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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第三章 秘密の花園
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第49話 盾の乙女

 深々と雪の降り積もる、巨木だけ(・・)でできた世界。あまりにも幻想的な空間を背に、機械生命体マシンヘッドは首を傾げていた。驚くほどに人間くさいその動作。

『あれれ?聞こえなかったのかな? もしもーし?』

 もちろん、彼女に跨がられている鶫にはしっかりと聞こえていた。 その内側にてシミュレーションされている遥にも一拍遅れて翻訳される。

 学術種族の機械言語。十六進数を用いた、発声に適さない人工言語である。

 美しい。いや、可愛らしい機械生命体だった。

 両脇からちょこん、とアンテナを伸ばしている、フルフェイスのヘルメットのような大きめの頭部。女性的なボディラインと相まって、機械と言うより女の子と言った方がよい印象。背中の羽は蝶のそれに似る。

 だが、現状はあまりにも異様だった。金属生命体。それも、突撃型としては最も最初に建造された機種のひとりである鶫を知らない機械生命体などいるはずもない。

 そして、どこかたどたどしい(・・・・・・)その口調。

 鶫は、相手が何らかの異常を患っているのでは?と疑った。

 となると刺激するのは得策ではなかろう。この体勢ならば相手の方が有利だった。抜き手で鶫の胸郭を貫けるのだ。

 鶫の内側、仮想空間内では遥と鶫が顔を見合わせていた。

「…………このは、一体?」

「分かりません。機械生命体にしては随分と挙動がおかしいですが」

「ふむ。だが少なくとも交渉の余地はある、かもしれないな」

「はい」

 時間を稼ぐべく、鶫は通信回線を開いた。フォーマットは相手に合わせる。

『私は、鶫。鴇崎鶫。地球人です』

 対して、可愛らしい機械生命体は、その外観に似合った口調で答えた。

『あー。よかった。金属生命体だったらやっつけろ、って不知火が言ってたの。でも地球人なら、やっつけなくていいよね』

『あ、あははは…………』

 思わず乾いた笑いの出る鶫。答え方を一歩誤っていたら死んでいたかもしれぬ。

『ところであなたは?』

『あ、私はね、シズクって言うの。不知火と一緒に暮らしてるんだ』

『不知火…………先ほど、お会いしました』

『あ。会ったんだー。ここ何日か見当たらないから心配してたの。どうだった?』

『た、大変にお元気でした…………』

 そう答えるしかない鶫である。

『ところで、私はいつまでこの格好でいればいいんでしょう?』

『えっとねー。不知火が来るまでー。そしたら鶫をどうするか決めてもらうの』

 まずい。大変に不味い。先程の反応を見る限り、あの不知火級は問答無用で鶫を始末しようとするに違いない。

『あ。不知火だー。やっほー!』

 上方へ向けて手を振る滴。それにぎょっとして、鶫は視線を向けた。

 間の悪いことにゆっくりと――――といっても音速の三十倍以上は出ているが――――降下してきたのは、三本の尾を持つ白い機械生命体だった。不知火級である。

 自己回復したのであろう円環を備える彼女は、仮面に覆われた頭部をこちらへ向けた。

 にじみ出るのは明確な殺意。だから遥は、傍らの鶫。その化身アヴァターに尋ねた。

「――――鶫。外の環境は?人間が生存可能か?」

「は、はい。零下三十度ですがそれ以外は特には。気圧、酸素濃度も適切ですし、即死はしないでしょうけど。先輩、どうする気ですか」

「私を外に出せ。奴から見える位置に」

「盾になる気ですか!?」

「このままではどのみちやられる。やれ、時間がない!」

 鶫の胸郭。その内部で、元素転換が始まった。


  ◇


 指揮個体を追って大気圏へ突入した不知火は、よく知る声の方に顔を向けた。

『雫?――――そいつは!』

 そこには先ほどの金属生命体をがっちりと捕縛している相棒の姿が。ありがたい。先ほど取り逃がしたときはどうしようかと思ったものだが!

『不知火?』

『そのまま押さえてろ!』

 無慣性状態にシフト。物質透過を平行して作動させ、そして尾を振りかぶる。

 奴の体内から微量の中性微子ニュートリノが検出されるがもう、遅い。

 小惑星を粉砕しうる破壊力が、金属生命体へと襲いかかる。

――――その、刹那。

 一撃が止まった。せり上がってきた物体によって止められたのである。そう、不知火がせざるを得ないだけの威力を、物体(・・)は備えていたから。

 敵の胸郭上にせり上がってきた、ちっぽけな生命体。その眼前で、尾は静止していた。

――――なんだ?こいつは一体!?

 見たこともない、しかし明らかな有機生命体であるそいつは四肢を持ち、頭部を備え、曲線的な姿はおぞましいほどに突撃型指揮個体と、似ていた。じっとこちらに向いているレンズ構造はビーム兵器などではなく、光学的感覚器であろうが。

――――金属生命体以外のいかなる種族に対しても、先制攻撃は許されない。

 それは機械生命体に刷り込まれた強烈な本能とも言える行動規範。破ることは不可能ではないが、それには主人たる種族の命令が必要とされる。さもなくば途轍もない精神的苦痛が伴うのだ。

 だから、不知火の手が緩んだのはやむを得まい。

 とまどう機械生命体に向けて、有機生命体は口を開いた。

「私の名は角田遥。太陽系第三惑星、地球発祥の恒星間種族(・・・・・)。人類だ。私たちに対する攻撃の即時停止を要求する!」

 知らない言葉。されどそいつの耳元に当てられた板状の機械(スマートフォン)に拾われ金属生命体を経由したそれには、いくつもの言語の翻訳が付属している。

 そいつの肉体をスキャンした不知火は、相手が高等な知的生命体であることを悟った。

 故に、彼女は吼える。

『私たち(・・)だと!?お前の背後にいるのは金属生命体だろうが!?』

 対する人類(・・)は不敵に微笑んだ。その表情の意味は推察するしかなかった不知火であるが、相手が物怖じしては居ないであろう事は分かる。どころかこの状況を楽しんでいるのではないか、という錯覚すら覚えていた。

「ああ。そうだとも。だが彼女の帰属するところは金属生命体群ではない。我々地球人類である。だから私は貴女に要求する。不当な攻撃を即時停止すること。ああそれと」

 何を言い出すか、と身構えた不知火の前で、人類(・・)は謎の動作を一つ。

 はくしょん!という。

「…………このままでは私が凍え死んでしまう。すまないが暖かい場所に移動させてはもらえまいか」

 ぶるぶる、と筋繊維まで用いて発熱しながら、人類は告げた。

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