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銀河縦断ふたりぼっち  作者: クファンジャル_hir_CF
第二章 女子高生ともふもふ毛玉
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第22話 マッド・ティー・パーティ

「――――ほぉ」

 あたりを観察した遥は、感嘆のため息をついた。

そこは先ほどの格納庫の中である。どうやら、自分が閉じ込められていた部屋はここに後から設置されたもののようだ。傍らに目をやると、そこには金属のフレームらしきもので固定された巨大な物体。

――――鶫。

 碧の金属塊。大切な後輩が、そこにはいた。

 視線を戻す。

 今歩いている敷物はどうやら床に吸着しているらしい。どころか、こちらの足をも柔らかく受け止め、そして離れないよう吸着してくれる。無重力だから、歩くのには必須の工夫であろう。

 そして、両脇に立っているのは白い毛に覆われた、見上げるように巨大ないきものたち。

 ビルディングにも匹敵するそいつらは、先ほど遥を一飲みとした羊の同類に違いあるまい。彼らは驚くほど整然と、両脇に並んでいるように見えた。

「…………儀仗兵」

 遥にも、あれがどういう意図で配置されていたか想像はついた。賓客を遇する儀礼に違いあるまい。同時に、実力を誇示もしているわけだが。いまだに自分が置かれている状況は分からぬが、少なくとも相手はこちらに理解できる文化形態を持っているように見える。素晴らしい。相手は自分とまともに話をする気があるのだ。

テーブルを挟んで座った相手に倣い、用意されたこれまた敷物(座布団に似ている)へ腰掛ける。

「Oh…………」

――――ハリウッドよ、独創性がないとか言ってもうしわけない。私が浅はかだった。独創性を欠いていたのは宇宙のほうだ。

 思わず天を仰ぎそうになった遥。彼女の眼前にいた生物は、四肢を備え、二つの目を持ち、頭部があった。大ざっぱに言えば人型だと言ってもよかろう。

 されど。

 頭はほぼ胴体に埋まり、体は全体として球形で、四肢は細く貧弱である。全身がもふもふした茶色い体毛に覆われており。一言で言い表せばそれは、身長1メートル半の毛玉だった。

彼(彼女かもしれないが)は衣を身に着けてはおらぬ。必要ないのだろう。あのもふもふな毛皮があれば。

 代わりに彼は、帽子をかぶっていた。形状としてはシルクハットに似ているがかなり小さい。どうやって固定しているのだろうか。体にたすき掛けにしているものは、高度な技術で縫製されたもののように見えた。他にも全身に様々な装飾品を身に着けている。

 ふざけたことに、テーブルを覆うように設置されているのは日よけらしい。パラソルに似ている。

 そこまで観察した遥は、ひとつの判断を下した。

 これは、重力下。惑星上で発展したある種の儀式。お茶会だ。恐らく。

 そして、この無重量空間。巨大な羊たち。明らかに人間とは異なる生命体。先ほど繰り広げられた映像。

 間違いない。ここは宇宙。

――――私は、異星人の宇宙船、あるいは宇宙建築物にいるのだ!

頭が変になりそうだ。つい数時間前(主観でだが)まで、三宮で牛丼を食べていたというのに。

 だが、ひとつ確かな事がある。

 相手は、名乗った。少なくともこちらに理解できる形で自己紹介を行った。

 だから遥は、名乗り返した。

「私は、地球人。角田遥。お招きいただき感謝する」

 さらには一礼。意図が伝わるかどうかは分からぬが。

 眼前のもふもふは、奇妙な重低音を出すと目をしばたかせた。首が胴体に埋まっている彼らは、そうやって表情を作るのだろうか。

分からないことだらけ。

 しかし、どうにもむず痒い。尻が敷物に吸着されているからだった。服が欲しかったが、この相手に要求したところで着衣の概念があるかどうか。

 と。

 眼前の彼。毛玉は、両手をぽふん、と打ち鳴らした。

たちまちのうちに視界の外。巨大羊たちの影からやって来たのは、何やら箱型の機械。マジックハンドを備え、上に何やら荷物を載せたそいつはテーブルに横付けすると、積み荷を手早く並べ、そして去って行った。

 遥にもそれが何か、見当がついた。

 宇宙食の類。テーブルに吸着した四角い皿の中に入っているのは、色とりどりのこれまた四角い食品。寒天のようなもので固められているのだろうか?そして、脇に置かれたボトルから伸びているのはストローに見えた。至れり尽くせりである。

 対面に座った毛玉を見てみれば、彼は手本を示すかのように自分の前のそれを食べ始めた。

食べろ、という事だろう。

 赤色巨星の中にコロニーを作るようなひとびとである。こちらの生命構造を読み取り、摂取できる食料を用意したに違いない。

 遥は覚悟を決めると、備わっていたフォーク(スプーンにも見える)を手に取った。

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