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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第二章 女子高生ともふもふ毛玉
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第34話 見果てぬ夢

 はくちょう座W星。人類がそう呼ぶ赤色巨星を見下ろしながら、金属生命体群の指揮官は考える。

 敵は手強い。されどこちらも戦力の補充はできぬ。金属生命体群は多方面に手を広げすぎているからだった。手元にある戦力。四万近い三十五メートル級指揮個体と、二千あまりにまで減った艦艇級金属生命体で何とかするしかない。文明を持つ恒星系同士の平均距離は八百光年に及び、銀河全体での数は一万三千に達すると言われている(実際は中心域の方が密度は高く、このあたりまで来るとまばらだが)。そのすべてを破壊し尽くそうというのだ。いや。それだけでは終わらない。

 銀河を征服し終えれば、次は隣の銀河。そこも滅ぼせば。外に。さらに外へと。

 それは、見果てぬ夢だった。彼女ら金属生命体群という種族、全体が見る夢。恐怖と無縁の世界。

 やがて。敵配置について、確度の高い推計データが求まったことを確認すると、指揮官は配下の全軍へ命令を下した。

 赤色巨星への降下を。

 決戦の時だ。


  ◇


「…………許可出たよ」

「なんでなんだ」

「まぁいいんじゃないの」

 それぞれちびすけ、のっぽ、まん丸の言葉である。

 彼らの、人類への面会希望はあっさりと通った。もちろん厳重な管理下で、であるが。これが教授による計らいであることを彼らは知らない。「許可しなかったらまたろくでもないことをやらかすに違いない」との見通しであるし、実際そうだった。全部ばれている。

 三人が訪れた展望室。開いた扉の向こうで、人類が待っていた。

「やあ。君たちか」

 彼女の隣には碧の奇妙な服装をした人物。とはいえこれは人類ではないことを子供たちは知っていた。指揮個体に従属している下位個体であるそいつは、人類の言葉を流暢に翻訳してのける。

「ようこそ。たいしたもてなしは出来ないがね」

 随分と男らしい口調に、三人ともこれは雄に違いない、と思った。


  ◇


 部屋の中は殺風景だった。対照的なのは外の光景。防御磁場で退けられたプラズマの嵐が荒れ狂う様子はどこまでも美しかった。

「それで、何の用かな。話せる事はみんな、話したと思ったんだが」

 パック飲料を飲みながら、遥は来客を見回した。

 まん丸のもふもふ。のっぽ。ちびすけ。

 緊張した彼らは互いに脇を(脇?)肘で小突きあっている。誰が切り出すか押しつけ合っているのだろう。

 その様子に微笑む遥。

 やがて意を決したか、ちびすけが口を開いた。

「…………あの…………そ、そいつ、金属生命体の下位個体ですよね?怖くないんですか?」

 そいつ。と呼ばれた鶫は、そのニュアンスも含めて正確に日本語へと翻訳した。

 言われた遥は傍らの後輩を見て苦笑。なるほど。彼らからすれば私は怪物と談笑しているように見えるのか。

「君たちは下位個体と呼んでいるのか。私はここにいるのは細々とした用事に用いるロボットのようなものと認識していたが」

「…………金属生命体群は道具を作りませんから…………だから、それ自体も金属生命体のはずなんです」

「なるほどな。そうなのか、鶫?」

「そうですね。これを初めて作ったときは道具という認識でした。何しろ当時の私は記憶喪失で、人類から借用した概念しか持ち合わせてませんでしたから」

 鶫は、日本語ともふもふの言葉。双方を同時に話す。

「――――と、いうことらしいな。

はじめの質問に戻るが、この娘は怖くない」

「…………それはどうして?」

「私のために命を懸けて戦ってくれた。それで十分な理由じゃないかね」

「…………そうなんだ」

「君たちがこの娘を恐れる理由は知っている。故郷を焼き滅ぼされたと聞いた」

「…………はい」

 一拍の間。

「――――ありがとう」

 唐突に頭を下げる遥。その様子に、子供たちは慌てた。

「…………な、なにを」

「君たちが理性的に行動してくれたことを。鶫を。私の友達を殺すことも、できたろう。そうしたいと思ったろう。けれどそうしなかった。私と、彼女の間を引き裂くこともしなかった。

 だから、ありがとう。君たちもふもふ族に感謝する」

 顔を見合わせるのっぽ。ちびすけ。まん丸。

「…………それが、人類が礼をするときの動作なんですね」

「ああ。こういうときは頭を下げるのさ」

「…………名前を、教えてください」

「遥。北城大学付属高等学校二年生。天文学部部長の角田遥だ」

 それは、鶫によって意訳して伝えられた。やたらと長いこともふもふ語で話す鶫に、遥は疑問を呈する。

「そういえば、どういうふうに訳した?」

「語句ごとの意味に分解して文章化しました」

 ちなみに内容は、「軍事施設の北方に設置されし高位の学術機関に付属する、下部組織の天文学部門の長であるところ、角の田園の家門、個体名遥」といった案配である。長い。が、もふもふ語と人類の言語では音域からして違うから意訳せざるを得なかった。

対するもふもふ側も同様に感じたようである。

「長い」「長いな…………」「長すぎる」

 その様子に遥は苦笑。一言付け加えた。

「長ければ、"遥"でいい」

 一挙に短くなった名前に、今度はもふもふ側も納得。

「さ。今度は君たちの名前を教えてくれ」

 遥の問い。それに、のっぽ。真ん丸。ちび助。三者三様に答え、そして、改めて会話が開始された。


  ◇


 時代とともに戦術は変化する。

 だから、旧式の個体。一万二千年近く前に建造されたような個体は、現在運用されている若者とは武装のレイアウトが異なりもする。

 今。任務を帯び、敵陣目指して降下を続けている突撃型指揮個体もその類だった。刃の四肢を備え、頭部に主砲二門を搭載し、後頭部から髪のような放熱板を生やした少女的シルエットの躯体。鶫と同型の彼女は、しかし鶫とは似ても似つかぬ冷徹な精神で周囲の光景を見ていた。

 高速で行き過ぎていく、プラズマの海を。

 赤色巨星の内部は一様ではない。ある種の流れによって、それは見るたびに姿を変えるのだった。されど、彼女にはそんな光景に感銘を受ける感性が備わってはいなかった。あるのは、使命感。そして、恐怖。

 率いている部下たちは大勢死ぬであろう。自分自身もその中に加わるかもしれぬ。そうなればもはや建造されていない型である私の個性パーソナリティは、まだ残存している姉妹機へと分配されることとなろう。それによって、また、この宇宙には私たちの脅威となるものが多数存在していることが立証されるに違いない。他者とは敵だ。だから、他者などいらぬ。我が種族だけがこの宇宙に存在していればいい。

 それは、彼女たちの種族に蔓延する硬直した思考そのものだった。自らの座っている椅子を持ち上げることができないように、彼女らにはその論理のおかしさを検証することができぬ。思考の基盤が恐怖だからである。

 やがて。目標となる座標が近づいたところで、彼女と部下たちは中性微子反応を検知した。質量をエネルギーに転換する際に発生する、微細な断末魔。

 この先に敵がいることを確信した突撃型指揮個体は、攻撃命令を下した。


  ◇


 展望室内。

 会話――――というよりは子供たちの質問攻めにあっていた遥、という形の対話は唐突に終わりを告げた。何故ならば、警報が鳴り響いたからである。

 敵襲を伝える報だった。

「なんだ!?」

「空襲警報です。先輩。ここは危険です。避難してください」

「――――何?だが、避難と言っても、私は」

 鶫の言葉に、遥は言い淀んだ。自らは虜囚の身ではないのか。この展望室が危険な事は理解できるが、移動の自由などないはずでは。

「いいえ、先輩。彼らは人道的な種族です。先輩を連れて都市の奥。シェルターへ避難するよう、今、この子たちに指示が出されました」

 鶫が見ていたのは、端末で通信しているらしきもふもふの子供たちだった。確かに彼らは、通信を終えると遥へと手を差しだし、ついてくるように言っている。

 状況を理解した遥は、だから後輩へと行動を促した。

「何。そうか。よし、鶫。行こう」

「いえ。避難できるのは先輩だけです」

「なんだと?」

「せんぱい。ここにいる私は遠隔操作しているだけのロボットです。本体は別の場所にいますし、先輩より遥かに頑丈です。だから、大丈夫。行ってください」

「…………分かった。また、後で」

「はい。またあとでお会いしましょう」

 遥は時間を無駄にしなかった。踵を返すと、子供たちと共に展望室の外へと出たのである。

 部屋の扉が閉まる一瞬。彼女は振り返り、そして後輩の姿を目に焼き付けた。恒星のプラズマを背にした、狩衣姿のとても美しい、少女の姿を。

 扉が二人の間の空間を隔てる。それは視線をも隔て、遥より後輩の姿を奪った。

「急いでください!」

 のっぽの声。もはや翻訳してくれる鶫がいない今、彼の言葉は端末を通じて日本語へと変換されていた。

 促された遥は、速やかに子供たちに従い、この場を後にする。

 展望室が消滅したのはそれからしばし経ってからの事だった。

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