第31話 熾烈なる歓迎
【はくちょう座W星】
宇宙で戦いを仕掛ける方法は、星の数ほどある。文字通りの意味で。天体ごとに特徴があり、星系ごとに異なる条件がある。故にあらゆる場面で通用する定石は存在しないともいえた。
地球から五百光年先。はくちょう座W星と人類が呼びならわしている赤色巨星は、そのほとんどがごく希薄なガス(地球の大気と比較しても)であり、故に二五〇〇度の高温もエネルギー密度の観点で行けば少ない。
赤色巨星の質量は中心に集中している。だから拡大しているその構造の大半では重力がそこまで幅を利かせていない。とはいえこの星の内部で公転軌道を取ろうとすれば、恒星のガスとの摩擦で運動エネルギーを失ってしまうわけだが。かつての惑星も、そうやって徐々に軌道を落下させ、中心核へと落ちたはずである。
そこまでの事実は、訪れた少勢の金属生命体群にも把握できていた。彼女らにとっての目的地がここであることも。本隊のために天文観測情報を取得するのが彼女らの任務である。そのために彼女らは、ワームホールを展開してここへと跳躍したのだから。
恒星内部には誰もおるまい。とても居住に適した場所ではないからである。何者かが身をひそめるとすれば、小惑星帯か。惑星か。それらを調べるには本隊の到着が必要だろう。星系はたったひとつでもあまりに広すぎる。
必要な天文情報を得て、後方へと送信し終えた彼女らは待った。本隊の到着を。
ややあって、本体が出現した直後。彼女らの予測は裏切られた。
攻撃は、恒星内部から来たのだ。
◇
宇宙に、無数の花火が上がった。
事実上無にも等しい微細な点。マイクロブラックホール化させられた質量が一時的に無慣性状態とされ、亜光速で投射された弾体である。それは設定どおりに敵陣の中央で質量を取り戻し、そしてエネルギーを急激に発散。蒸発した。
致命的な破壊力が、金属生命体群の中央に炸裂する。
完全な奇襲だった。突如として恒星表面から浮上した艦隊による超長距離射撃。
恒星内部の質量分布を変えたのは彼らである。近隣も含めた星系の重力分布を知っている彼らはだから、金属生命体群が慣性系同調航法で出現するであろう位置も知ることができた。そこに艦隊を伏せ、出現と同時に攻撃を開始したのだ。ワームホールによる移動は不安定であり、大規模な艦隊行動での運用を金属生命体群は嫌う、ということをもふもふたちは知っていたのだった。
待ち伏せである。
それですら、もふもふたちに戦況は不利だった。数で圧倒的に差がついていたから。
敵戦力の多くを削り取った彼らは、ひとまずの戦果に満足し、撤退していった。
炎の海の内部へと。




