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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第二章 女子高生ともふもふ毛玉
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第23話 二人の孤独

「――――疲れた」

 部屋に戻された遥の、最初の一言がそれだった。

 結局、食事はつつがなく終わった。終始言葉は通じなかったものの、相手にこちらが文明人であるということは伝わった。と思う。…………伝わっていればよいのだが。

 あと。布が手にはいった。

 巨大な一枚布である。古代ギリシャの着衣を参考に体に巻き付け、ひとまず服とすることには成功した。本来ならブローチで肩は固定するのだがそこはアレンジである。

「…………大昔のスペース・オペラみたくなってきたな」

 遥の呟き。

 髪をアップにし、ギリシャ風の服装をしていると本当にそう思えてくる。

 部屋の中を見渡す。

 閉じこめられていたときと同じ部屋。されど、出かける前にはなかったものが幾つかある。

 壁面のモニター。隅に置かれた据え付けの掃除機のようなもの(おそらく無重量環境下用のトイレであろう)。絵本形式の辞書。壁に固定された寝袋。

 そして、外が見える窓。

 見えるのは碧の金属塊。遥はあのもふもふ毛玉に、金属塊のところへ行きたいと要望したが、どうも意味が通じていなかったか。

 とはいえ明らかに待遇は向上している。

「――――鶫」

 外をしばし眺めた遥は、やがて寝袋に潜り込み、眠りに就いた。


  ◇


「まさか辞書や食料よりも一枚の布の方が喜ばれるとは予想外でしたな」

「まぁこれで謎が一つ解けたわけだ。彼女にとってはあれが、甲殻や体毛の代わりなのだろう」

 "マッド・ティー・パーティー"を終えた後。

 念のためと言うことで厳重な検疫を受けた市長は、そのまま狭いミーティングルームへ連行(・・)され、スタッフや教授らと反省会をする事となった。

 彼らが話題としているのは"彼女"が要求した品物。すなわち一枚の白い布についてである。

 彼女が市長へ伝えようとする身振り手振りは大変熱意がこもっており、やがてもふもふ側はそれが布を指しているのだという事を悟ったのだった。

 布を受け取った彼女の反応は劇的なものだった。たちまちのうちにそれを折り曲げ、脇から下を挟むように巻き付け、両肩の部分を結び付けた上に右脇の開いた部分も結んで固定したのだった。

日常では服を着ないもふもふたちにもそれが何か分かった。

 耐環境服。

 もふもふたちがそれを必要としない環境下でも、彼女らの種族はそれを常用していたのだ。まあ気持ちは分からなくもなかった。自分たちだってもふもふの毛皮(や甲殻)が剥されたら不安どころではなかろう。

「あの折り方。結び方も貴重なデータになります。大変興味深い」

 教授などは感激している。この昆虫型の種族が身に着けているのは白衣。ある種の作業衣だから、やはり普段は服を着るという習慣がない。

「彼女は協力的だ。後は、データを蓄積していけばコミュニケーションを取れるだろう」

「ええ」

 そうなれば、もふもふたちが欲している情報も得られるはずだった。金属生命体群が闊歩する危険な宇宙においては、よその地域の情報は貴重である。格納庫をひとつ丸ごと使っているのも、それを欲しているがためだった。

 金属塊への情報的・電子的侵入は一時中断している。持ち主と交渉の目途が立ったのだから相手の機嫌を損ねるのもどうか、という判断であった。

 彼らが検討し、在り得ないと否定していた幾つかの事実がある。

遥が、恒星間種族ではないということ。知的生命体ではあるが、今だ自力で星の海に漕ぎ出す水準に至っていない種族の、最後の生き残りであるという事も。

 そしてもうひとつ。

 金属塊。遥が乗っていた兵器が、実際は種族を裏切り、仲間と同士討ちした金属生命体である、などという事も、もふもふたちの想像の埒外だった。


  ◇


――――ああ。ずっとこうしていたい。

 鶫は、そんなことを思った。

 瀕死の重傷を負い、意識が混濁した彼女。敵の自爆から辛うじて逃れ、展開したワームホールからこの星系へと跳躍した鶫。残された力を振り絞って、大切なひとを。遥を再構築した彼女は、まどろみの中にいた。

 酷い有様だった。

 頭部も、四肢も失った。全身のほとんどが溶融し、機能しているのはごくわずかな領域だけ。コアに致命傷がないのだけはありがたい。まだ修復可能な範囲内だった。

 色々な事がありすぎた。遥にとってこの数時間が激動だったように、鶫にとってもこの数時間は人生がまさしく一変する時間だった。

自分が、化け物だったなんて。

 過去に幾多の種族を。多くのひとびとを殺してきた、この体。刃の四肢。転換装甲で構築された強靭無比なる不死の体。一撃で大陸すら砕く副腕。二門の砲を搭載した頭部。

 どれもが疎ましい。

 だが、化け物の体と、そして膨大な戦闘経験。この二つがなければ戦えない。遥を守ることができない。

 大切なものを守るための力が、鶫を苦しめるのだ。

 何も知らなかった頃に戻りたいとは思わない。ただの金属生命の一体として、宇宙を駆け巡り、大地を這う生命を冷酷に滅ぼしていたころには。

 己の罪深さに恐れおののきながら、鶫は再び深い眠りに就いた。


  ◇



十三日目。  記録者:角田遥

 

 もふもふたちとの交渉によって紙とペンを入手できたため、これまでの出来事を記録しておきたいと思う。

 まずは自己紹介。

私 の名は角田遥。西暦二〇〇〇年二月十八日生まれの十七歳。この春、北城大付属高校二年生となったばかりの天文学部部長である(と言っても部員は私を含めて二人しかいないが)

 私が置かれているこの奇怪な状況の始まりがいつか、ということに答えを出すことは難しい。しかしあえて言うならば、天文学部の部室の扉を、親愛なる後輩。鴇崎鶫が叩いたとき、全ては動き出したのだろうと思う。

 事の起こりは五月三日深夜。泊まり込んだ後輩の家から始まった一連の異変は、私の世界観を破壊し尽くすのに十分すぎる出来事だった。何しろ警官(の姿をした怪物)に襲われ、後輩は超人的な能力を発揮し(私を抱えて何十メートルもジャンプしたのだ!!)、休息をとった牛丼屋では巨大ロボット(そうとしか言いようがない!!)同士の戦闘に巻き込まれた。見えた範囲だけでも三宮一帯は絶望的だろう。

 だが真に驚愕すべき体験はその後だった。鶫によって連れられた先。巨大ロボットの一体に乗せられ、気が付いたときにはもう、この場所にいたのだから。

 そう。

 彼らの住まう、この宇宙居留区に。

 彼らもふもふ族について判明している事実を記していきたい。身長一メートル半。体重はちょっとわからない。茶色の毛で覆われ、全体としてはもふもふである。四肢を持つが人類と比較してひょろ長い。肘、膝、手首、足首を持ち、手は六指なのに対して足は四指である。関節構造は少々分かりづらい。

 首は存在しているが、頭部は半ば胴体に埋没している。口、1対の目がある。眼球は黒。くるりとしてかわいらしい印象を受ける。

面白い特徴として、体を大きく膨らませたり逆に収縮させることができる。私が確認した範囲では二倍から半分まで伸縮自在のようだった。無重力環境によく適応し、膨らませた体から空気を吐き出して進むことができる。

 彼らは毛皮があるためか衣類を身に着ける習慣がないらしい。代わりに様々な装飾品を身に着け、またもふもふの毛皮を維持することにとても熱心である。どうやらよりもふもふな方が立派と見なされるようだ。

 知能は驚くほどに高い。彼らの工業製品からそれは明らかだが、言葉を交わした結果もそれを裏付けている。

 例えば、原子物理学。私は好奇心から彼らの核融合技術について質問し、明確な答えが返ってきた。安定的な核融合炉の触媒について貴重な知見を得る事ができたのだ。ミューオンが核融合の触媒となる事は人類の間でも知られていたが、どうやら似た働きをする別の素粒子を用いるのがよい結果を生むらしい。原子番号や周期表についての概念も彼らは知っている。分類方法については我々と似たやり方をしているようだ。もちろん表記は異なるようだが。電子配列の古典的モデルが通じた以上、彼らの科学史は人類と似た経路をたどったらしい。科学はまさしく宇宙共通言語だ。

 それらのやりとりを仲介してくれたのは彼らの知性機械。非常に優秀で、私について急速に学習し、言葉を翻訳してくれている。私は彼についてはひとまず、一個人として接することとした。彼がいわゆる自我と呼べるものを持っているのではないか?と疑っているためだ。まさか意志を持っているかもしれない機械と接することになるとは!私は今まで出会った十四名のもふもふたちすべてにニックネーム(アインシュタイン、ベーテ、ガモフ、…………)を付けているが、彼にも栄誉ある十五番目の名を与える事とした。パウリ。完璧主義者だったというヴォルフガング・パウリから頂戴した。

私がこの場所にたどり着いて以降、いまだにこの格納庫の外には出られていない。生物汚染などの危険を考えれば、まったく異種の知的生命体をうろつかせるなど危険極まりない行為であろう。この点でも彼らは賢明と言える。

 あと、彼らの技術力について。

 どうやら彼らはある種の物質合成技術を備えているらしい。3Dプリンタのはるかに進歩した機械というべきか。それを利用して、私の食料を作ってくれている。おかげで餓えることはない。実を言うと味は少々不満があるのだが、それも徐々に小さくなっている。改良されているようだ。

 また、こまごまとした品物も供給してくれている。

 そして最も驚異的なのが、羊の形状をしたロボットである。

どうやら自発的に行動しているらしい彼らは言葉こそ発さないものの(おそらく先のパウリに匹敵する)高い知能を持ち、そして何より驚くべきことに遊ぶ。仲間同士でじゃれ合ったり、毛づくろいをしたりするのだ。どう見てもあれは生物である。だが、私は彼らが機械であることを知っている。限りなく生命体に近いルーチンで動く機械生命体とでもいうべき存在なのかもしれない。恐らくもふもふ族たちの労働力としての役割を担っているのだろう。

 彼らについては分からないことだらけであるが、少なくとも悪意を持たぬことは明白である。とはいえ、不安要素もある。この滞在が一時的なものではなく、長期にわたるであろう可能性は極めて高い。となれば、彼らの態度はいつまでも今まで通りであろうか。

 また、私自身の体調の問題もある。無重量環境に長期間いることで、既にかなり体力が落ちている印象があった。早急に解決する必要がある。無重力では人間の骨格からカルシュウムが流出し、また筋力も負荷の低減から衰えていく。

 わたしに残された時間はどの程度あるのか。

 ああ。鶫。我が親愛なる後輩よ。

 早く、私を安心させてくれ。

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