思っていたイリーナも、俺をパーティーから追放させたい側だった。
さっきの俺をかばおうとした発言は、ただただ俺をかわいそうだと憐れむ心からきた言葉だったようだ。
そのことを知ってしまった途端、俺の心の中になんとも言えない悲しみが広がっていくのを感じた。
俺には、仲間はいないんだ。
「そうだな。イリーナの言うとおりだ。もっと丁寧に言うべきだった。『おゴミカスの武闘家くんは目障りだから、これ以上俺たちの視界に入らないでください』ってな。なあ、デストくん?」
もう無理だった。
俺の中で何かがはじけた。
「アーノルドおおおぉぉおおおお!!!」
全力でアーノルドを殴る。絶対に殴る。
間合いを詰めてアーノルドめがけて勢いよく腕を振る。
俺のこぶしがアーノルドの顔面に近づく。
しかし、アーノルドの眼前でこぶしがピタリと止まった。
俺は殴れなかった。
やはり、殴ったらダメだという理性が無意識的に働いてしまった。
「はっ、殴ることもできないなんてとんだエセ武闘家だな」
アーノルドが呆れたように言う。
「なんちゃって武闘家ね」
ミルルも乗っかって言う。
「デストさん、いままでお世話になりました」
そしてイリーナは嫌味なほど笑顔で俺に別れの言葉を告げた。
こうして俺はパーティーを追放された。