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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第三章 秘密の花園
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第60話 再生の車輪

 曙光に照らされた偽りの天地あめつち

 途方もなく巨大な枝葉からなる大地の一角に出来上がっているのは鋼の小山である。よく目を凝らしてみればそれは、幾つもの人が折り重なっているようにも見えた。とはいえとてつもなく巨大だ。人間だとすれば、見上げるような巨人であろう。

 それらはぴくりとも動かぬ。生命を持たぬ事は明白であった。まるで何十年もそこにそうしているかのような光景だったが、その実この地形が出来上がってからまだ、一晩しか経ってはいない。

 今。折り重なった鋼の一角で起きあがる小さき者の姿があった。

重宇宙服。倍力機構を備え、装甲が施され、半永久的機関で稼働し、自己整備を行い、着用者の排泄物を再利用して栄養と水分に変える。贅沢を言わなければ着用したまま寿命が尽きるまで生きることも出来る代物だった。

 宇宙服をまとう者は、這うようにして小山の表面を移動し始めた。


  ◇


 そして、鋼の体を持つ少女は目を覚ました。

『――――私は…………』

 時計を見る。西暦二〇一九年一月八日午後五時。

 全身をサーチ。異常は見受けられない。完璧な体には心地よさすら感じる。まるで分解整備オーバーホールを受けた直後のような安らぎ。そう言えば、前にオーバーホールを受けたのは八十年前だっけ…………

そこで、違和感。オーバーホール?自分がそんなものを受けられる筈はない。種族を捨てたのに。遥とふたりぼっちなのに!!

 混乱のまま、周囲にセンサーを巡らせる鶫。

 彼女はすぐ、自分が極微作業溶液の中に浮かんでいること。周りは壁であること。神経系がロックされ、微動だにできないことを知った。

――――怖い。動けない。何もできない!

 パニックになりかけた鶫を救ったのは、優しい声。

「おはよう、鶫。目が覚めたかい?」

 外部より繋がった回線より流れ込んできたのは聞き覚えのある声である。

 遥だった。

『…………せん……ぱい?』

「よかった。私がわかるなら安心だ。目が覚めなかったら途方に暮れていたところだよ」

姿は見えない。されど、すぐそばにいるのだろうことが伺えた。

『ここは…………それに、私は、どうなって』

「ここは花園の工場だよ。君が雫と相討ちになってから大変だった。八つ裂きとはああいう状況を言うんだな。微細作業工場の工作漕に君の体を放り込んで、溶液に偏在する極微の機械たちに組立て直させた。修復は完璧だと不知火は請け負ってくれたよ。女子高生にはここの設備は荷が重すぎるからね」

『――――待って。不知火って。じゃあ、私を直したのは彼女なんですか!?』

「うん」

 鶫は、ぽかんとした。一体あの状況でどうして、彼女らが己を助けてくれるというのか?

 疑問に対し、遥は事も無げに答えた。

「説得した。いや、彼女に言わせれば脅迫か」

『脅迫って…………』

 鶫は呆れるとともに納得もした。この先輩ならそれくらいやってのけるだろう。だからこそ遥は、鶫の先輩足りうるのだ。

「まぁ詳しい話はおいおい。これから君のロックを外すが、落ち着いてゆっくりと出てきてくれたまえ。それと、不知火は不機嫌だから刺激しないように」

「誰が不機嫌だって?」

 突如割って入る声。不知火が前に使っていたものだろうか。

 鶫は改めてこの小さな先輩に畏敬の念を抱きつつ、動けるようになるのを待った。


  ◇


【花園 戦闘終結直後】


 機械生命体マシンヘッドにとって、死は病気に過ぎない。それも治療可能な。

 だから、再起動した不知火が困惑した理由は生き返ったことそのものではない。それを成し遂げた相手を知ってのことだった。

 まさか、遥が己を修復するとは。

 とはいえ今はまだ、何も出来ない。躯体は大破したままで、コアの損傷も大きい。武装を活性化させることは愚か、体は微動だにしないのだ。遥はいくつかの予備回路を繋ぎなおしてこちらを目覚めさせたのだろう。

 幾つもの疑問を浮かべながら、不知火は相手の出方を待った。

「…………もしもし?聞こえていないのか?おや?

…………これでも駄目か」

 落胆の声。恐らく何度も再起動を試みたのであろう事が推察できる。

 ため息を付いた遥が回路を切断しようとした段階で、不知火は声を上げた。

『…………聞こえている』

 己の意図した通りの不機嫌な声は出せたろうか?また、相手にそう届いたろうか?

 不知火の思案をよそに、遥の声音は喜びに染まった。

「おお。よかった。いやはや、これでまた失敗だったらどうしようかと思っていたところでね」

『御託はいい。用件を言え』

「これは失礼した。単刀直入に言おう。

 助けて欲しい」

 遥の要求に、不知火は言葉を失った。地球人とはいずれもこのような図々しさを持つのだろうか?

『…………意味が分からん。なぜおまえを助けなければならない?』

「君は、どこまで覚えている?」

 聞き返されて考え込む不知火。鶫の上半身が自爆したところまでの記憶はあるが。

『奴が。鶫が自爆したところまでだ。

…………周りが見えんが、この様子だと雫もやられたか』

「鶫も、雫もうんともすんとも言わなかった。君だけだ、再起動できたのは。手持ちの資材は少なくてね。

 だが、君にとってはそうじゃない。この星にはたくさんのロボットや施設がある。極微作業工場もあるんだろう?雫を直すために使った奴が」

『…………確かに私自身も、そしておそらく金属生命体も修理は可能だ。だがそうしてやる義理はない』

「義理はあるさ。断れば、君のスイッチを切る」

『脅迫か』

「そう受け取られても仕方ないが、私としては取引のつもりだ」

『…………どちらにせよ、私をまず直す必要がある。それが叶った後、お前との約束を反故にするかもしれんぞ』

「しないさ。君はとても誠実な女性ひとだ。そもそも約束を破るつもりなら、そんな可能性を口に出したりはしない」

『…………』

「それに考えてみたまえ。私たちがこの星を出て行ったとして、目的を達成する可能性は非常に低い。向かう先は金属生命体群の真っ只中だぞ?楽観的に考えても分の悪い賭けだ。

 もし私の申し出を受けてくれるなら、君たちは助かる。私もこの美しい花園が失われるのは忍びない。私たちが歴史改変に失敗し、君たちが生き残れる確率は客観的に見てもそれほど低くないだろう」

『…………奴が直ったら、すぐさまこの星から出て行け。この疫病神め。そしてさっさと金属生命体群に殺されてしまえ』

「ありがとう。取引成立だな」

『…………その宇宙服の通信回線をこっちに寄越せ』

 遥は、言われたとおりにした。

 不知火は憮然としたまま、近くの作業用ロボットに救援を命じた。

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