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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第二章 女子高生ともふもふ毛玉
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第32話 悪魔とひとともふもふと

【はくちょう座W星】


 赤色巨星での戦いは、逃げ隠れするもふもふたちを金属生命体群が捜索する、という体となった。

 恒星内部では高エネルギーの電離気体が充満しており、内部では亜光速機動が不可能である。代わりに、星が放射する膨大な各種放射線。中性微子にいたるまでの放射がセンサーを阻害し、もふもふたちの姿を深く覆い隠した。

 対する金属生命体群は、恒星外から。真空の宇宙空間を飛び回り、索敵網を形成。敵勢の捜索に乗り出したが発見は困難を極めた。時折恒星から放熱のために艦艇が顔を出すものの、攻撃を仕掛ける以前に逃げるのである。どころか、広く散った金属生命体群側に攻撃が加えられ、被害すら出た。

 これは戦史に詳しいものから見れば、むしろ古典的な部類である。惑星上における、航空機や水上艦艇と、潜水艦との闘い。それらに酷似していた。


  ◇


「これから、どうなるのかな…………」

 遥は、不安そうにつぶやいた。

 彼女らがいる都市の展望室。そこは実のところ、保守優先順位の極めて低い場所である。重要な設備ほど内側にあるから、外側に位置するこの部屋は防御も薄かった。そこに遥が軟禁されているのは事実上の厄介払いである。生活に不自由はないとはいえ。

 食生活も劇的に改善された。遥が今食べているのはステーキやシチュー。ライス。ポテトサラダ。それらの宇宙食である。鶫がもふもふたちに提供した、地球の生命・文化についての詳細に至るまでの様々な情報が生かされた形だった。

「彼らは、大々的に放熱を行いました。これは、近いうちに戦闘が予想されるからではないかと」

 鶫は、遥の問いに答えた。可能な限り安心させるべく。

「戦闘?」

「はい。私の姉妹たちは、私を追ってくるはずです。超光速機関の駆動は痕跡を残します。それをたどり、私を殺しに来るでしょう。今度は万全の戦力を整えて。

 ここのひとびとは、それと戦うつもりのはずです」

「…………そうか」

「大丈夫。きっと、ここのひとたちは勝ちます。彼らの機械生命体マシンヘツドは強力です。羊のもふもふした毛、見たでしょう?」

 言われて遥は、羊たちの姿を思い浮かべた。ロボットだというのにやたらともふもふしていたのが印象に残っている。

「ああ。見たが…………?」

「あれ、表面積を増やす工夫なんです。よほど適切な入射角でないと、攻撃が通らないんですよ。おまけに優れた放熱器でもある。昔は随分手こずらされました」

 遥はくすり、と笑い、鶫もそれにつられて笑みを浮かべた。

「凄いひとたちなんだな、彼らは」

「ええ。黎明種族――――彼ら自身はもふもふ族と名乗っていますが、彼らは非常に有力な恒星間種族です。――――でした」

「…………でした?」

「五百年も前に絶滅したはずだったんです。まさかこんなところで生き延びているだなんて」

「そうか…………」

「生き延びていてくれて、嬉しかったです。歓迎されないのは分かってましたが」

「…………鶫は、長い間生きてきたんだな」

「はい。一万一千と五百十五年。四捨五入したら一万二千歳です。すごいおばあちゃん」

 冗談っぽく眉をひそめる鶫に、遥は笑う。

「随分と年上の後輩もいたものだ」

「あら。高校は、幾つになっても入っていいんですよ?勉強したくなれば」

「そうか。そうだな…………」

「そう。いつ勉強を初めてもいいんです。でも、私はそのことに気がつくのが遅すぎた…………」

「…………鶫。戦いを止める方法は。君の姉妹を止める方法はないのか?この争いを止められないのか?」

「…………不可能です。金属生命体群は、すべてを均質化します。私一人が訴えても、それはごく希薄に希釈されて全体へ伝わるだけで、方針を変える力なんてないんです」

「…………そうか」

「はい。それに私たちは血を流しすぎました。もう、誰も許してはくれないでしょう。立ち止まる方法はないんです」

「…………すまない。無理を言った」

「いえ。」

 遥は後輩の肩に身を寄せ、やがて眠りについた。鶫はいつまでも、それを見守っていた。


  ◇


「不思議な光景ですな」

「ああ。悪魔と心を通わせている」

 展望室の様子を確認していた教授と、市長の会話である。

 突撃型指揮個体――――鶫――――の解体を求める声も大きかったが、敵対的ではない金属生命体の貴重さを鑑みたのだった。

 実際、利益はあった。彼らが遥より得ようとしたすべて。いや、それ以上の重要な情報を鶫は提供したのだから。

 最新の金属生命体群の共有情報を含むすべてを。

 とはいえ戦いはすでに始まっている。彼女らによけいな情報を与えるべきではないし、自由にするつもりもなかった。

 おそらく彼女ら。鶫だけでなく、遥も貴重なサンプルとしての一生を送ることとなろう。

「これの管理は万全かね」

『問題ありません。身動き一つすることはないでしょう』

 機械知性の答えに市長は頷いた。用心はしてし過ぎることはない。

「さて。そろそろ会議だ。後は任せる」

「はい」

 市長は会話を打ち切り。回線を切り替えた。

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