第78話 そして、破局
天より、よっつの火線が降り注いだ。
もはや攻撃を阻止できぬ、と悟った金属生命体群にできたのは、悲鳴を上げることだけ。通信回線に流し込まれた膨大なそれらは実のところ退避させるべき重要な記録であったが、しかし量が多すぎた。データの奔流はたちまちのうちに回線をパンクさせ、敵に対処すべき防衛部隊の動きすら阻害したのである。
自らの中枢たる母星。その内側へと、四つの砲弾がめり込み、そして炸裂した。
強大無比な破壊力がすべてを吹き飛ばし、そして金属生命体群はその意識を喪失させた。
◇
絶叫が上がった。
それは、金属生命体群があげる断末魔。自らの破壊を避けられないと悟った怪物が、被害を低減するために退避させているデータの奔流なのだ。
ささやかな抵抗はしかし、無意味だった。
銀色に輝く鋼の瞳。そこによっつの火線が潜り込んだ。
地表を突き破ったひとつは、地殻を突き抜け、惑星の反対側まで抜ける寸前で蒸発。莫大なエネルギー放射が周囲の物質そのものを砕き、熱量へと変換する。
恐ろしい光景が現出していた。
純粋に物理学的な連鎖反応は、大地を内側から押し上げ、ひび割れさせ、融かし、そして蒸発させる。閃光が吹き上がり、最終的には何千キロメートルもの範囲を消し飛ばしてクレーターを形成することとなろう。吹き飛んだ土砂は何百年、何千年に渡って空を覆い尽くすに違いない。そこまで到達するのに数日はかかろうが、そんなことは問題ではなかった。最初の爆発による強烈な電磁波が、大地を覆い尽くす金属生命体群を死に至らしめていたからである。
それと同様の破壊が、あと三ヶ所。惑星のそこかしこで巻き起こった。
まさしく破局。
世紀の光景を絶好の特等席で見下ろしながら、しかし仮装戦艦。いや、その体を得た遥は、構ってはいなかった。熱処理を開始。本来、放熱器より排出される膨大な熱量は、背中を押し付けた工場跡へ流れ込んでいく。赤熱し、溶融していくそれを意に介さず、四門の砲を別々の方向へと向けた彼女。
砲の基部に次弾が装填され、そして再度の斉射が実行された。
強烈な攻撃の標的となった、次なる犠牲者は二つの衛星。機械化され、やはり金属生命体に覆われたそれらへと、二発ずつのマイクロブラックホールが潜り込んだ。
もちろん、その破壊力に耐えられる者などいようはずもない。超絶的な威力は、星の軌道すら変えた。
これが、仮装戦艦。これが、特異点砲。突撃型も、この脅威に対抗するために生まれたのだ。
完全に溶け崩れる工場跡。二度の砲撃の熱量を押し付けられたそれから身を離した遥は、功労者である主砲身を回転させた。真上に向いた四門の特異点砲。あまりに巨大なそれら。もはや自らの一部分となった破壊兵器を、遥は撫でた。
周囲は阿鼻叫喚の有様である。どう逃げようかと思っていたが、金属生命体群の上げた悲鳴のおかげで敵勢は、その大半が麻痺していた。元々の予定が破綻してしまったから、この状況はありがたい。
動き出そうとして。
――――目が合った。
呆然としていたのであろう。何をするでもなく、こちらを向いていたのは見覚えのある顔だった。顔がバイザーに覆われ、後頭部より複雑な放熱板を髪のように伸ばした小ぶりな頭部。腰に備える、折り畳まれた副腕はまるでスカート。刃の四肢が印象的な、少女だった。
銀色のそいつの名を、泣き女。
かつて、鶫を殺した個体だった。
指揮個体はこの状況でも活動できるはずである。金属生命体群を統括する巨大な意思。その指示を受けられない環境下での判断を受け持つのが彼女ら、指揮個体なのだから。
中でも最も過酷な環境。すなわち亜光速戦闘に特化した、突撃型指揮個体。戦いの最中、彼女らは孤独である。光速の99・98%の世界では、誰を頼ることもできぬのだ。
だから、銀の彼女が呆然自失していたのは、失われたものがあまりに巨大だったせいに違いない。さもなくば、阿呆のように動きを止めるなどありえない。呆然とする突撃型指揮個体などと言うものを、遥は初めて目にしていた。
銀の泣き女へと一瞥をくれると、遥は詭弁ドライヴを活性化させる。巨大なエネルギーの衝突が作り出したアインシュタイン=ローゼン橋を負のエネルギーで拡張。出来上がった抜け穴は、遥が通り抜けると同時に閉じた。
後には、破壊しつくされた世界。そして、銀の泣き女だけが残される。
泣き女は我に帰ると、動き出した。もはや誰に指示されるでもなく、自分自身の意志で。




