第4話 宇宙の迷子
鴇崎鶫は宇宙の孤児である。母星は今のところない。
十年ほど前、地球へと漂着した彼女はほとんどの記憶を失っていた。ただ一つ確かなこと。それは己がかつて宇宙を駆けめぐっていたという事実。それが可能なだけの能力を、彼女の肉体は備えていたのである。だから、自分の起源が少なくとも地球由来ではない、という事だけははっきりしていた。今のこの星のテクノロジーでは鶫を生み出すことは出来ない。のみならず、鶫のような生命体が自然進化の先に生まれたという証拠もなかった。消去法として、自らは地球外由来であると確信するに至ったのである。
自分が生物にしろ、機械にしろ、ここにいる以上は仲間がいるはずだった。これほど複雑で高度なものがいきなり沸いて出るはずもないから。もちろん、それは鶫が種族の最後の一人である可能性を否定するものではないが。
とはいえ彼女は途方に暮れた。仲間を捜すという選択肢が提示されたわけだが、控えめにいっても困難極まるからである。宇宙は広い。あてどなく探すのは退屈だろうし時間もかかる。
そこで彼女は考えついた。人に手伝ってもらえばよいではないか。
幸い、地球には先住民がいた。彼らは熱心に天体を観測し、科学的知見を積み重ねている。
彼らの文明を育成してみよう。
何百年かかかりそうだったが問題ない。ひとりで黙々と観測機器を作りながら仲間を捜すのだって似たようなものである。
決まれば後は早かった。巨体では人間に紛れられぬから、人間そっくりのサイバネティクス連結体を作った。かなりの自己判断能力を持つ傑作である。
潜り込む先は日本とした。書類の偽造が簡単だったからである。そして住居と選んだのは、古くから海外へと開かれた都市、神戸。
そうして人脈作りと社会勉強のため、潜り込んだ高校――――人間を介する転入手続きが一番の難関だった――――で。
鶫は再会したのだった。初めて言葉を交わした人間、遥と。